PS VRのマニュアルが「日本マニュアルコンテスト」総合部門W受賞! 追求したのは"新しさ"と"わかりやすさ"

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PS VRのマニュアルが「日本マニュアルコンテスト」総合部門W受賞! 追求したのは"新しさ"と"わかりやすさ"

わかりやすくて新しい! PS VRのマニュアルが「日本マニュアルコンテスト」総合部門の部門最優秀賞と企画賞をダブル受賞!!

「日本マニュアルコンテスト」は、一般財団法人テクニカル コミュニケーター協会が主催し、日本国内のマニュアル(取扱説明書)を審査・表彰するコンテスト。PlayStation®VRクイックスタートガイド/装着ガイド/取扱説明書が、「日本マニュアルコンテスト 2017」一般総合部門 部門最優秀賞と企画賞をダブル受賞! 10月4日(水)に開催される「マニュアル オブ ザ イヤー 2017」にもノミネートされました。

クイックスタートガイドは、PS VRの接続方法を示した大判のブックレット。装着ガイドは、”紙”ではなく画面上に表示されるマニュアルで、PS VRの電源を入れたあと、装着・設定方法をナビゲートする役割を果たす。取扱説明書は、使用上の注意やお手入れ方法などを記した小冊子です。

3種類のマニュアルを制作したのは、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)コーポレートデザインセンター コンテンツマネジメントグループの冨村美穂、斉藤仁美、高橋暁野。同課課長の渡辺智明、グローバル商品企画部1課担当課長のPS VR担当である高橋泰生を交えて、マニュアルのコンセプト、制作の裏側について聞きました。

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▲左からSIEコーポレートデザインセンター コンテンツマネジメントグループ 渡辺智明、同グループ ドキュメントデザインチーム 高橋暁野、冨村美穂、斉藤仁美、グローバル商品企画部1課 高橋泰生。

ハードの設計と同時進行だからこそ、柔軟な発想でマニュアルを作れる

――コーポレートデザインセンター コンテンツマネジメントグループは、どんな部署でしょうか。

渡辺:主にプロダクトのコミュニケーションデザインを担当しています。具体的には、ハードや周辺機器の使い方を説明するマニュアル、製品パッケージの構造やデザイン、新製品を告知するWebサイトの制作などを行なっています。

冨村:私たちドキュメントデザインチームの3名は、マニュアル制作を担当しています。3人それぞれで担当は分かれていますが、みんなで意見を出し合って制作しました。

――高橋(泰)さんが在籍するグローバル商品企画部1課とは?

高橋(泰):SIEではあらゆる商品やサービスを提供していますが、その中でも1課はハードウェア周りが担当で、私自身はPS VRの仕様を取りまとめています。機能やスペックといったハードウェアの企画を担当するだけでなく、箱などのデザインを含めて「この商品はこうあるべき」という商品性全体について取り仕切っています。

渡辺:いわば総監督ですね。

――今回、PS VRのマニュアルが「日本マニュアルコンテスト」でダブル受賞を果たしました。まずは、マニュアル制作の流れを教えてください。

冨村:はじめにマニュアル企画書を作成するところからスタートしました。

商品企画や設計から、ターゲットユーザーや商品性、製品概要などを聞き、それをどのようにしてお客様に伝えていくべきかを検討しました。

その後は、安全規格や法律関係などさまざまな部署とも調整しながらマニュアル制作を進めていきました。

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――PS VR本体の仕様が決定する前から、マニュアルの制作がスタートするんですね。

冨村:そうなんです。抜けているページもありますが、その時点でわかっている範囲内で制作を進めていきます。それを関係部署にチェックしてもらい、時には開発スタッフも含めてみんなで集まって読み合わせをしながら、細かい調整をしていくんです。もちろん、制作中に「こういう仕様を予定していたけれど、変更した」という部分も出てくるので、その都度修正をしながら。こうしたやりとりを締め切りまで延々続けます。

