『グランツーリスモ7』の今を語る──シリーズクリエイター山内一典インタビュー

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『グランツーリスモ7』の今を語る──シリーズクリエイター山内一典インタビュー

「グランツーリスモ」世界一を決める公式の世界選手権「グランツーリスモ ワールドシリーズ(GTWS)」。その2025年最終戦となる「GTWS 2025 ワールドファイナル 福岡」が12月20日(土)~21日(日)に開催された。『グランツーリスモ7』世界最速の座をかけて選手たちが熱闘を繰り広げた同大会のステージで、「GTWS 2026」の第1戦がアラブ首長国連邦の首都・アブダビで3月28日(土)に開催されることが発表された。

この発表にともない、メディア向けに「グランツーリスモ」シリーズクリエイターの山内一典とアブダビ文化観光局のサイード・アル・ファザリ氏による会見、および山内へのインタビューが実施された。アブダビで「GTWS」が開催されることになった経緯や、12月4日(木)に配信された「Spec III」アップデートと有料追加コンテンツ「パワーパック」など、さまざまな情報が語られた会見と、山内へのインタビューの模様をお届けする。

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初の中東開催を決めたアブダビ・ゲーミングとのパートナーシップ

――山内さんはすでにUAEのアブダビにも何度か足を運ばれているとのことですね。

山内:UAEは本当にカーエンスージアストの多い国なんです。日本やアメリカだとクルマは男の子の趣味のようなところがありますが、UAEではまったくそういうことがなく、男性も女性もすごくクルマやレースが好きです。それが驚きでした。

――おふたりはアブダビでの「GTWS」第1戦の開催決定をどう受け止めていますか。

アル・ファザリ:私自身「グランツーリスモ」を長い間楽しんできているファンのひとりで、とても興奮しています。私だけでなくプロジェクトに関わるスタッフや、UAEや国際的なメディアもとても盛り上がってくれています。今回、福岡でこうしてお話ができることをとても嬉しく思いますし、このパートナーシップを今後もっと大きなものにしていきたいです。

山内:これまで世界のさまざまな場所で「GTWS」を開催してきましたが、開催するたびに、その国や都市で新たな人々と出会えることが、僕にとって一番刺激的な理由になっています。今回のアブダビ開催にあたっても本当にたくさんの方々とお会いしましたが、皆さん、心から「グランツーリスモ」のファンなんですよね。そうした方々とお話をして、異なるカルチャーを持った人たちとひとつの目標に向かって走っていくということ自体が、僕にとって本当にエキサイティングな体験なんです。

――「グランツーリスモ」とのパートナーシップについて、サイードさんはどのようにお考えでしょうか。

アル・ファザリ:ポリフォニー・デジタル、そしてソニーとのパートナーシップを非常に特別なものだと思っています。「GTWS」は来年で9シーズン目を迎える重要な大会ですが、今、福岡の会場に来てみて、私自身が改めてその開催体制や、来場する観客の様子、オンラインでの視聴者数も含めて素晴らしいと感じました。

我々は「アブダビ・ゲーミング」(※)として、アブダビでゲームの楽しさを草の根的に広め、新たな素晴らしいイベントのスタンダードを打ち立てたいと考えており、国際的な認知度をさらに高めたいという思いもあります。アブダビは多彩なレースが行なわれる都市ですし、「グランツーリスモ」はほかに類を見ない素晴らしいレースゲームです。それだけに今回のプロジェクトの発足はお互いにとってふさわしく、本当にパーフェクトだと思います。

――「Spec III」アップデートで加わったヤス・マリーナ・サーキットの印象はいかがでしょう。

アル・ファザリ:ヤス・マリーナはアブダビを象徴するサーキットですが、ゲーム中で再現されたものを見て素晴らしいと思いました。レース中、日中から夜にかけて風景が変化していく様子は、ドライバーにとっても観戦する人たちにとってもエキサイトできるもので、すごく良いと思います。

