12月6日(水)に全世界同時発売を予定しているPlayStation®5用「Access™ コントローラー」は、さまざまなカスタマイズが可能な、全く新しいアクセシビリティコントローラーキットです。あらゆる方が、より簡単に、快適に、そして長い時間ゲームをお楽しみいただけるようにサポートします。今回は、本コントローラーのメディア先行体験会の模様をお届けします。
※文中、一部敬称略
【プレゼンテーション】
すべての人へ革新的なゲーム体験を提供するために
まず、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の池ノ谷優一郎と堀越朝が、本コントローラーのコンセプトを紹介しました。
【登壇者】
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
グローバル商品企画部1課
池ノ谷 優一郎
「Access コントローラー」のハードウェアを担当。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
グローバル商品企画部2課
堀越 朝
「Access コントローラー」のユーザーインターフェースを担当。
堀越:PlayStation®がグローバル全体で目指している信念のひとつが「PLAY HAS NO LIMITS」です。すべての人に革新的なゲーム体験をお楽しみいただけるよう、私たちはインクルーシビティに真剣に取り組んでいます。ユーザーそれぞれのニーズに合わせ、カスタマイズしやすく、より遊びやすくし、より多くの方々がゲームを楽しめるよう、さまざまな取り組みを実施してきました。
商品の具体的な説明に入る前に、私たちのアクセシビリティへの取り組みについてご説明します。私たちはアクセシビリティへの取り組みを、ゲームシステムの基礎でもある重要な3つの要素のそれぞれで実施してきました。ひとつめはゲームソフト、ふたつめはPS5のシステムソフトウェア、そして3つめがコントローラーについてです。
ひとつめとして、当社のファーストパーティータイトルの開発を担う「PlayStation Studios」では、ゲームにおけるアクセシビリティの選択肢を最大化するために、最先端の取り組みを行なってきました。例えば『The Last of Us Part II』は全盲の方でもプレイできます。また、多くのサードパーティータイトルにおいてもアクセシビリティ機能を追加しています。アクセシブルなゲーム体験は障がいのあるプレイヤーだけでなく、すべてのプレイヤーにとって遊びやすく楽しみやすいゲーム体験となるため、このような取り組みはゲーム業界のトレンドとなっています。
次に、ふたつめとなるPS5のシステムソフトウェアでの取り組みについて。私たちはこれまでのソフトウェアアップデートを通じて、文字の読み上げ機能やモノラル音声出力といった、多くのアクセシビリティ機能を追加してきました。最近のPS5のシステムソフトウェアアップデートでも、ふたつのDualSense® ワイヤレスコントローラーをひとりのユーザーにアサインすることができる、アシストコントローラー対応というものを導入しています。これらの機能はPS5で動作するすべてのゲーム体験を支援します。
最後に、3つめとなるコントローラーそのものに関する取り組みです。コントローラーはプレイヤーがキャラクターやゲームカメラの移動、取るべき行動を表現する方法であり、ゲーム機におけるアクセシビリティへの挑戦として最も重要なものとなります。私たちは5年前から障がいのあるプレイヤーに革新的な操作体験を提供するために「Project Leonardo」としてその可能性を模索し、「Access コントローラー」として実現するに至りました。
障がいのある方の人数は世界的に見ても非常に多く、不慮の事故も含めて誰もが障がい者になる可能性があると意識することが重要です。アクセシビリティコントローラーの設計を始めたとき、障がいのあるプレイヤーはゲームをプレイすることに意欲的でしたが、一方で標準的なゲームコントローラーを身体に無理のある形で操作していることがわかりました。私たちはコントローラーがプレイヤーの方々に負担を強いるのではなく、コントローラーそのものがプレイヤーのニーズに応えるような世界をつくるべきだと気づきました。
では、障がいのあるプレイヤーのためにコントローラーをつくるにはどうすればいいのでしょうか。私たちが最初に着手したのは、国勢調査や医療データを調査して、最も一般的な障がいの状態を特定し、それを解決することでした。しかし、これはふたつの理由で効果がないことがわかりました。障がいは人それぞれであり、まったく同じ状況の方はいないため、そして障がいによっては時間とともによくなったり悪くなったりする動的な要素を含んでいるためです。
そのため、特定の障がいに焦点を当てるのではなく、障がいのあるプレイヤーコミュニティーと専門コンサルタントの協力を得て、プレイヤーが既存のコントローラーで快適にプレイできないという課題を解決するためにはどうすればいいのか、という点に注目しました。そして、コミュニティーやコンサルタントの協力を得て、標準的なコントローラーを使用するうえで重要な3つの要素を抽出しました。