――PS VRの開発初期から、足並みをそろえて制作してきたんですね。

渡辺:一般的に、マニュアルはある程度製品ができてから作るものです。でも、我々はかなり早い段階から製品情報をシェアし設計側と同時進行できます。その分作りやすいですね。

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――同時進行すると、どのようなメリットがあるのでしょう。

渡辺:ハードウェア本体やパッケージとあわせて、全体像を見ながらマニュアルを考えることができます。例えばPS VRでは、箱を開けてすぐのところにクイックスタートガイドを入れています。このクイックスタートガイドは、「スタートガイド」という役割とともに「パッケージデザイン」の一部としての役割も担っています。製品パッケージが先にできあがっていると、このような発想はできません。設計や商品企画のみなさんとコミュニケーションを取りながら企画・制作したからこそ、実現できたことだと思います。

冨村:購入した方は、まずVRヘッドセットをかぶりたいと思いますが、かぶる前に必要なケーブル類をすべて箱から出して正しく接続していただかなければヘッドセットには何も映りません。そのためにも、クイックスタートガイドをいちばん上に、ヘッドセットをいちばん下に入れました。

「Next Perception」を目指したものの、ユーザーテストの結果は…

――PS VRのクイックスタートガイドを作るにあたり、最初に打ち出したビジョンを教えてください。

冨村:PS VRはゲーム体験を大きく変える製品です。今まではテレビに映し出されたゲーム画面を見ていましたが、PS VRではバーチャル空間に入り込んだ状態でプレイします。そのため、マニュアルも新しいものにしたいという思いがありました。

私たちはデザインの部署に所属しているため、マニュアルだけではく、パッケージや画面などを含めたVR全体のデザインについて、デザイナ-主導でビジュアルコンセプトを考えました。そこで生まれたのが「Next Perception」というテーマです。このテーマに基づき、さまざまなプロトタイプをデザイナーと考えました。

とはいえ、PS VRには付属ケーブルがたくさんあり、確実につないでいただかないとプレイできません。PlayStation®4のHDMIケーブルを差し替えるといった手順もあり、どのように誘導すべきか大きな課題となっていました。重要なのは、新しさを表現しつつ、接続方法をわかりやすく提示すること。そこでまず考えたのが、テキストをなくし、マップ形式で接続方法を示す案でした。

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▲1枚のイラストで接続方法を提示する、マップ形式のプロトタイプ。文章を極力なくし、図と英数字だけで手順を示している。

冨村:マニュアルでVR空間を表現するにあたり、デザイナーから奥行きをイメージさせる六角形のアイディアが出たり、いろいろなプロトタイプをデザイナーと一緒に考えていきました。

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▲現在の接続図の元になったイメージ。

――完成形とは全く違うマニュアルだったんですね。

冨村:そうなんです。最初の転機はユーザーテストでした。商品企画がロンドンでPS VRのユーザーテストをすることになり、「マニュアルのテストもしたい」とお願いし、私も現地に行きました。そしてマップ形式の接続マニュアルをテストしてもらったのですが、全くつないでいただけなくて……。2チームに分かれてテストしたところ、片方のチームではどなたも正しく接続できませんでした。

――冨村さんは、現地でその光景を目の当たりにしたわけですね。

冨村:針のむしろでした……。そこで、4日間のユーザーテスト期間中、マニュアルをブラッシュアップすることに。日本にいるスタッフに「今日はここが原因でつまずく方が多かった」と報告し、次のテストまでに改善してもらい、翌日は新しいマニュアルでテストにかけました。

高橋(暁):通常はすべての参加者に対し同じものを使ってテストするのですが、あまりにも結果がひどかったので……。同じマニュアルでテストをしても意味がないので、日本とロンドンの時差を利用して改善案を次々に作りました。

