
PlayStation®5用ソフトウェア『to a T』は、『塊魂』や『Wattam』など、ユニークな世界観とゲームシステムを備えた話題作を世に送り出してきたクリエイター高橋慶太氏が率いるゲームスタジオ「Uvula」の最新作。明るく柔らかなパステルカラーで描き出される海辺の町を舞台に、なぜかいつもTポーズをしたままの主人公とその愛犬が体験する、ちょっとだけ人とは違っているけれど心温まる日常の出来事を描く、エピソード形式のアドベンチャーだ。

CHECK POINT①
Tポーズの主人公の不思議な夢から始まる、ちょっとだけ人と違う日常
本作の主人公は、両手を左右に広げたTのポーズをした「ティーン(※名前は変更可能)」。ティーンはいつもそのポーズのままで腕を動かせないため、ひとりで着替えたりトイレに行ったりできず、愛犬の「犬ちゃん(※こちらも名前を変更可能)」が日々の暮らしをサポートしてくれる大切な相棒になっている。

物語が始まるのは、そんなティーンが13歳の誕生日を迎えた日。巨大な竜巻に巻き込まれてクルクルと空に舞い上がる怖い夢を見て目覚めたティーンは、母親に誕生日を祝ってもらいながら洗顔、朝食、着替え、トイレと毎朝のルーティーンを済ませて学校に行く準備をする。けれども学校にはTポーズをからかってくるいじめっ子がいるから、ティーンの足取りは憂鬱だ。

しかし、その日の帰り道。犬ちゃんが起こしたとあるトラブルをきっかけに、ティーンは偶然にも夢の中での出来事にも似た不思議な体験をすることに。その日から不思議な力を身につけたティーンは、奇妙な人々との出会いや予測できない出来事が起きる、人とはちょっとだけ違う日常を過ごすことになっていく──。
ゲームは連続ドラマのようなエピソード形式で進行。プレイヤーは犬ちゃんのナビゲートも利用しながら、町を探索してさまざまな人と出会い、物語を進めていく。物語の合間には自由行動ができるタイミングもあり、そこで本編とは関わらない人々と交流することもできる。

ほかの人と違った身体的特徴を持ち、母親とふたり暮らしで、学校ではいじめっ子にからかわれ……と、導入部のティーンの状況からは、なんだかヘビーな雰囲気を感じてしまうが、物語の展開はあくまでコミカルかつポジティブ。高橋氏の作品らしい、ナンセンスとユーモアに満ちた演出や表現が全編に溢れ、絵本のようにカラフルなビジュアル、どこか奇妙なキャラクターたちとのユーモラスなやりとり、ゲーム全体を包む優しく楽観的な空気に、誰もが笑顔でティーンと犬ちゃんの生活を楽しめるだろう。
CHECK POINT②
触り心地のいい操作感とバラエティあふれるミニゲーム
Tポーズのティーンだけに、日常生活ではほかの人とはちょっと違うやり方が必要なことばかり。長い柄のスプーンや歯ブラシを使う朝のルーティーンに始まり、理科の授業で試験管の薬品を移しかえるといった動きにも、スティックの操作で体全体を傾けるなど、ちょっとしたミニゲームのようなアクションが取り入れられている。

ゲーム中に操作のチュートリアルはほとんどなく、基本的には操作ボタンが表示されるのみ。最初は朝食のシリアルを机にまき散らしたり、歯ブラシをうまく動かせなかったりもする。しかし、少し慣れればどの行動もスムーズに行なえるようになり、トイレや歯磨きを手伝ってくれる犬ちゃんの可愛さもあって、ことさら大変なことではなくなっていく。人とは違っていても、ティーンは何でもできるのだ。

ちなみに朝のルーティーンはやらなくても特にデメリットはないので、起きて着替えたらそのまま家を出てもOK。ただし洗顔をサボると、目ヤニがついたまま1日を過ごすことになり、イベントなどで顔がアップになるシーンになると少し罪悪感を覚えることも。こういった細かな演出でプレイヤーの心をくすぐってくる遊び心も、本作ならでは。

町を自由に駆け回る移動も、本作のお楽しみポイント。歩く、走る、ジャンプする、一輪車に乗る、電車に乗る、スピンしながら高く舞い上がる、といった移動方法が物語の進行に合わせて登場するが、なかでも両手を広げて町を疾走できる一輪車が爽快だ。基本的には歩道しか移動できないが、ティーンと犬ちゃんの行くところ、つねに信号は青! 起伏に富んだ町を軽快に突っ走るのはなかなか気持ちがいい。また、海岸沿いを走る電車も、車窓や運転席など風情のある眺めを切り替えてのんびりできるので、ゆったり楽しんでみることをおすすめしたい。

