
※本記事は英語版PlayStation®.Blogの日本語翻訳記事です。
『Ghost of Yōtei』はSucker Punchが愛情を注いで作り上げた作品です。こうして世界中の皆さんに楽しんでいただけていることを嬉しく思っています。すでに多くの方にプレイしていただいている、本作を支える技術面についてご紹介したいと思います。
私たちは、『Ghost of Tsushima』で得た経験を活かし、『Ghost of Yōtei』では手つかずの自然のなかで感じる“自由”を、より強く表現することを目指しました。そのためには、プレイヤーを自然に誘導する演出、美しく奥行きのある背景、より自由度の高い戦闘、個性豊かで印象に残るキャラクター、そして感情に訴えるストーリーテリングを追求する必要がありました。優れたフレームレートを維持しつつ、これらをすべて実現するのは明らかに大きな挑戦でした。
それでは、『Ghost of Yōtei』の開発で活用した技術をいくつか詳しく見てみましょう!
大自然をさまよう
自由な探索というビジョンを実現するにあたって、私たちはプレイヤーが美しい景色を見渡し、好奇心のままにゲームをプレイできるということが最も効果的であると考えました。技術的には、その感覚を創り出すために、より遠くまでの見通し、――つまり草原や地形、山々の遠景といった背景情報を高品質に描き出す必要がありました。
遠くの山々をよりリアルに表現するため、モデルや詳細な地形の素材を高精細なテクスチャに埋め込みました。また、GPUコンピュートレンダラーが生成できる草や対象のアイテム数を2倍に拡張しています。このシーンでは、山々に存在する100万を超える木々や、岩、茂みを約6万個の個別アイテムに絞り込んでレンダリングし、Gバッファが最終的なイメージを構築しています。
私たちはプロシージャル生成を活用した制作技法を用いて、GPUコンピューティングに頼ることで、CPUの関与なしにこれらのインスタンスをすべて効率的に処理しています。これには、オクルージョンカリングやメモリ割り当て、描画レコードの入力を作成するといった一連の計算ジョブが含まれます。その後、CPU側で情報を読み戻して統合し、フレームの最終コマンドリストを構築します。こちらは同様のシーンを示したアニメーションで、GPUで描画されたすべてのジオメトリが所定の位置に配置されていく様子をご覧いただけます。スケールの大きさを感じていただけると思います。これらの技術はランタイム生成データにも応用されており、広大な花畑はもちろん、ロープやチェーンのような要素にも使用されています。
各エリアに固有の雰囲気を持たせるため、それぞれのテーマを際立たせるインタラクションシステムを構築しました。ワールドの大部分には草や小さな植物が生えていますが、風やキャラクターの動きによる変化に加えて、武器の軌跡を“カットバッファ”にレンダリングするシステムを追加しました。このバッファはカット可能なジオメトリによってサンプリングされ、カット面上のジオメトリからパーティクルを発生させます。これにより、篤はゲーム内の草や花、小さな植物を実際に刈ることができるようになりました。
北海道は日本でも特に厳しい冬が訪れる地域です。そこで、私たちはキャラクターが深い雪とどのように関わるかをリアルに表現することを重要視しました。そのために、地形によって表現されるディテールを高めると同時に、ランタイムに動的に変形させることができる地形テッセレーションシステムを構築しました。キャラクターが歩いたり、転がったり、戦ったりするたびに、パーティクルやジオメトリがディスプレイスメントバッファにレンダリングされます。このシステムは非常に柔軟で、木や茂みに積もった雪を振り落とす際にも応用され、雪のパーティクルを発生させることができます。これを、安定したスクリーンスペースノイズを利用した新しい雪のきらめき効果と組み合わせることで、以下のような表現が可能になりました。
羊蹄山のような高い山は、たびたび雲に覆われます。そのため、ワールド内のジオメトリより手前に雲を描画する新しい手法を考案する必要がありました。これは『Ghost of Tsushima』の開発エンジンでは実現できなかったものです。また、雲の移動速度を上げることで、天候が不安定で荒れているという印象を与えたいと考えました。不自然な処理結果を抑えつつ雲を高速で動かすため、カメラからの平均可視深度を各テクセル単位で雲マップに保存し、フレームをスクロールしながら視差マッピング技法を使用しています。さらに、2枚ではなく3枚の雲フレームをブレンドすることで、より滑らかな動きを実現しています。また、雲マップに可視深度の二乗平均値も保存することで各レイに沿った雲の不透明度の単純な統計的分布を再構築できるようになり、雲が山のようなジオメトリをどの程度覆うかを正確に計算できるようにしています。