ひとつめは、コントローラーを使用するにあたってコントローラーを持つ必要がないことです。健常者はコントローラーを使用する際に手に取ったり持ったりすることが当たり前のことだと感じていますが、障がいの程度によってはそうではありません。例えば、腕や手の力が弱い方もいます。「Access コントローラー」は平らな場所に設置できるように設計されており、使用するために握る必要がありません。また、多くの三脚と互換性のあるAMPSホールパターン(ネジ穴)を搭載しておりますので、さまざまなマウントや車椅子に取り付けることができます。
ふたつめは、DualSense ワイヤレスコントローラーのボタンは上面と前面に配置されておりますが、ボタンが小さすぎたり密集しすぎていたりして正確に押せないことです。「Access コントローラー」はボタンを一面に配置し、プレイヤーが自分好みに物理的にカスタマイズできるよう、異なる形状のボタンやスティックを用意しています。
3つめはDualSense ワイヤレスコントローラーでは、スティックの高さ、幅、向き、位置が固定されていることです。「Access コントローラー」ではスティックの位置の自由度を高め、距離、向き、高さを変えたり、スティックそのもののキャップを取り外して自分に合ったものに交換したりすることが可能で、360度どの向きでもコントローラーを使用することができます。また、複数のコントローラーをペアにして、多くの柔軟な組み合わせでひとつの仮想コントローラーを作成することができます。これは、同じユーザーアカウントにコントローラーをアサインするだけで可能となっており、複雑な設定は必要ありません。
実際に使用していただいたところ、障がいのあるプレイヤーの40%はDualSense ワイヤレスコントローラーをメインコントローラーとして使用し、特定の入力のためにひとつの「Access コントローラー」を使用することを好まれることがわかりました。そして障がいのあるプレイヤーの60%は、最大限の柔軟性を得るためにふたつの「Access コントローラー」を使用することを好まれました。この機能により、親子や兄弟姉妹といった形で協力プレイをすることも可能です。
また「Access コントローラー」をサポートするため、システムソフトウェアを大幅に強化しています。ボタン設定の重要度は極めて高いと考えており、コントローラー上の10個のボタンにほぼすべての機能をプログラムすることができます。また、デバイスごとに4つの拡張ポートをサポートしており、スイッチやフットペダルを拡張することも可能です。×ボタンを複数のボタンに配置して×ボタンを押す面積を大きくすることもできますし、逆にボタンを設定しないことで誤操作を防止できます。操作の無効化は、スティックに対しても行なうことが可能です。さらに長押しやボタンの同時押しも設定可能です。このように非常に多くのカスタマイズ機能を、ソフトウェアの観点からも実現しています。
DualSense Edge™ ワイヤレスコントローラーから学んだ多くのことを応用し、「Access コントローラー」ではスティックのデッドゾーンもカスタマイズすることができます。これは、スティックの感度が高すぎると感じるプレイヤーや、誤操作を避けるために入力が認識されない範囲を調整したいプレイヤーに役立ちます。ユーザーによっては指ではなく顔や腕などでスティックを操作することも考えられますので、このような感度変更はとても重要な機能となっています。
ボタンマッピング、スティックの感度、長押し操作、コントローラーの向きといった設定は、すべてプロファイルに保存し、いつでも簡単に呼び出すことができます。PS5では最大30個のプロファイルを自由に作成、保存することができ、その中から3つを「Access コントローラー」に登録することが可能です。「Access コントローラー」にはプロファイル切り替え専用のボタンがあり、異なるプロファイルをゲームやシーンに応じて素早く切り替えることもできます。
「Access コントローラー」は単体でも動作する高度なカスタマイズが可能なコントローラーであり、障がいのある多くのプレイヤーが1、2週間でその操作方法を熟知し、さらに長時間、さらに快適にゲームを遊んでいただけることを目標としています。
池ノ谷:「Access コントローラー」はパッケージについてもアクセシビリティを考慮した設計になっています。まずパッケージを設計するにあたって最も大事にしたポイントは、片手で開けられることです。どなたでも開封しやすいように、輪の形状をしたタブが各所に取り付けられており、片手で簡単に開くことができます。また、箱を開けると「Access コントローラー」本体と内容物が一層にまとめて配置され、簡単に取り出せてすぐに使えるような工夫も行なっています。
「Access コントローラー」は4つの3.5mm AUX拡張端子を搭載しています。こちらに新たなボタンやスイッチ、アナログスティックなどを取り付けることが可能です。今回はSIEのオフィシャルライセンス商品として、Logitech様に外部ボタンやトリガーを含むアクセサリーキットを開発していただいています。もちろん「Access コントローラー」だけでも高いカスタマイズ性を有していますが、このようなアクセサリーキットを提供していただくことによってプレイヤーの皆さんのカスタマイズの幅が少しでも広くなると信じています。
▲Logitech社が開発中のアタッチメント「Logitech G Adaptive Gaming Kit」
