PS VR2『Before Your Eyes』プレイレビュー！まばたきによって展開される、主人公の記憶をたどる感動のストーリー

PlayStation®VR2専用タイトル『Before Your Eyes（ビフォア・ユア・アイズ）』は、魂が死後の世界へと旅するストーリーが語られる一人称視点のアドベンチャーゲーム。プレイヤー自身の「まばたき」を使った、革新的なインタラクションが特徴だ。

ストーリーは、主人公の死後、さまよう魂を死後の世界へと誘う謎めいた船に乗ったところから始まる。無事に死後の世界へ行くには、船頭であるフェリーマンに人生のストーリーを伝えなければならない。そしてフェリーマンは、あなたを人生の大事な瞬間へ送り、記憶を取り戻させることになる。

なお、本レビューではストーリー中盤までの大きな流れに触れている。少しのネタバレも見たくないという方は、今すぐこのページから離れ、自分自身で物語を体験してほしい。

『Before Your Eyes』ローンチトレーラー

PS VR2『Before Your Eyes』プレイレビュー！まばたきによって展開される、主人公の記憶をたどる感動のストーリー

CHECK POINT①
プレイヤーのまばたきで操作する革新的インタラクション

本作は、プレイヤーのまばたきで操作するアドベンチャーゲームだ。PS VR2の高度な視線トラッキング機能が視点とまばたきを検知し、ポイントクリックのように操作することができる。一度ゲームをスタートすれば、コントローラーからは手を放してしまってもかまわない。

まばたきによる操作の種類は、大きく分けてふたつある。ひとつは、目のシンボルに視点を合わせてまばたきする方法で、シチュエーションによってさまざまなインタラクションができる。暗くて見えなかった空間が明るくなって視界が開けたり、行動の選択肢を選んだり。絵のモチーフを選んでキャンバスに描いたり、被写体をフレームに収めて写真を撮ることもできれば、視点だけを動かしてピアノを弾いたり本のページをめくったりすることもできる。下のプレイ映像は、一見するとよくあるポイントクリック操作のようだが、実際はどちらも視点移動とまばたきだけで操作しているものだ。

まばたき操作のもうひとつは、メトロノームのシンボルが表示されているときにまばたきすることで、次のシーンへ進むというもの。メトロノーム表示中は、会話の途中であっても、まばたきをすれば次のシーンへと移行する。これはただのシーンスキップ機能ではなく重要な意味を持っているのだが、詳細は後述するとしよう。

本作の主人公は魂だけの存在になっていて、生前の記憶をひとつずつたどっていく。だから、記憶の中では移動できないし、手足を自由に動かすこともできない。プレイヤーができることは、魂の意思を目の動きで表現するだけだ。そして目を瞑り、再び開いたときに見えるのは、数秒後かもしれないし数年後かもしれない次の記憶。まばたきだけで操作する本作の革新的なインタラクションシステムは、プレイヤーを主人公の魂と同調させ、まるで自分の記憶として体験しているような没入感を味わえるようになっているのだ。

CHECK POINT②
喜びと悲しみが交差する主人公の人生を追体験

本作で描かれるのは、主人公であるひとりの男の人生だ。ゲーム開始時点ですでに亡くなっており、暗い海を漂っていた彼の魂は、犬か狼のような姿をした船頭のフェリーマンに掬い上げられる。魂が死後の世界へ無事にたどり着くには、門番の審判を通過する必要があり、フェリーマンは言葉なき魂の代弁者になってくれる。もっとも、フェリーマンには、審判を通過させた報酬として大金を手にする目論みがあるようだが……。かくしてフェリーマンは魂の情報を知るべく、主人公を人生の大切な瞬間へと送り、記憶を取り戻させることになる。

最初の記憶は海辺の景色。母親と思われる女性の優しい歌声が聞こえる。次の記憶は1歳の誕生日だろうか。主人公の名前はベニー。誕生日の記念に小さな手形が押され、母のエルは毎年の誕生日に手形を押していこうと提案し、父のリチャードは上機嫌でホームビデオを回している。とても穏やかで、幸せそうな光景だ。

そうして新しい記憶を見ていくたび、最初は全く情報のなかったベニーと家族の暮らしが明らかになっていく。作曲家のエルは、いつもピアノを弾いてベニーに聴かせてくれた。リチャードはかわいい猫を家族の一員として連れてきてくれた。

ある日、ベニーがピアノを弾いてみせた。それはまだ教えてもいないエルの曲だったから、エルはベニーに音楽の才能が秘められていると信じ、英才教育を施し始める。エルは作曲家として成功できなかった自分の夢を、ベニーに託したようだ。エルの指導は厳しかったが、ベニーは期待に応えようと懸命に練習した。一方のリチャードはのびのび育ってほしいと考えていたようで、カメラやテレビゲームをプレゼントしてくれた。

友達もできた。隣の家に引っ越してきたクロエは気さくに接してくれて、内気なベニーも自然と彼女を受け入れていく。もしかしたら、これはベニーの初恋だったのかもしれない。

人生には、いいこともあれば悪いこともある。逆もまた然りだ。ベニーは有名な音楽学校の入学試験に落ちてしまう。しかし、ベニーには音楽とは別の才能があった。小さな頃から親しんでいた絵画の才能が、音楽の挫折を経て開花する。そして国際的な画家として大成したベニーは、家族をテーマにした傑作を生み出すことになる。

まばたきをするたびに進む記憶の数々は、ベニーという男の人生でありながら、いつしか自分のことのように感じるようになっていく。淡い初恋にもどかしくなったり、親の期待を重圧に感じたり、意見が合わない両親の言い争いに怯えたりと、心を揺さぶられ共感する瞬間があるだろう。また、重大な選択肢の選び方によっては展開が変わることがあるため、物語をただ眺めているだけではなく、能動的な体験であることも没入感を高めている一因だろう。

CHECK POINT③
すべての記憶を見続けられるとはかぎらない。まばたきに隠された真実とは？

前述したように、メトロノームのシンボルが表示されているときにまばたきをすると、次の記憶のシーンへと進む。つまり、本作ではまばたきがシーン移行のスイッチになっているわけだが、そもそもまばたきとは人間の生理現象だ。日常で意識的、あるいは反射的にまばたきするよりも、無意識にまばたきしているほうが圧倒的に多い。だから本作のプレイ中は、「次に進める」ために意識してまばたきしたのではなく、続けて見ようとしても無意識にまばたきをして「次に進んでしまった」ことがほとんどだった。

私は当初これを、まばたきシステムの欠陥だと捉えていた。夜のビーチでクロエとロマンティックな雰囲気になっていたのに、ぶつ切りで次の記憶に飛んだときは特にそう思った。初恋の相手の言葉は最後まで聞きたいに決まってるじゃないか。開発者だって、せっかく作ったシーンを最後まで見てほしいはずなのに。

▲まばたきを我慢できず、初恋の少女の言葉を聞き逃した瞬間。

しかし、システムの欠陥だと思っていたのは間違いだった。ストーリーを終盤まで進めると、まばたきが人間の生理現象であり、目を見開き続けるには限界があることを巧みに利用したシステムだと気づかされた。

記憶をたどり終えて最初の船に戻り、いよいよ審判を受けようとするとき、フェリーマンは言った。「何か酷いことを恥じてるな。まばたきで忘れ去ろうとしている。最初からやり直しだ。今度こそ本当のことを言え」と。そして再び記憶の中に入り、前回は不明瞭に終わったシーンで目を開き続けることを強いられる。そこで語られるベニーの本当の人生は、ぜひ自分の目で確かめてほしい。