山内:『グランツーリスモ7』のヤス・マリーナが完成したときに、GT3カーで走ってみました。それまでヤス・マリーナはF1でしか見られなかったんですが、GT3カーで走るとものすごくテクニカルで、イメージよりひとつかふたつ下のギアを使わなければいけないコーナーがたくさんあり、非常に面白いコースだと思いました。

今回のマニュファクチャラーズカップでは、ヤス・マリーナでの予選レースのタイムを使ってデータロガー機能を紹介しましたが、選手やクルマによって使用するギアが驚くほど違っていました。あるクルマでは1速まで使うし、別のクルマでは3速までしか使わないとか、使用するクルマによって、走らせ方がすごく大きく変わるサーキットですね。

――出場選手たちがヤス・マリーナで実際にサーキット走行をする機会も?

アル・ファザリ:ヤス・マリーナ・サーキットはツーリスト向けにも開放されているので、選手はもちろん、一般の方がF1カーを走らせることだってできますよ。アブダビは地理的に、世界中の80%の人々が、8時間以内に訪れることができる場所でもあります。この都市はすべての夢見る人のための完璧なホームで、何か志を持つ方の新しいアイデアに対してもオープンな環境です。我々はそうした人たちをサポートできますし、したいと考えています。

今回の「GTWS」はアブダビの住民だけでなく、その地域すべての人々にチャンスを与えるエントリーポイントになると思います。今は、さまざまなやり方を模索している最中で、アブダビを中心とした地域の人々が多くの可能性を追求できるよう計画もしています。そうした試みについても、決まり次第どんどん公表していければと思います。

【山内一典インタビュー】“『グランツーリスモ7』をもっとよくすること”が当面の目標

――初代『グランツーリスモ』の発売から28年を振り返って、今のお気持ちをお聞かせください。

山内:『グランツーリスモ7』は毎月アップデートを重ねていて、先日には「Spec III」の大型アップデートを行ないましたが、今もこうして「グランツーリスモ」を作り続けていられることに大きな感謝の気持ちがあります。「グランツーリスモ」は変わらないようでいて、実はかなり新しいことをずっとやってきているんですよね。いろいろチャレンジングなことをしていても、ユーザーの皆さんがちゃんとそれを受け取ってくださっていることが、とても幸せだと思っています。

――先日投入された大型アップデートの「Spec III」と、追加DLC「パワーパック」については、どのような狙いがあったのでしょうか。

山内:発売からはずいぶん時間が経ちましたが、『グランツーリスモ7』はアップデートを重ねながらいまだにフルプライスで売れ続けています。ユーザーも増え続けていて、月間のアクティブユーザーも高い水準をキープできている。言ってみれば、全然古びていないんですよね。その状況で、年末に「Spec III」を投入することになり、何をテーマにしてやろうかと考えた結果が「パワーパック」でした。

「グランツーリスモ」には長い歴史があり、そこで繰り広げられるレースには「レースゲームとしての一定の形」があります。一方で「GTWS」や現実のレースではプラクティスがあり、予選があり、決勝があり、しかも途中で抜けられず参加費用もかかる“ちゃんとしたレース”が行なわれている。それを「グランツーリスモ」の世界に追加したかった。それで「グランツーリスモ」を変化させるというよりは、異なるレースの世界が楽しめるポーションとして「パワーパック」を作ったわけですね。「Spec III」で復活したデータロガー機能も、「パワーパック」でリアルなレースを再現するなら当然ほしい機能として入れたものです。

現在は「パワーパック」や「Spec III」を通じてまた新しいユーザーがドッと入ってきて、これまでのロイヤルユーザーも一貫してこのゲームを遊び続けてくださっています。そうした中で僕らが今フォーカスしているのは、『グランツーリスモ7』をもっともっとよくすることで、それが当面の目標です。

――今回の追加車種では、FTOが少し異彩を放つ存在として話題になりました。過去、山内さんの愛車だったともお聞きしたのですが、追加車種の選択の意図をお聞かせください。