本コントローラーは先ほど堀越がお伝えした、3つの課題を抱える方に向けて開発されたコントローラーです。そのため、すべてのプレイヤーのニーズに100%完璧に応えることは難しいかもしれません。しかし、私たちはひとりでも多くの方にゲームを楽しんでいただきたいという想いを込めて、今後も改善に取り組んでいきたいと考えています。
「Access コントローラー」はとても特徴的な形状をしていますので、慣れる時間も必要でしょう。しかし、自分に合ったカスタマイズをしていただければ、標準的なコントローラーだけでプレイするよりも快適かつ簡単に、長時間プレイしていただけると信じています。また、パッケージにはQRコードなどが印刷され、本コントローラーの詳しい使い方などを解説するサポートページへご案内する予定です。
本コントローラーは早い段階からアクセシビリティの専門家やコミュニティーの皆さん、そして多くのゲーム開発者の意見を取り入れながら開発しました。日本においても何度もユーザーテストを行なわせていただき、実際に障がいのあるプレイヤーからフィードバックをたくさんいただきました。皆さんの助力がなければ、本コントローラーは完成しなかったと考えています。この場を借りて心より感謝を申し上げます。
「Access コントローラー」は障がいがある人に新たな扉を開いてくれる
続いて、一般社団法人日本支援技術協会の田代洋章氏とテクノツール株式会社の干場慎也氏が登壇、障がいやアクセシビリティ、そして「Access コントローラー」を実際に使用した感想を語っていただきました。
【登壇者】
一般社団法人日本支援技術協会 理事/事務局長
テクノツール株式会社 大阪営業所所長
田代 洋章
障害がある人のICT利用を支援する製品の開発・輸入・販売に約30年間企業活動として携わり、一方で、一般社団法人を立ち上げ、非営利活動として、デジタルアクセシビリティの啓発とその人材育成にも注力している。
テクノツール株式会社 広報担当
干場 慎也
「本当の可能性に、アクセスする。」をコンセプトに、ICT利用における入力支援機器でのサポートを行なう企業の広報を担当する傍ら、身体障害当事者としての活動について発信も行なっている。
田代:令和5年版厚生労働白書によると、国内における身体障がい者の数は約436万人となっています。そのうち、肢体不自由の方は約45%の189万人で、「Access コントローラー」を使用できる可能性のある方々が多く含まれる層となっています。これらの方々を含め、社会に求められるアクセシブルな環境と、「Access コントローラー」の果たす役割について少しお話しさせていただきます。
当協会は高齢者や障がいがある人のICT活用を促進するための、さまざまな事業を行なっており、デジタルデバイド(情報格差)の解消を大きな課題としています。誰もが気軽にデジタルの恩恵が受けられる環境づくりが必要と考え、デジタルアクセシビリティのマインドを持つ支援者を育てる事業を行なっています。もちろんゲームアクセシビリティについても少し学んでいただきます。また、デジタルアクセシビリティアドバイザー認定制度を拡充し、11月下旬には全国約300箇所で都合のよい場所と時間を選んで受験できるようになります。
当協会がこのように人材育成が重要だと考える、基本的なことについてお話ししたいと思います。日本ではいまだに、障がいとはその人自身だけの特性を指していることが多いのではないでしょうか。しかし、障がいは国際的には、個人の特性と環境の相互作用によって生じる動的な状態とされています。例えば、日本語が話せる人でも日本語が通じない国に出かければ、一種のコミュニケーション障がいとなるんです。
デジタルを活用できる人とできない人の間には、デジタルデバイドの問題があります。デジタルを活用できない大きな原因として、身体機能や認知機能に制限があるといった個人の「特性」と、アクセシブルではない製品やサービスがあるという「環境」が挙げられます。デジタルの活用方法を提案してサポートしてくれる人が身近にいないこと、これも環境にあたります。
私たちは新型コロナウイルスの感染拡大によって外出制限がかかり、会社に出勤できなくなったこともありました。これは身体機能的に歩くことができない人が、電車に乗って出勤できない状態と似ていますよね。障がいのある人もない人も、オンラインで仕事をすることになりました。つまり、個人の特性としては困らなくても、環境によって障がいを感じることがあるんです。裏を返せば、個人特性を支援するものと多様な方法を受け入れる環境があれば、障がいを感じることは少ないのではないでしょうか。
多様な価値観を認めた環境づくり、つまり共生社会を実現していくためには、世の中にある建物を含めた物やサービスがユニバーサルであることが重要です。ユニバーサルであることはアクセシビリティが確保されていることだと思います。共生社会を実現するうえで合理的配慮の提供は不可欠です。そして、配慮の大きさは個人特性によって違うはずです。何でも同じにすればいいのではなく、公平、公正になるようにアクセシビリティを確保したうえで、自己決定できる環境が準備されていることが重要です。教育場面や就労場面はもちろん、ゲームを楽しみたいと思う場面など、あらゆる場面で合理的配慮は必要だといえます。
ここ数年、障がい当事者や支援者からゲームアクセシビリティに関する問い合わせや相談を受けることがありました。そしてPlayStationにはどんな配慮があって、どんなアクセシビリティが確保されているのかなと関心があったところ、SIEさんから「Access コントローラー」を試してみませんか、というお話がありました。
