11月22日(木)に発売されるPlayStation®4用ソフトウェア『シェンムー I&II』は、1999年と2001年にセガから発売された「シェンムー」シリーズ2作品にさまざまな改善を施して、ひとつのパッケージにしたものです。
前回の特集記事では、物語のプロローグとなる『シェンムー 一章 横須賀』(以下、『一章』)を中心に、今から20年近く前にオープンワールド・アクションアドベンチャーゲームのパイオニアとして誕生した「シェンムー」が、どれだけ斬新なゲームであったのかを見てきました。
2回目となる今回は、舞台が中国の地に移った『シェンムーII』にスポットを当てて、シリーズの根幹となる武術を背景とした骨太なストーリーと、それを彩るキャラクターの魅力について考えていきたいと思います。
前回もご紹介したように『シェンムーII』では、『一章』の横須賀をはるかに上回る規模の香港市街を自由に探索することになります。さらにゲームの中盤以降で訪れる九龍城は、多数の住人が暮らす高層ビル街のため、探索のフィールドは縦方向へと広がっています。
無数の看板に彩られた香港の街で、主人公・芭月涼にはいったいどんな出会いが待っているのでしょうか?
見知らぬ異国の香港で、まず味わうのはお金の苦労!?
芭月涼の父である芭月巌は、その死の直前、涼に向かって「愛すべき友を持て」という言葉を残しました。父を殺した謎の男を追って、横須賀から香港へと旅立った涼は、この言葉の持つ重みを、異国の地で実感することになるのです。
香港に到着した直後に、涼はリュックを盗まれてしまい、所持金すべてを失ってしまいます。そのため香港での生活に必要な資金を、自分でイチから稼がなくてはいけなくなったのです。
旅人である涼にとってはまず、寝泊まりする場所の確保が大問題です。『一章』では毎朝500円のおこづかいをもらっていた涼ですが、『シェンムーII』では逆に、朝になるたびに38ドルのホテル代を請求されることに。さらには謎を追う手がかりを入手するのにも、金銭を要求する相手がたびたび現れてきます。
このように『シェンムーII』では、いかにお金を稼ぐのかというところで悩む局面が多くなっています。アルバイトで地道に働くのが確実なのですが、ギャンブルで一気に大量のお金を手に入れるという誘惑も。そのどちらを選ぶのかは、もちろんプレイヤー次第です。
『シェンムーII』のアルバイトで印象的なのが、港の倉庫での荷物運び。先輩の徳林(とくりん)さんとコンビを組んで、彼のかけ声に合わせて「右右右」といった具合に方向キーを入力していくのが、妙にクセになります。徳林さんのキャラも、とても濃いです。
本作では、サイコロを使った賭けやパチンコのような落とし玉、そしてアームレスリングの賭け試合など、じつに豊富な種類のギャンブルが用意されています。それは裏を返せば、自分の力でお金を稼ぐのがそれだけ大変だということでもあるのです。
とにかく『シェンムーII』の前半では、自分以外はなかなか信用できない見知らぬ国へとやってきた感覚を、まさに旅人になったような気分で実感できます。お金の件だけでなく、迷路のように入り組んだ香港の街を漢字の看板を頼りに歩き回るのも、慣れるまではすぐ道に迷ったりして、かなりの不安を覚えます。
今回の『シェンムーI&II』では、『一章』からあまり時間を置くことなく『II』をプレイできるため、誰もが気軽に「涼ちゃん」と声をかけてくれた横須賀の商店街との対比が、プレイヤーにはいっそう痛切に感じられるのです。
“武術”とは、ただ戦いの武器にはあらず
見知らぬ土地で苦労する涼に手を差し伸べてくれるのが、わずかな縁がきっかけとなって出会った香港の人々です。そして涼と彼らを結びつける重要な接点となるのが”武術”です。
「シェンムー」では、武術の技を駆使した格闘バトルが、作品のキーポイントとなっています。香港の地ではお店などさまざまな場所で武術書を入手して新たな技を身につけられるほか、街にいる武術家と交流して技を伝授してもらうことも可能です。
じつは「シェンムー」というのは、セガの3D格闘ゲーム「バーチャファイター」シリーズをRPG化する構想から発展して生まれた作品です。それだけに涼が使用できる技の中には、裡門頂肘(りもんちょうちゅう)や連環腿(れんかんたい)のように、「バーチャファイター」のアキラと同じ技を、同じコマンドで繰り出せるといったものも存在しているのです。
ただし「バーチャファイター」と異なるのは、涼1人に対して多数の敵が襲いかかってくるのを迎え撃つという点です。フリーバトルと呼ばれるこの格闘では、敵に囲まれないように間合いを取ったり、つかんだ敵を別の敵に向かって投げ飛ばしたりといった、位置取りを意識することが重要となります。
一方で『シェンムーII』では、街で行なわれているストリートファイトに参加することも可能です。こちらはリングの上で対戦相手と1対1で向き合うという、まさに「バーチャファイター」を思い起こさせるもの。それだけに対戦相手のなかには、どこかで見覚えのある技を使ってくる人物も……!? ちなみにこのストリートファイトでは、相手をノックダウンする以外にも、素早く動き回る相手を制限時間内につかめば勝利するといった、変則的なルールが用意されています。
とはいえ「シェンムー」にとって武術とは、ただ単に力で敵を倒すためのものではありません。物語のなかで”武徳”という言葉で説明されているように、武術は他人を救い、自分自身を高めるものとして、主人公である涼の成長と深く結びついています。この骨太で実直な物語のトーンこそが、ほかのゲームにはない「シェンムー」ならではの味わいだと言えるでしょう。