山内:初代の『グランツーリスモ』が発売された当時、FTOは収録車種の中でヒーローカーのひとつではあったんですよね。レーシングモディファイ版まで収録されていたりして、そこにはまだまだ若かった僕らの若気のいたりみたいな面もありました。やっぱり自分が触れたクルマが入っていると嬉しいものですし(笑)。今でもその感覚はあまり変わっていないと思いますし、世界中のユーザーの方々も同じですよね。

日々、「このクルマを入れてほしい」というユーザーのフィードバックを本当にたくさんいただきますが、その希望は実に広く分布しているんですよね。例えば日本向けにハイエースを入れましたが、ヨーロッパのユーザーからは「なんでこのクルマが?」という声がありました。追加車種にはそういったことが多々ありますが、選ばれている理由には必ずユーザーがいるんですね。そうしたいろいろな希望を持つ方々がすべて合わさって、今の「グランツーリスモ」のユーザー数になっているんだとも思います。

――「パワーパック」では、対話型でゲームを進めていくような部分もあり、AIが今後ゲーム中に入ってきそうな印象も受けましたが?

山内:僕はAIの専門家ではないので、その未来を占うといったことはできませんが、AI自体はすごく有効なツールで、本当に使い方次第だと思っています。「GTWS」の出場選手たちには、自分が走ったタイムトライアルのリプレイをAIに処理させて、ドライビングのアドバイスをもらったという選手もいました。「このコーナーではこうしたほうがもっといいタイムになるよ」といった形ですね。

――福岡での「GTWS ワールドファイナル」の雰囲気をどうお感じになりましたか。

山内:福岡にはポリフォニー・デジタルの福岡アトリエがあり、僕らにとって第2の故郷のような場所です。その意味では、昨年の「GTWS」第3戦の東京ラウンドに続く地元開催とも言えるんですよね。以前、2011年の福岡モーターショーでX2010の1/1スケールモデルを出展した時はものすごく寒かったんです。でも今回は晴れやかで寒くない福岡を来場者の方にお見せできましたし、いい経験をしていただけたんじゃないかと思っています。

会場ではやはり、観客の皆さんの熱意を強く感じました。福岡での開催を決めたときは九州エリアにどのぐらいの「グランツーリスモ」ファンがいらっしゃるのか、正直なところわかっていなかったんです。でも実際に開催してみると、2日間のイベントのチケットが全席売り切れて、九州や福岡の方の「グランツーリスモ」への愛情をすごく感じました。

――2025年の「GTWS」はロンドン、ベルリン、ロサンゼルス、福岡とすべて初開催の地域で開催されました。開催都市はどういった判断で選ばれているのでしょう。

山内:開催地については、毎年毎年たくさんの候補を検討しながら決めています。先ほどもお話しましたが、僕にとって異なるカルチャーの人たちがコミュニケーションを重ね、目標を見つけ、プロジェクトを一緒にやっていくこと自体がすごくエキサイティングな体験なんです。世界中のあちこちでやるというのは、そういった意味合いがとても強いです。

アブダビについては、ある日ポリフォニー・デジタルにUAE大使館のシハブ・アフメド・モハメド・アルファヒーム大使から直接ご連絡をいただいて、スタジオに来ていただいたのがきっかけでした。お会いしてみると本当に「グランツーリスモ」のファンで、その熱意を受けてはじまったところがあります。僕もアブダビにうかがって現地の方や、サイードさんをはじめとしたロイヤルファミリーの方々とお会いしたのですが、息子さん、娘さんも含めて、皆さんが「グランツーリスモ」をプレイしていて、本当に驚きました。

――「GTWS」のレース観戦の魅力や面白さはどこにあると思われますか?