まず、開封からワクワクさせてくれる配慮は素晴らしいと思いました。片手ですべての梱包を解いていくことができるんです。これは、諦めていたことが自分にもできるのではないかという、未来への期待が膨らむことだと感じました。これもアクセシビリティの確保に関するひとつの好例だと思います。
また、従来のコントローラーは手で持ってプレイするスタイルを想定していますが、この「Access コントローラー」は身体から離れた位置や適切な位置にセッティングすることが可能です。身体の動きに制限がある人の、姿勢や動きに合わせることができるんです。円形に配置されたボタンは、手を広げた際に指先で自然に複数のボタンを押すことができました。形状の変更が可能なボタンは、手や指を最小の動作で押すことを可能としていました。指を伸ばしたときに押せる形状や、曲げたときに押せる形状を選ぶことができました。
干場:私は「脊髄性筋萎縮症」という病気の当事者です。ボタンのアタッチメントの形状なのですが、上部に出っ張りのあるカーブボタンキャップが、本当に使いやすかったです。実際に指が触れる部分と作用点との間に距離があることによって、自分の身体に無理のない状態でボタンを押すことができました。これによってボタン操作がとてもやりやすかったです。
また、一般的なアーケードコントローラーのレバーのような形をしているボールスティックキャップは、少ない力で大きな動きが可能になります。PS5に付属しているDualSense ワイヤレスコントローラーのアナログスティックも軽い力で動かせるのですが、「Access コントローラー」のボールスティックキャップではさらに力が加わりやすくなるので、腕の力が弱い私のようなプレイヤーでもかなり疲労を抑えてゲームをプレイすることができました。レースゲームをプレイしましたが、軽い力で細かい操作がこなせるので、とても遊びやすかったです。
「Access コントローラー」の登場により、ゲームをプレイする人たちのなかに身体的な制約がある人がいることが可視化されると思います。身体的な制約に対するゲームのアクセシビリティというものを議論する場が、これから増えていくかもしれません。ゲームの大会では公認のコントローラーであれば使用しても大丈夫ということが多いので、そういったときに本コントローラーを使うことで、今までは挑戦できなかった方々が大会に参加できると思います。
しかし「Access コントローラー」を身体に制限のある人が使う際に、自分自身で設置できない場合があると思います。そういった人のために家族や支援者の方、ソフトやハードをつくる開発者の方などとの情報のやりとりがより活発になれば、アクセシビリティがより発展できる土壌が生まれるのではないかと思います。
アクセシビリティを発展させるというのは、ただ何かを便利にするだけではないと考えます。現在までにさまざまなゲームが生まれて、世に送り出されてきました。プレイヤーはそのゲームの主人公として物語や競技を追体験してきたわけです。その物語や競技が自分に与える影響は、計り知れないと思っています。それをもとに新たなクリエイティブが生まれることもあります。
ですが、この「Access コントローラー」が登場するまで、ゲームを遊ぶコントローラーに触れることができなかった人がたくさんいます。ゲームを遊ぶ入り口の部分でつまずいて、たくさんの物語や感動、興奮といったものを知らない状態で生活していた人がいると思います。本コントローラーはそういった方々に対して、新しい扉を開いてくれるものになるのではないかと思います。「Access コントローラー」を手に取った障がいの当事者が、これをきっかけにさまざまな物語に触れて新しい表現を産み出したり、誰かとつながったりするようなきっかけになればいいなと思いました。
遊びの可能性を広げてくれる素晴らしいデバイス
最後に、株式会社 ePARAに所属する畠山駿也氏が登壇。テストプレイを行なった「Access コントローラー」のプレイフィールと、畠山氏が感じているアクセシビリティの現状についてお話いただきました。
【登壇者】
株式会社 ePARA 所属
畠山 駿也
「デュシェンヌ型筋ジストロフィー症」の格闘ゲーマー。持病の進行でコントローラーが握れなくなり一度ゲームを諦めるも、遊ぶことを諦めきれず、あごで操作するコントローラーを仲間と制作。eスポーツプレイヤーとして大会に出場しながら、ゲームのアクセシビリティについて発信、eスポーツイベントのプロデュースを行なっている。
畠山:「Access コントローラー」は、多くの人々にとってゲームを楽しむきっかけとなる重要なツールになると私は思っています。身体的な制限がある方や特別なニーズを持つ人にとって、ゲームはエンタテインメントの一環であり、コミュニケーションの手段でもあります。
私は「進行性筋ジストロフィー」という病気を持って生まれ、子どものころから車椅子に乗っており、外で友達と遊ぶことはあまりできませんでした。そういった生活の中でも友達とつながりをつくり、コミュニケーションを取ることができたのはゲームのおかげだと思っています。
