【アソビの遺伝子】「クリエイターが制作に専念できる環境を」プロダクトテクノロジー部・山田裕司<前編>

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【アソビの遺伝子】「クリエイターが制作に専念できる環境を」プロダクトテクノロジー部・山田裕司<前編>

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のグローバルな開発ネットワークとして、世界に16の拠点を持つワールドワイド・スタジオ。その中でも初代PlayStation®時代からユニークなタイトルを発信し続けているのがJAPAN Studioだ。

そんなJAPAN Studioの現場クルーの生声を通して、”ゲーム制作の今”を深掘りしていく連載企画「アソビの遺伝子」。今回はあの「サルゲッチュ」シリーズの制作にも深く関わった、プロダクトテクノロジー部・山田裕司に話を訊く。

理想のクリエイティブ環境をサポート

山田裕司(やまだ・ゆうじ)
テクニカルディレクター

<主な担当作品>
・『サルゲッチュ』
 (PlayStation®用ソフトウェア/1999年発売)
・『サルゲッチュ2』
 (PlayStation®2用ソフトウェア/2002年発売)
・『サルゲッチュ3』
 (PlayStation®2用ソフトウェア/2005年発売)
・『フリフリ! サルゲッチュ』
 (PlayStation®3用ソフトウェア/2010年発売)

――まずは、現在の山田さんの職種について伺います。

今は、プロダクトテクノロジー部の次長をやっています。

――具体的にはゲームづくりの中でどのような役割を?

業務範囲はとても広くて、いわば”ゲームそのものじゃないところを全部やる”ことです。共通のエンジンやツール、ライブラリを用意したり、ワールドワイド・スタジオの海外のスタジオやハードウェア部門などとコミュニケーションしたり。

ゲームクリエイターがゲームづくりに集中できるよう、その他のことを整えるのが我々の仕事です。

――山田さんは「サルゲッチュ」シリーズなどに深く関わっていたとのことですが、それはいつごろから?

初代『サルゲッチュ』からです。以降、ナンバリングタイトルの全てと、あとはPlayStation®Move専用の『フリフリ! サルゲッチュ』などに携わりました。

僕は1996年に大学を卒業してすぐSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント/現SIE)に入社したんですが、当時SCEでは内部でのゲーム制作をこれからやろうとしていた時期でした。だから経験者は少なくて、みんな初めてゲームをつくるという人ばかりだったんですけど、『サルゲッチュ』はそうした人たちがまったく無の状態から「ああしよう、こうしよう」と楽しみながらつくっていた思い出があります。まるで仕事じゃないかのように。

『サルゲッチュ』(PlayStation®用ソフトウェア/1999年発売)

『サルゲッチュ2』(PlayStation®2用ソフトウェア/2002年発売)

『サルゲッチュ3』(PlayStation®2用ソフトウェア/2005年発売)

『フリフリ! サルゲッチュ』(PlayStation®3用ソフトウェア/2010年発売)

――ゲームの文脈とは別の人々がつくったから、あのような独特のタイトルになったと。

そうですね、ゲーム制作に慣れた現場だと、”網でサルをつかまえる”なんて企画を持っていった時点で「待て」っていうことになったでしょうね(笑)。

ピポサルのキャラクターについても、企画当初はもっといかついゴリラみたいな敵を相手に戦うゲームを考えていたんですが、あるとき一人のデザイナーが突然ひらめいたらしく、開発チームをみんな集めていきなり「これはサルを捕まえるゲームです」と宣言しまして(笑)。

ではどんなキャラクターにすれば”捕まえたくなる”だろうと考えて、小憎らしい等身大のサルが暴れ回るというゲームシステムが固まった。ゲームとしてのロジックが決まったとき、それを最も活かせるキャラとしてピポサルが生まれたわけですね。

突然のひらめきや思いつきが制作の流れを変えることは、かつてはよくありました。現在はそういうことが頻発すると支障も出てくるんですが、それでもひらめきは大切です。特に開発初期の段階においては。

――なるほど。山田さんご自身は、SCEに入られる前は特にゲーム関連は意識せず……?

子供のころからゲームは好きで、プログラムをかじってつくってみたこともあります。小学校の卒業文集に「将来はゲームクリエイターになりたい」って書いてたくらいですから(笑)。8ビットパソコンが家庭に出回り始めた時期です。

――ちょうどいわゆるマイコンブームのころですね。

ええ。その後、高校・大学になると普通の学生生活を送っていて、大学時代には情報工学専攻でOCR(光学文字認識)技術を研究していたんですが、いざ就職となったときにちょうどSCEがPlayStation®を出したころで、ゲーム制作の部署を志望したらうまく入れたと。

――そのころの開発現場の雰囲気はどんなものだったでしょうか?