『Ghost of Tsushima』では、アートスタイルを確立する上で霧や大気散乱が重要なポイントとなっていました。『Ghost of Yōtei』ではそれに加えて、局所的な霧を追加したいと考えました。この局所的な霧は、PlayStation®5の拡張されたFP16対応GPU命令によって効率的に計算されています。雲の最適化の副効果として、雲のライトスペースシャドウマップが計算されます。これにより、カメラから遠く離れていても薄明光線(ゴッドレイ)がボリューメトリックフォグに描き出されるようになりました。また、アーティストたちがワールド内に“ゴッドレイ・ターゲット”を配置できるようにし、雲の切れ間から光が差し込む演出をより頻繁に表現できるようにしています。
キャラクターと動き
私たちの重要な目標のひとつは、『Ghost of Yōtei』の世界を現実味あふれるものにすることでした。私たちは、キャラクターの衣服から武器の飾り、集落に吊るされた布など、画面上のすべてが風に揺れるようにすることを目指しました。転がり回って戦うときには土埃や葉が舞い上がり、キャラクターの体が泥や血にまみれ、プレイヤーがこの世界に没入できるようになっています。
篤の複雑な衣装がリアルに動くのは、高性能GPUコンピューティングのクロス(布)システムに構築した新しいレイヤリング機能のおかげです。複数の布のレイヤーをシミュレートできるだけでなく、布同士のコリジョン(衝突)にも対応し、綿密に調整されたヒューリスティックを用いることで、多数の布を効率的にシミュレーションしています。以下は、篤が複雑な衣装を身にまとい、揺れる布に包まれたシーンの一例です。
GPUパーティクルは、『Infamous Second Son』以来Sucker Punchの得意分野です。『Ghost of Yōtei』ではさらに進化を重ね、パーティクルが地形のマテリアルや変形、水の流れをサンプリングできるようにしています。例えば、このシーンではパーティクルが川面に落ち、流れていく様子を確認できます。
キャラクターが環境に影響を与えるだけでなく、環境からも影響を受ける――そうした双方向性によって、キャラクターをよりリアルに感じられます。そのために、キャラクターの周囲の変形した方向性グリッドへ情報をスプラッティングし、そのデータをもとに、濡れ・血・泥・雪などのテクスチャ効果を重ねています。
また、プレイヤーが過去に遡って篤の家族の物語を探索できるよう、パーティクルシステムを応用しています。過去と現在を切り替える際は、キャラクターの状態やアニメーションを維持したまま、篤のスケルトン(骨格)とジオメトリを変更します。背景やライティングも、SSDの高速処理と厳選されたプリフェッチのおかげで瞬時に変更されます。これは、トランジション直前のフレームバッファのコピーをサンプリングするアニメーションパーティクルの背後で、画面上では分からないように行なわれます。
レイトレーシングとPlayStation®5 Proの強化機能
PS5専用タイトルとして、私たちはプラットフォームの最新技術を活かし、さらなる画質の向上を目指しました。PS5 Proの発売を受け、今後のゲーム開発にもつながる方向性を模索しました。PlayStation®の技術チームからの確かな力強いサポートのもと、私たちはレイトレーシングとPSSRによる画像アップサンプリングというふたつの重要な分野に取り組みました。
『Ghost of Yōtei』の舞台は17世紀の北海道の大自然です。そのため、レイトレーシングによる反射に適した鏡のような表面はほとんどありません。代わりに、私たちはレイトレーシングを活用してグローバルイルミネーションソリューションの精度向上にに努めました。。これには、ふたつの方向からの取り組みがあります。まず、より自動化され、改良されたベイクドライティングモデルを使用することです。次に、これを短距離レイトレーシングによるグローバルイルミネーション(RTGI)で補強します。これには、メッシュストリーミング形式を大幅に変更する必要がありましたが、レイトレーシングハードウェアで使用されるアクセラレーション構造を動的に展開できるようになりました。PS5 Proのより効率的なレイトレーシングハードウェアを使用することで、プレイヤーはPS5 Proで60 fpsを目標にしたRTGIを有効にすることができます。