病気の進行で思うようにコントローラーが握れなくなってしまい、ゲームをプレイすることを諦めたこともありました。しかし、それでもゲームで遊ぶことができないかと思い、ゲームをプレイするための環境を整えて、現在は障がい者eスポーツの活躍支援を行なうePARAという会社で働いています。そんななか、SIEさんから今回のお話をいただき、「Access コントローラー」のテストプレイをさせていただきました。印象に残ったのは、さまざまな設定が可能なことと、仮想コントローラーのアシスト機能、そしてボタンキャップの形状です。
最初に驚いたのは、コントローラーに設定ウィザードが備わっていることです。コントローラーをつなぐだけで、ボタンの取り付けやコントローラーに関する説明が始まるようになっており、「Access コントローラー」のセッティング自体をゲーム体験のように感じることができました。本コントローラーがきっかけで初めてPS5に触れる人もいるのではないかと思います。設定ウィザードが手厚いため、アクセシビリティに対する事前知識のない当事者や支援者にとってもセットアップから楽しめる、とてもいいつくりだなと感じました。
設定を変更する際はボタンひとつでコントローラーの設定画面を表示させることができるので、ゲームプレイを中断することなくコントローラーの最適化を行なうことができます。さらにPS5本体のアップデートによって新たに追加されたアクセシビリティ機能によってふたつのコントローラーを組み合わせることで、支援者と一緒に自分に最適化したプロファイル設定を考えることも可能です。実際に私は支援者の方とプロファイルの設定をしながら、さまざまなゲームをプレイしました。
私がゲームをプレイする際に一番苦戦する部分である操作の最適化が、この機能によって誰かと操作を分けて行なうことで設定項目をより効率よく設定できるので、とてもいいなと思っています。操作を分けてゲームを楽しむこと、それがコントローラーの設定をしながらできることは、「Access コントローラー」だからできる新しいゲームの楽しみ方だと思いました。仲間と一緒に冒険の準備をしているようで感動しました。
また、「Access コントローラー」にはさまざまなボタンが用意されていて、箱から取り出すだけで楽しいです。ボタンの取り外しが非常に簡単なうえに、細部にまでこだわることができて感動しました。私のように力の弱い人間がボタンをうまく押せるか不安でしたが、自分に合ったボタンを見つけることができました。それは、押すのではなく指を引っかける操作で入力することができるカーブボタンキャップです。
スティックに近い場所にあるボタンにこのカーブボタンキャップを配置し、それに干渉しないように外部入力スイッチを増設しました。私は顎でスティックを操作するために「Access コントローラー」を顔の前に固定する必要があったので、押すボタンが少なくなってしまうのではと危惧していましたが、スティックの位置や向きを細かく調整し、顎でスティックを操作しながら口の横でカーブボタンキャップに変えたボタンを押すことができました。また、本コントローラーには三脚用の固定ネジ穴があるので、市販のカメラクランプに取り付けることも可能です。
自分に合った位置でコントローラーを固定することができるのは、とてもいいことだと思いました。スティックの取り付け向きも自由に変更できるため、机の上に置く以外の特別なニーズを持つ私にとっても非常にアクセスしやすいつくりになっていると感じました。
アクセシビリティで大事なことは、遊びの限界をつくらないことだと思います。遊ぶことを諦めていたあのゲームにも挑戦しようと思わせてくれる「Access コントローラー」は、遊びの可能性を広げてくれる素晴らしいデバイスだと思います。
皆さんはeスポーツの大会に参加したことがあるでしょうか? 私は過去に何度か出場したことがあり、eスポーツの魅力は対戦を通して生まれる人と人との交流であると私は考えます。
ふだん私は対戦格闘ゲームをプレイしていますが、公式のレギュレーションでは使用デバイスのカスタマイズに制限があり、レギュレーションの中で許されるデバイスで参加する必要があります。私のように身体的な制限がある方や特別なニーズを持つ者にとって、平等な操作環境を得るためのデバイスのカスタマイズは必要なことではあるのですが、そのカスタマイズが大会のレギュレーションに触れることがあります。
私がプレイしている『ストリートファイター6』では、従来の操作方法以外にも「モダン操作」という、よりアクセシブルな操作方法が追加され、それを使用した公式大会への参加が認められています。私はその操作方法を使用して世界的な公式大会へ参加することを目標としていますが、多くの大会ではエントリーをする前に、それぞれの大会のレギュレーションを確認しなければなりません。問い合わせをした結果、カスタムしたコントローラーの使用を断られたことは一度もありませんが、eスポーツの大会でこの「Access コントローラー」の使用がレギュレーションによって認められることで、私のような方がよりeスポーツにアクセスしやすくなる社会になることを期待しています。
最後に、ゲームアクセシビリティについて、私が課題と感じていることをお話ししたいと思います。先日、バリアフリーeスポーツの体験交流イベントを企画して実施しました。目的は、たくさんの参加者にアクセシブルなデバイスを使ったeスポーツ体験をしてもらうことでした。障がいの有無を問わず、さまざまな人たちにゲームアクセシビリティやゲームをプレイするための工夫を共有することができたと思います。ですが、それでもゲームアクセシビリティに関する意識は、海外と比較するとかなり低いのが現状です。私のような方がゲームに触れる際に、そのゲームをプレイするための工夫を共有したり、ゲームアクセシビリティについての周知を当事者や支援者に広く届けたりする活動が、今後は重要になるのではないかと思います。