朝のルーティーンで使用する腕の操作や、移動などの基本的なアクション以外に、ゲーム中では体育の先生の指示通りボタンを押す準備運動や、ジャマな人を避けて電車と勝負する短距離走など、ちょっと特殊な操作が発生するミニゲーム形式の遊びが突発的に発生する場所もある。これらの成否はストーリーの進行にまったく影響しないが、いずれもシンプルで操作感がよく、失敗すると悔しくてつい何度も挑戦してしまう。

プレイしているうちに、物語やさまざまなアクションの中で、ティーンのTポーズはネガティブなこととして描かれてはいないことに気づかされる。最初こそ、Tポーズにティーンが複雑な思いをのぞかせる場面もあるが、いじめっ子を含む人々とのやりとりや、日常で起きる出来事を通して、自身の個性をポジティブに受け止めて成長していく。そんなティーンの姿は、プレイヤーに“人と違っていること”の意味を考える機会を与えてくれているようにも思える。
CHECK POINT③
個性豊かなキャラクター、コレクション要素、音楽と魅力たっぷり!
高橋氏の作品といえば、ユニークでどこかエキセントリックなキャラクターたちも見逃せないところ。ティーンの住む町は、人間だけでなく言葉をしゃべる動物たちも町の一員として暮らしており、なかでもサンドイッチ屋を営み、おっとりした口調でティーンを励ましてくれるキリンさんは、しばしばお世話になる大切な存在だ。優しい笑顔のお母さんや、相棒の犬ちゃん、のちに友だちになるいじめっ子たちもそれぞれ意外な一面を持っていて、物語の進行に応じてそれらが明らかに。どのキャラクターもかわいらしく、用がなくてもつい話しかけて会話を楽しみたくなる。

遊びやすいエピソード進行形式を採用した本作は、本編ストーリーをクリアするだけならそれほど長い時間は必要ない。しかし、本編で行く必要がある場所は町の中の一部で、ストーリーをクリアしただけでは行っていない場所もたくさんあったりする。犬ちゃんと一緒にティーンの住む町を隅々まで散策すると、思わぬ発見や愉快なキャラクターたちとの出会いが待ち受けているので、ぜひいろいろな場所を回ってみよう。落ちているコインを集めて購入するファッションアイテムのコレクションも、実質はクリア後が本番。服や靴、ソックス、バッグなど数百種が用意されているので、コレクター気質の人は長く本作の町歩きを楽しめるはずだ。

最後にプッシュしておきたいのが、ゲーム中に挿入される3曲のボーカル曲。ポップなテンションを前面に出した『Perfect Shape』、キリンさんを主役にした優しい曲調の『Giraffe Song』、堀込泰行氏がボーカルを担当している『Train Song』と、いずれも名曲ぞろいだ。どれも作詞は高橋氏で、作曲は『塊魂』や『Wattam』にも参加し、本作の楽曲全般を手掛けるsakai asuka氏。『Perfect Shape』と『Giraffe Song』は各エピソードのオープニング/エンディング曲で、各話ごとに映像の内容も変わる芸の細かさだ。いずれの曲も各種配信サービスなどで聴くことができるが、ゲーム中の名シーンとともに楽しむと、また印象が変わってくる。ぜひゲームでその名曲ぶりを堪能してほしい。

世界中のゲームファンから人気の高橋氏が、初めて送り出したストーリー主導のアドベンチャーとなった本作。ポップでカラフルで、どこを見渡しても可愛らしい箱庭のような町や、ユニークさを持ち合わせるキャラクターたちなど、多くのファンから支持を集める高橋氏の作品の魅力はそのまま。その世界を自由に歩き、会話し、愉快でちょっとエキセントリックなティーンの物語を体験していく楽しさを、誰もが存分に味わえるはずだ。

「個性を持て余してコンプレックスに感じている思春期の主人公が、謎の出来事をきっかけに周囲の人々と触れ合いながら、自分と向き合って成長していく」という、王道ではある一方で、ある種の陳腐さも感じさせかねないテーマを、あくまでもコミカルに、ちょっとシュールに、そして圧倒的な優しさに包んで描き、唯一無二の爽やかさを感じさせるゲームへと仕上げた『to a T』。他人との違いに悩みを抱き始めた子どもから、うまく世の中と距離をとるのが苦手な、ちょっと疲れがちな大人まで、幅広い人にその魅力を体験してほしい作品だ。
タイトルの「to a T」は「完全に、完璧に、ぴったり」という意味の慣用句。──あなたも、わたしも、ティーンも、きっとそのままで完璧だ。
to a T
・発売元:Annapurna Interactive
・フォーマット:PlayStation 5
・ジャンル:アドベンチャー
・配信日:好評配信中
・価格:ダウンロード版 販売価格 2,310円(税込)
・プレイ人数:1人
・レーティング:IARC 7+(7才以上対象)
※ダウンロード専用タイトル
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