『Ghost of Yōtei』では、より汎用的な動的解像度アルゴリズムを使用できるようにフレームを再構築し、アップサンプリングも取り入れ、PSSRを活かせるようにしました。PSSRは、小さなパーティクルでも保守的なラスタライズを実行できるなど、わずかな調整で非常に良好な結果を出すことができます。一方で、従来のアップサンプリングアルゴリズムでは、より多くのチューニングやオーサリングの助けが必要でした。下の比較をご覧ください。GIF圧縮前の16倍拡大では、PSSRのほうが建築物や植生の細部をより正確に再現しており、動きのあるシーンでも安定した描画が保たれています。
ロード速度
長年にわたって、Sucker Punchはプレイヤーができるだけ早くゲームに没入できるよう努めてきたことを誇りとしています。『Ghost of Yōtei』でもその伝統を受け継ぎ、ロード時間のさらなる短縮を実現しました。
データを事前処理することでロードを最適化し、場所や地形タイルごとにわずかなSSD読み込みとパッチ処理だけでゲームプレイに必要なデータを展開できるようにしています。その後、要素ごとに1回の読み取りで、最初のフレームのレンダリングに必要なテクスチャミップとメッシュのLODだけを計算して読み込みます。以下は、画面がフェードアウトすることなく、はるか南からはるか北まで読み込んでいるところです。なお、ワールド全体を常に描画しているため、実際よりわずかに遅く見えます。
開発期間を通じて、私たちは実際にプレイされるゲームと異なるロード方式を使用するのではなく、自らのシステムを実際に使用して検証を重ねました。いわゆる”ドッグフーディング”です。これはプログラマー用語で、プログラマーやアーティスト、デザイナーが、自分たちがお届けするものを自らテストしながらその品質を向上させることです。
終わりに
ここで紹介したのは、Sucker Punchで行なっている技術的な作業のほんの一部に過ぎません。ゲーム制作というのはもっと大がかりです。これは、アートとテクノロジーが常にお互いを刺激し合う巨大なチームワークなのです。
5年前にこのプロジェクトを開始したとき、私たちの目標は「プレイヤーが迷い込むことを楽しめる世界」を作ることでした。技術的な判断の多くは『Ghost of Yōtei』の核となるテーマ“過去と向き合うさすらいの旅人”に基づいてくだされました。このビジョンが形となり、プレイヤーの皆さんがその体験をシェアして、フォトモードで撮影したゲームの素晴らしいスクリーンショットや動画を投稿してくださるのを見るのが、何よりの喜びです。
私たちはこの作品の仕上がりを大変誇りに思っています。そして、皆さんが『Ghost of Yōtei』の大自然での旅を楽しんでくれることを願っています。
Sucker Punchの技術や開発プロセスをもっと知りたい方は、GDCやSIGGRAPHでの過去のプレゼンテーションをご覧ください。2026年にはさらに多くの情報をお伝えする予定です。
この記事の編集と作成に協力してくれたJasmin Patry、Doug Davis、Eric Wohllaib、並びに、ここで私が代表して紹介した本作に関わるすべてのSucker Punchのスタッフに感謝します。
『Ghost of Yōtei』をPS Storeで購入する
Ghost of Yōtei(ゴースト・オブ・ヨウテイ)
・発売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
・フォーマット:PlayStation 5
・ジャンル:オープンワールド時代劇アクションアドベンチャー
・発売日:好評発売中
・価格:パッケージ版 希望小売価格 通常版 8,980円(税込)
パッケージ版 希望小売価格 コレクターズエディション 31,980円(税込)※
ダウンロード版 販売価格 スタンダードエディション 8,980円(税込)
ダウンロード版 販売価格 デジタルデラックスエディション 9,980円(税込)
・プレイ人数:1人
・CERO:Z(18才以上のみ対象)
※『Ghost of Yōtei』ゲーム本編(ダウンロード)およびデジタルアイテムのプロダクトコードが封入されています。早期購入特典が含まれます。
PS Blogの『Ghost of Yōtei』記事はこちら
©2025 Sony Interactive Entertainment LLC.Developed by Sucker Punch Productions.Ghost of Yōtei is a trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.









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