「Access コントローラー」が発売されることで、自分の状態にマッチするようなプロファイルを支援者とつくったり、自分で制作したプロファイルを公開したりなど、遊びの工夫をプレイヤー間で共有できるのではないかと予想します。私自身もそういったアクセシビリティの認知度の向上につながる場をつくっていきたいと思うようなイベントになりました。今後は「Access コントローラー」を使ったイベントを定期的に実施し、日本のゲームアクセシビリティ向上につながる活動を続けていきたいと思っています。
▲SIE堀越朝(後列左)、池ノ谷優一郎(後列中)、一般社団法人日本支援技術協会・田代洋章氏(後列右)、株式会社ePARA所属・畠山駿也氏(前列左)、テクノツール株式会社・干場慎也氏(前列右)。
【試遊】
開封からセットアップ、プロファイル調整までを体験
続いては、「Access コントローラー」の試遊体験を実施。本コントローラーの開封からセットアップ、実際に使用してのゲームプレイを、さまざまなメディアの方たちに体験していただきました。
「Access コントローラー」機能紹介映像 | PS5
パッケージは片手で開封できるように設計
「Access コントローラー」のパッケージには輪の形状をしたタブがあり、軽い力で引っ張ることで簡単に開封することができます。パッケージを開けると各種同梱物が一層にまとめられていて、取り出しやすいのもポイントです。開封や同梱物の取り出しを片手で行なうことができるのは、本コントローラーの大きな特徴です。
交換可能なボタンとスティックキャップ
Access コントローラーのボタンレイアウトをご自身の可動域に合わせて調整でき、また付属する19個のボタンキャップや3個のスティックキャップを交換することで、快適なプレイスタイルを実現します。
スティックまでの間隔が調整可能
スティックのアームの長さを調整し、理想的な位置でロックすることで快適にゲームプレイを楽しむことができます。また、本コントローラーは手で保持せずに据え置きの状態で使用でき、机の上や車いすのトレイに置いたままプレイ可能です。アクセシビリティ周辺機器などを機器に固定するための取り付けネジの業界規格であるAMPSマウントや三脚に簡単に固定でき、360度回転調整できるため、最も快適な角度で使用できます。
他のコントローラーとの連携が可能
最大2台の「Access コントローラー」を組み合わせて、単一の仮想コントローラーとして使用できます。単一の仮想コントローラーをふたりで操作することも可能です。また、DualSense ワイヤレスコントローラーまたはDualSense Edge ワイヤレスコントローラーと組み合わせることで、ハプティックフィードバック、アダプティブトリガー、モーションセンサー、タッチパッドスワイプなどの機能も追加できます。
外部入力デバイスや周辺機器との連携も
4つの3.5mm AUX端子に、さまざまな外部スイッチ、ボタン、アナログスティックなどを接続して拡張できます。これらはPS5本体設定から入力内容を変更できます。
カスタムプロファイルを作成&保存
「Access コントローラー」は、ハードウェアのカスタマイズにとどまらず、UIでのパーソナライズ設定など、プレイヤーの好みに合わせた新しいプレイスタイルを提供するためのさまざまな機能を備えています。PS5本体設定に最大30個のコントロールプロファイルを作成できます。また「Access コントローラー」には最大3個のプロファイルを保存でき、プロファイルボタンで簡単に切り替えることが可能です。特定のタイトルやジャンル(格闘ゲームやレースゲームなど)ごとに好みのプロファイルを作成し、保存することができます。
PS5本体から、「Access コントローラー」を使用する際の向きや各ボタンの割り当ての設定、ボタン長押しのオン/オフ切り替え、さらには異なるふたつの入力信号をひとつのボタンに割り当てる設定が可能です。
ボタンの長押しは、コントローラーのどのボタンにも設定できる斬新なボタン操作です。長押し設定をしたボタンは一度押すだけで長押ししていることになり、実際にボタンを押し続ける必要がなくなります。例えば『グランツーリスモ7』では、R2ボタンを実際に押し続けなくても一度ボタンを押すだけで、クルマのアクセルを踏み続けることが可能です。
また、デッドゾーン(ゲーム内でアナログスティックが認識されるまでの移動距離)やスティック感度を調整できる機能は、ゲーム内でのより細やかな操作を可能にします。
【Q&Aセッション】
商品コンセプト、企画経緯、ユーザーインターフェースについて
メディア先行体験会の最後には、登壇された方々や関係者へのQ&Aセッションも行なわれました。その内容をお届けします。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部 1課 池ノ谷 優一郎(写真左)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部 2課 堀越 朝(写真右)
──「Access コントローラー」の企画は、いつどのような経緯でスタートしたのでしょうか?