斉藤:最初は箱と同じような色の説明書を、箱に貼っていました。でも、それでは誰も注目してくれず、色を変えたんですよね。

高橋(暁):説明書を置く場所も変えて、テストしてもらいました。

冨村:さまざまな改善案のテストを行い、最終的には80%以上の方がつなぐことができるようになりました。

――どのような点を変えると、わかりやすさが増すのでしょうか。

冨村:例えば、言い回しを変えるだけでもわかりやすさが向上します。PS VRは、PS4®に接続しているHDMIケーブルをプロセッサーユニットに差し替えねばなりません。その際、「差し替える」=「Switch」という言葉を使っていましたが、それではダメでした。そこで、「抜く」=「Unplug」という表現を使ったところ、多くの方に「ああ、一度抜いて、別の機器に挿すんだ」と気づいていただけました。やはり、せっかくつながっているケーブルを一度抜くのは勇気が要るんですよね。最初は文章なしで図だけで表現したかったのですが、文字も残しました。

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1ページ1ステップで手順を解説、ケーブルにタグをつけ、誰でも接続できるよう工夫

――ユーザーテストを乗り越えたものの、「これで完成」とはなりません。テストの段階ではマップ形式でしたが、完成版はひとつひとつ手順を示すステップ形式になっています。なぜこのような大きな変更が生じたのでしょうか。

冨村:ユーザーテストで約80%の方につないでいただけたので、マップ形式のまま進めようと思っていました。でも、「本当にそれでいいのか」とさまざまな部署から意見が出たんです。そこで日本国内のSIE社員を対象に、社内ユーザーテストを実施しました。マップ形式とステップ形式を試しましたが、ステップ形式のほうが確実につないでいただけるという結果に。

ステップ形式は今までのマニュアルと同じようなスタイルですから、新しいチャレンジにならないのではないかと悩みました。ずっとマップ形式で制作を進めていたので、変更するには勇気も必要でした。ですが、ステップ形式はひと目でわかるんですよね。マップ形式はつなぎ忘れが多いため、やはりひとつずつ手順を追って説明するほうが確実だと思いました。

――きちんとつなげるかどうかを優先したんですね。

高橋(暁):PS VRを購入する方は、一刻も早くVR体験をしたいはずです。でも、接続手順がたくさんありますし、間違えるとさらに時間がかかってしまいます。それではユーザーのみなさまにとって良くありません。ひとつひとつ確実につなげば、結局はそれがVR体験への近道になるはずだと考え、当初の方針を変えることにしました。そのうえで、たくさんの情報を一気に提示するのではなく、1ステップずつ必要な情報だけ示すことにしたんです。

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斉藤:1ページ1ステップという構成にしたのにも意味があります。私もそうですが、一度にたくさんのことをするのは難しいんですよね。1ページにふたつ以上のステップを掲載すると、どうしてもつなぎ忘れが生じてしまうため、この構成にしました。

――実際、このクイックスタートガイドを見ながら接続しましたが、スムーズに最後までつなげました。機器のケーブルに番号がついているのも、わかりやすいですね。

斉藤:ユーザーテストでもタグがいちばん人気でした。

高橋(泰):実を言えば、「なんでこんなものがついているの?」と最初は抵抗を感じました。とはいえ、いちばん大切なのは、みなさまに間違えずにつないでいただくこと。社内テストでも、「自分は機械に詳しいから大丈夫」「マニュアルなんてなくてもつなげる」と思っている人に限ってハマっていました(笑)。そのため、1ページごとにステップ バイ ステップで細かく説明し、ケーブルにタグをつけることで、確実に接続できるところまで持っていきました。

渡辺:デザインにも気をつかい、ケーブルによってタグのサイズも違います。

斉藤:開梱した時に見落とされないものでありつつ、主張しすぎないようにしました。接続時に間違えないよう、つなぐ時にタグが手元に来るようにもしています。一度接続したらタグが不要になるので、取り外しやすさにも気をつかいました。

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▲ケーブルには番号の振られたタグがついており、この番号を見ながら接続できる。接続後はタグの取り外しも可能だ。

――あとどれだけの手順が残っているのか、ページの下に〇で表示されているのもわかりやすいですね。

斉藤:デザイナーのこだわりです。機器の図も各ページで同じ位置に配置し、完成図ができあがっていくようなデザインになっています。

冨村:どう配置すべきか、複雑な接続をいかにシンプルに見せるか、デザイナーも頭を悩ませていました。検討を重ねた結果、斜めから見たような新しい見え方になっています。「Next Perception」から生まれたVR空間の奥行きを意識した図です。