涼が物語の途中で、香港の街でお世話になった人々に挨拶して回るというイベントが用意されているあたりの律儀さが、じつにこの作品らしいと感じます。
現在だからこそ実感できる「シェンムー」の物語とキャラクターの魅力
さて、香港にやってきた当初は見知らぬ街で、お金を稼ぐのにも苦労していた涼ですが、物語が進行するにつれて、彼を手助けしてくれる友人や、逆に彼の前に立ちはだかる悪人が、次第に増えていきます。『一章』でも、ホットドッグ店のトムや涼のライバルとなる陳貴章(ちん きしょう)といった、味のあるキャラクターが大勢存在していたのですが、『シェンムーII』ではそれにも増して個性的な人物たちが、次々と登場してきます。
なんといっても特筆すべきは、涼と関わる女性キャラの多さでしょう。なにしろ横須賀では、原崎望のような同級生以外の若い女性に声をかけると、「えっ!?」とか「男の人が苦手で…」とかいった感じの塩対応を受けてしまうのですが(笑)、香港ではお店の店員さんから通行中の女性まで、じつに愛想良く応えてくれます。
紅秀瑛(こう しゅうえい)
ジョイ
薫芳梅(くん ふぁんめい)
さらに、涼の旅に深く関わる謎の女性・紅秀瑛(こう しゅうえい)をはじめ、彼女のほうから積極的にアプローチしてくるジョイや、街で話しかけると明るく応対してくれる少女・薫芳梅(くん ふぁんめい)など、いずれも魅力的な美女&美少女ばかり。また、港の公園で武術を練習しているアイリンや、コンビニでアルバイトしている日本からの留学生・高野和泉には、オドロキの秘密があるのですが……その真相はみなさん自身で確かめてみてください。
アイリン・エーデルワイス
高野和泉
もちろん女性キャラだけでなく男性キャラも含めて、本作では大勢いるキャラクターの一人ひとりがじつに丁寧に、かつ魅力的に描かれています。その点でとくに注目したいのが、香港のストリートギャング”ヘヴンズ”のヘッドである刃 武鷹(れん うーいん)です。
刃 武鷹(れん うーいん)
九龍城へと向かう涼に儲け話の匂いを嗅ぎ取ったレンは、涼と行動を共にするようになります。最終的にレンが涼の敵となるのか、それとも味方となるのかはさておき、真面目な涼と悪知恵の働くレンが、互いに悪態をつきながらさまざまな事件に関わっていく様子は、『シェンムーII』の大きな見どころとなっています。
こうして涼は、見知らぬ土地だった香港で多くの人々と出会い、信頼のできる相手を見つけて友情を育み、悪人に対して共に立ち向かっていくことになります。その過程はまさに、父が残した「愛すべき友を持て」という言葉にふさわしいものです。
約20年前は画期的だったオープンワールドの自由なゲームシステムが、その先の発展を経て当たり前になった現在だからこそ、本作の根幹にある物語やキャラクターそのものの魅力が、より明確に感じ取れると思います。
玲莎花(れい しぇんふぁ)
そして『シェンムーII』の後半では、涼は人里離れた桂林(けいりん)の地へと向かいます。そこで涼が出会うことになるのが、「シェンムー」のメインヒロインである玲莎花(れい しぇんふぁ)です。香港の大都市とは風景がまったく異なる大自然の山道を、涼とシェンファは2人で一緒に進んでいきます。
この時、涼とシェンファは互いのことをあれこれと会話するのですが、この会話がじつに濃密な時間となります。シェンファ自身と彼女の山村での生活について、この会話でたくさんの内容を知ることができます。そのため、この山道の旅が終わる頃には、彼女の存在をすごく身近に感じるようになっているのです。
至高の『シェンムー』体験は、2作品を続けて遊ぶこと
『シェンムーII』は、『一章』に比べてそこまで話題にならなかった作品と言われています。『一章』は当時大きな話題を呼んだだけに、”『一章』は遊んだけど、『シェンムーII』は遊んでいない”といった人も多いのではないでしょうか。横須賀というひとつの街を舞台にした『一章』と比べて、『シェンムーII』では、涼が目にする風景は大きく広がり、物語のスピード感も速度を増し、まさに王道の続編といった趣です。
この『II』の物語のスケール感は、『一章』の横須賀の街で芭月涼として日常を過ごした記憶が強ければ強いほど、プレイヤーの胸に響くものになっています。ぜひ、2作品を続けて遊んでみてください。
そして、よく知られているように、「シェンムー」の物語はいまだ未完です。2019年に『シェンムーIII』の登場が予定されており、ついにこの先の展開を知ることのできる今だからこそ、かつてプレイした人も、まだプレイしたことのない人も、「シェンムー」の世界に今こそ触れてほしいと思います。
次回は、特別企画。「シェンムー」を愛し、愛された(?)者たちの声をお届けいたしますので、お楽しみに。
——————————————
シェンムー I&II
・発売元:セガゲームス
・フォーマット:PlayStation 4
・ジャンル:アクションアドベンチャー
・発売日:2018年11月22日(木)予定
・価格:パッケージ版 通常版 希望小売価格 3,990円+税
パッケージ版 限定版 希望小売価格 5,990円+税
ダウンロード版 販売価格 4,309円(税込)
ダウンロード版 限定版 6,469円(税込)
・プレイ人数:1人
・CERO:B(12才以上対象)
——————————————
コメントの受付は終了しました。