池ノ谷:構想も含めると5年くらいかかっています。アクセシビリティの設定自体はPlayStation®4から行なっていますが、コントローラーとしては初の試みとなっています。通常のDualSense ワイヤレスコントローラーでは操作が難しいという声を聞いていたなかで、そういった方々がどうすればPlayStationのゲームをプレイできるかを考えました。そして今回は、プレイヤーの皆さんがカスタマイズできることを大事にした「Access コントローラー」の開発に至りました。
堀越:コミュニティーやコンサルタントの皆さんの力を借りて、”ゲームのコントローラーといえばこれ”という世界をどのように変えられるのか? コントローラーを口元に持ってきて顎で操作する方などは、通常のコントローラーを無理をして使っています。ゲームとはやはり楽しいものであるべきだと思いますから、そういった方々でも快適に使えるコントローラーにするために、とても苦労しました。
──開発チームの規模はどのくらいだったのでしょう。
堀越:日本やアメリカ、欧州に拠点を置いて、それぞれがコラボレーションをしながらつくりあげています。また、ユーザーリサーチ専門のチームやユーザーテストに関わっていただいた方々、外部のコンサルタントの方なども含めると、数百人という多くの方々に支えられています。言語に関係なくグローバルな形で本コントローラーを開発できました。
──「Access コントローラー」を企画するうえで、特にこだわった点や難しかったことを教えてください。
池ノ谷:まずはハードウェアの側面からお答えします。「Access コントローラー」は、片手で開けられることをとても大事にしたパッケージとなっています。パッケージの開封からセッティング、ゲームのプレイという一連の流れも含めて、アクセシビリティを考慮した設計にこだわっています。SIEとしては今回が初のアクセシビリティコントローラーということで、パッケージに関しても初の試みということで、ここまで来るのが大変だったところではありますが、こだわったポイントのひとつだと思っています。
ハードウェアとしてはカスタマイズ性を重視しており、ボタンの取り外しやすさと取り付けやすさのバランスがとても難しかったです。設計でも工夫したポイントで、苦労したところでもあります。
堀越:ソフトウェアについても多くの工夫を取り入れています。ボタンマッピングの設定画面はプロトタイプを含めると何度もユーザーテストを重ねています。実際に障がいがある方に触れていただいて、たくさんの意見をいただきました。「Access コントローラー」は新しいコンセプトのコントローラーのため、理解していただくことも重要ですから、迷いなく設定できるようにUIのデザインは工夫しました。
──パッケージを開封する際のシールが剥がしやすくて驚きました。
池ノ谷:パッケージは開けやすさをポイントとしていましたが、紙のようなシールを用いることで実現できました。これが丈夫なシールだと、このような体験はできないと思います。そういった体験が損なわれないようにするといった設計は、すごくこだわったポイントになります。
──ゲームの開発者に向けて、今後「Access コントローラー」のガイドラインをつくることは考えていますか?
堀越:この「Access コントローラー」は特定のゲームタイトルに向けたものではなく、サードパーティーのゲームでも使用できるような設計にしています。ゲーム開発者の方からの意見もいただきながら本コントローラーは開発していますので、ご理解いただけるかなと思います。
──現在の形状や仕様に決まるまでに、さまざまな試行錯誤があったと思います。その際の苦労話などがあればお聞かせください、
池ノ谷:ハードウェアでは、特にボタンの形状に試行錯誤を重ね、こだわっています。ピローボタンキャップはユーザーテストでとても人気があったので、こちらをデフォルトとして配置しました。使いやすいとコメントをいただいたカーブボタンキャップについても、この形状に辿り着くまでにはとても苦労しました。
──本コントローラーにおいてはユーザーテストがとても大切だと思いますが、どれくらいの回数が行なわれたのでしょうか。
池ノ谷:通常の商品機能にかけるユーザーテストと比較して、遥かに多くの回数を実施しています。アクセシビリティ全般に言えることだと思うのですが、やはり健常者が開発してデザインして、それでOKとはならないと思います。例えば視覚障がい者向けに色の補正といった機能がありますが、実際にその障がいがある方に触っていただいてチェックしないといけないと思います。また「Access コントローラー」は初の取り組みでもあったので、ゼロから考えていったところは一番苦労した点かなと思います。
堀越:ユーザーテストをしていただいた方のなかに、これまでにPlayStationのゲームを遊んだことがないというお子さんがいらっしゃいました。「Access コントローラー」で実際にプレイしていただいたのですが、PlayStationのゲームがプレイできて楽しかった、というコメントをいただいたんです。障がいがあるため難しかったと思うのですが、最後には手紙も送ってくださって開発メンバー一同感動しました。そういった方々に、ぜひPlayStationのゲームを届けたいと考えています。
アクセシビリティ全般や「Access コントローラー」について