僕は他の会社を知らないので比較はできませんが、本当にこれが仕事なのかと思うくらいみんな楽しんでゲームをつくっていましたね。今だと発売日などもすごく意識して作業するわけですが、当時はそういうのはあまり考えず、純粋に面白いゲームをつくるための議論を繰り返していました。

――自由な環境だったんですね。

それでいて、仕事がノってくると納期が迫ってるわけでもないのに夜中まで作業したり。大学の研究室の雰囲気に近かったと思います。

――そういう風土というのは今のSIEJAPAN Studioにもありますか?

もちろん現実問題としてコストや納期などは考慮しなくてはならないんですが、根本的なところでは受け継がれていると思います。

――これまでのSCEからSIEに至るお仕事の中で会心のエピソードはありますか?

「うまくいった」といえばやはり『サルゲッチュ』で、単にソフトとしての完成度だけでなく、DUALSHOCK®専用という中でハードウェアのチームともうまくまとまってつくることができました。

「職人集団」としてのJAPAN Studio

――現在の山田さんはゲームづくり全体を俯瞰的に見る立場だと思うのですが、その目線からJAPAN Studioはどのような集団だと感じていますか?

一人一人が長くゲームに携わっているので、”職人”の集まりだというところがありますね。指示がなくても、各々がゲームをより良くしようと動いてくれる。

――山田さんご自身はそうした全体を見る仕事が向いているとお考えですか?

もともと僕も技術者なので、自分の仕事に注力したいタイプではあります。でも個人でできることにはやはり限界があるし、ゲームの完成度を上げるためには誰かがハンドルしなければならない。ですから、今の「プロダクトテクノロジー部」という部署にもやりがいを感じています。

ただ、まあ、両方やりたいかな、という気持ちはありますね(笑)。実際、全体を見つつ個々のタイトルのサポートも、プログラムを組んだりしてやっていますけど。

――海外のスタジオと比べて、JAPAN Studioが特別だと思うところはありますか?

JAPAN Studioがほかと違うところ……クリエイターより”オタク”かな(笑)。海外のクリエイターはもっとオープンで社交的な人が多いんですけど、日本のクリエイターは趣味、趣向を追求する人が多くて、そこには深いこだわりがある。”永遠の子供”とでもいいましょうか(笑)。

――ゲーム業界には、ゲームをつくることが義務になってしまって、昔の純粋なゲーム愛が薄れてしまった人もまれにいます。そんな中で、ゲームを好きであり続けるコツというのはあるでしょうか。

うーん、難しい質問ですが、僕個人の話をさせていただくと、ゲームのプレイが面白いかどうかはもちろん、それがどうやってつくられているのか、どういう技術が使われているのかというのにも興味があって、そういう多面的な見方がゲームを好きであり続けることにつながっているんだと思います。

僕の最初のきっかけはやはり小学生時代で、8ビットパソコンのものすごく非力なスペックの中で、誰もこれはできないだろうと思っていたアーケードゲームが遊べることができたときの驚きが自分の根っこにあるんだと思います。

――現在はハードがどんどん進化して、どんなことができてもあまり驚かなくなってしまいましたが、そんな時代でもゲームづくりにはやはりここが大事だという芯のようなものはありますか?

制作環境が変わっても、ゲームをより良くするための追求は終わらないんですよね。そこは変わらず面白いし、同時にそれをどこまでやるか、言わば”止めどき”の見極めも大切だと思います。

昔のSCEはそれこそ止めどきがわからずに、ずっとつくってるというところがありましたね(笑)。今はさすがに現実的な線引きが必要ですが、製品クオリティに充分達していても、まだ追い込んでいくっていう姿勢は変わらずにあります。

【後編へ続く】

とことんまでエンタテインメントの追求を続けるJAPAN Studioの職人気質。後編では引き続き山田氏に、ゲームづくりに必要なキーワード、そしてJAPAN Studioのこれからの目標を訊く。お楽しみに!

©1999 Sony Interactive Entertainment Inc.
©2002 Sony Interactive Entertainment Inc.
©2005 Sony Interactive Entertainment Inc.
©2010 Sony Interactive Entertainment Inc.

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