山内:ドライバーがすぐそこにいて、観客が彼らの競うところを直接ご覧になれるところが根本的に違うと思います。リアルなモータースポーツだと、ドライバーはヘルメットをかぶってクルマの中にいて、表情や雰囲気を見ることはできません。その点デジタルゲームのレース大会では、そうした姿を目の当たりに見ることができる。そこは大きな違いでしょう。

また見せ方においても大きな違いがあります。例えば『グランツーリスモ7』のヤス・マリーナ・サーキットにはサーキットの中に何百というカメラがあり、さらにクルマごとにもたくさんのカメラがあります。ライブレースではそれらを臨機応変にスイッチングしながら皆さんにお見せしているんですが、そうした自由度の高さも、デジタルのレースならではでしょうね。

――「ワールドファイナル 福岡」の会場では、出場選手がファンと気軽にコミュニケーションする姿も印象に残りました。

山内:僕も選手たちと一緒にサイン会に参加しましたが、彼らのファンサービスは本当にきちんとしていましたね。「GTWS」も長い歴史がありますが、選手たちのドライビングスキルやレーススキルの水準と同様に、彼らの人間的な魅力がどんどん上がっていることを感じました。世界の各地域のトップとして来る選手たちは、人間的にも素晴らしい選手がすごく多いんです。彼らが自分たちを見に来てくれるファンの方をはじめ、さまざまな人々と接して成長していく姿を間近で見られるのは非常に嬉しいことで、まるで何十人もの子どもを育てているような感覚にもなります。

――今年はイゴール・フラガ選手が全日本スーパーフォーミュラ第10戦で初優勝を果たし、小林利徠斗選手が来シーズンから全日本スーパーフォーミュラとSUPER GT GT500クラスにフル参戦を決めるなど、「GTWS」で活躍した選手たちが国内のリアルのレースシーンでも話題を集めています。彼らの活躍はどのようにご覧になっていますか?

山内:すごく嬉しいです。イゴールは彼が18歳くらいの時に、GTWSの前身にあたる「グランツーリスモ ワールドツアー」のラスベガス大会で初めて会ったのですが、当時の彼は資金難でレースを続けられない苦境にあったんですよね。初めて会った時から手書きでお手紙をくれて、その時のレースで勝利してワールドチャンピオンにもなった。とても若いのに賢くて努力家で、本当に感銘を受けました。だから今の活躍は、なるべくしてなったものだと感じていますし、彼が夢を実現しつつあることが本当に嬉しいです。小林選手も最近まで全国都道府県対抗eスポーツ選手権やGTWSで活躍していましたし、いろいろなリアルのレースで、結果を出していくというよりは、成長していってほしいです。

――「GTWS」と、同時開催されていた「ジャパンモビリティショー福岡 2025」の会場では多くの親子連れがクルマを楽しむ姿が見られました。そうした人々に対して「グランツーリスモ」がどうアプローチするのか、何か希望や構想があれば教えてください。

山内:「グランツーリスモ」誕生から28年も経つと、プレイする世代も2世代目に入っているんですね。「GTWS」のどのラウンドでも親子で来場される方々が増えていて、これも同じタイトルを長く作ることの良さだと思っています。今後ファミリー層に向けて、ゲームの構造を大きく変えるといったことがあるかはわかりませんが、僕らとしては子どもたちが「グランツーリスモ」をプレイすることで、彼らの人生が豊かになってくれるような、そうしたゲーム作りを心がけています。


グランツーリスモ7

・発売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
・フォーマット:PlayStation®5 / PlayStation®4
・ジャンル:リアルドライビングシミュレーター
・発売日:好評発売中
・価格:PS5/PS4 ダウンロード版 販売価格 25周年アニバーサリーデジタルデラックスエディション 10,890円(税込)
    PS5 パッケージ版 希望小売価格 スタンダードエディション 8,690円(税込)
      ダウンロード版 販売価格 スタンダードエディション 8,690円(税込)
    PS4 パッケージ版 希望小売価格 スタンダードエディション 7,590円(税込)
      ダウンロード版 販売価格 スタンダードエディション 7,590円(税込)
・プレイ人数:1~2人(オンライン時:1~20人)
・CERO:A(全年齢対象)


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