高橋(泰):これだけ大きなサイズのマニュアルを作ったのも、初めてですよね。箱を開けたら最初にクイックスタートガイドを開き、1ステップずつ順番に接続していく。VRという新しい体験に、誰でも間違いなく入れるガイドになったのではないかと思います。

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――クイックスタートガイドで機器を接続したあとは、画面上の装着ガイドを見ながらVRヘッドセットの装着・設定を行ないます。こちらの装着ガイドについてお聞かせください。

冨村:VRヘッドセットを装着すると、もう紙のマニュアルを見ることはできませんよね。そこで、媒体を分けるべきだと考えました。

斉藤:今までにない取り組みでした。クイックスタートガイドにしたがって電源を入れたあと、スムーズにこちらに移れるようなインターフェイスデザインにしています。

冨村:とはいえ、私たちが心配していたほど、誘導は大変ではありませんでした。やはり、電源を入れたらテレビ画面がつき、視線がテレビに行くのが自然な流れですからね。それに、画面を使うことで、文字で読むよりわかりやすくなったと思います。ヘッドセットの仕組みはシンプルですが、スコープを引き出す操作などは文字だけで説明するのが難しいんです。パラパラ漫画のようにイラストをコマ送りして解説したところ、伝わりやすくなりました。

▲画面上で見る装着ガイド。コマ送りされるイラストによって、装着方法をわかりやすく説明している。

冨村:画面に表示される文章は別の部署で担当していますが、できるだけシンプルにしてもらっています。多言語に翻訳されるので、日本語ではひと言で表現できても、ほかの国では説明が長くなる恐れがあります。パラパラ漫画形式を取り入れることで、説明を短くできたと思います。

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箱を開け、接続するところからワクワクしてほしい

――今回のコンテストで受賞したのは、どんな点が評価されたからだと思いますか?

冨村: PS VRには「新しさ」というテーマがあり、なおかつ接続方法を「わかりやすく」示すという課題がありました。そのふたつを満たしたことを評価していただけたのかなと思います。

PS VRを購入した方は、箱を開ける段階からワクワクしているはずです。私たちとしては、その気持ちを持続させつつ、VRの世界へ1ステップずついざなったつもりです。「接続できなかった」「まだダメなの?」と負担を感じることなく、モチベーションをキープしながら楽しんでいただけたらうれしいです。

――マニュアルを制作するうえで大切にしていることはありますか?

斉藤:マニュアルを読まなくても、正しくお使いいただけるのであれば、それに越したことはないと思います。紙のマニュアルはお客様の手に届きやすい媒体ですが、読まれないことが多いのも承知しています。とはいえ、やはりうまく接続できないこと、正しく使えないことはあるでしょう。なにかの時に手助けできれば、と思いながら日々制作しています。

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高橋(暁):ユーザーのみなさまにこれでわかっていただけるだろうかと、いつも気にかけています。製品ごとにコンセプトは違いますが、困った時に助けられるように、少しでも読みやすいようにと、いろいろ工夫しながら制作を行なっています。

――最後に、PlayStation®ユーザーに向けてメッセージをお願いします。

渡辺:家電製品を購入した際、機器を設置して、コードを接続して……というセッティングの過程は苦痛に感じますよね。そのため、マニュアルも苦痛なもの、読まなければいけないものと捉えられることが多いようです。でも、我々は「マニュアルを開いて接続するところから楽しんでほしい」というポリシーがあります。特にゲーム機、周辺機器を購入した方は、箱を開けるところからワクワクしているため、使用前の準備でテンションを下げたくありません。ゲームをプレイするまでの楽しみを高める素材として、マニュアルを提供できるといいなと思いながら日々頑張っています。ユーザーのみなさまが今後PlayStation®製品を手にされる際、マニュアルに対するこだわりも感じ取ってもらえたら非常にうれしく思います。

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