一般社団法人日本支援技術協会 理事/事務局長・テクノツール株式会社 大阪営業所所長 田代 洋章
──アクセシビリティを重視した入力インターフェースを扱うにあたり、特に気を付けていることやこだわりなどがあれば教えてください。
田代:身体機能を観察して、適切なセッティングをしていくことが必要となります。例えば無理な姿勢を強いてしまうことによって二次障害を引き起こす可能性があるんです。そういったことはやはり避けたいところですね。ケースによっては医療的な知見を持ったセラピストと一緒にフィッティングをしていくことが重要だと思います。
──アクセシビリティを重視した入力インターフェースには、どれくらいのニーズがあるのでしょう。また、現状はそのニーズに応えられるだけの数や商品があるものなのでしょうか。
田代:あまり認知はされていませんが、PCやタブレット、スマホには標準的にアクセシビリティ機能は備わっています。スマホであれば片手で操作できますし、文字の読み上げだったり音声で操作したり、顔の動きで操作したりということが、実は特別なアプリをインストールしなくてもできるようになっているんです。
障がいのある方を想定した機能なのですが、障がいのない方にとっても便利な機能なので、ふだんから使用している人も多いはずです。そのため、特別なものだと考えないほうがいいんじゃないかなと思います。標準アクセシビリティでカバーできない部分に関しては特別なデバイスを使ったりしますが、それらはとても高価だったりします。ゲームアクセシビリティに関しては、これから盛り上がっていくと思いますし、むしろゲームの分野がデジタルアクセシビリティを牽引していく可能性が考えられると思います。
──「Access コントローラー」の企画について、初めて知った際の印象を教えてください。
田代:SIEさんはグローバル企業だなと思いました。ゲームを通じて多様な人たちが暮らすユニバーサルな社会をつくっていくという、覚悟のようなものを感じました。
──実際に「Access コントローラー」に触れてみて感じたことを教えてください。
田代:「Access コントローラー」はインターフェース的な製品ではなく、本体そのものがアクセシブルな製品設計となっているのがとても特徴的だなと思いました。身体のさまざまな動きに対応できるボタン形状だったり、プレイヤーの姿勢に合わせて設置できたりなど、とても素晴らしいと思います。あと、ふたつのコントローラーを使うこともできるんですよね。実はふたつのコントローラーでひとりのプレイヤーを演じることができるというのは、とても大きなポイントなんです。重い障がいのため、複雑なことはできないけれどひとつのことであればできるというケースもあるじゃないですか。できることが限られている人でも、ひとつのスイッチを押すだけでゲームに参加できるんですよ。今までは観客であった人がプレイヤーに変わるというパラダイムシフトは、非常に大きいと思います。
──「Access コントローラー」の登場により、どのような影響が広がってほしいとお考えですか?
田代:障がいのある人という特別なお客さんではなく、そういう特性を持ったお客さんがいて、そういった人たちにゲームの世界を普及していくことができるのではないかなと考えています。
──アクセシビリティに関するデバイスは海外製のものが多いと思いますが、これについてはどのようにお考えでしょうか。
田代:PCやスマホの入力デバイスなどもありますが、おっしゃるように、国産のものは少ないです。輸入品がとても多いですね。日本と欧米とでは、障がいに対する捉え方がかなり違うと感じています。障がいとは個人の特性だけでなく、環境との相互作用によって感じるものなんです。そういった捉え方をすると海外では普及していきますし、当たり前のものになっていくんです。やはり日本では特別な人に対する特別なもの、となってしまうので、考え方の転換が必要だと思います。
──障がい者が通う特別支援学校におけるアクセシブルなインターフェースについての現状を教えてください。
田代:むしろ特別支援学校の方がデジタルデバイスを活用しようとしていますね。教育現場はどうしても紙が主体じゃないですか? しかし特別なニーズがある生徒がいるところはデジタルを活用することで、そこをクリアできるんです。教科書もデジタル版がありますので、タブレットで拡大したりできます。特別支援学校こそデジタルの恩恵をきちんと受けられる場所なのではないかなと思いますし、それを実現するためにたくさんの支援が行なわれています。
バリアフリーeスポーツや「Access コントローラー」について
株式会社 ePARA 所属 畠山 駿也
──畠山さんが所属されているePARAでは、これまでにさまざまなバリアフリーeスポーツの企画・運営・支援を行なわれていますが、具体的な内容について教えてください。
畠山:まず、視覚情報を用いずに音声情報のみで全盲のプレイヤー同士が戦う対戦格闘ゲームの大会「心眼CUP」という企画を運営しています。これは『ストリートファイターV』で行なったものなのですが、現在は新作の『ストリートファイター6』が発売されております。弊社ではこの『ストリートファイター6』のサウンドアクセシビリティに関する開発に携わりまして、これからも視覚情報を用いずに音声情報のみで戦うeスポーツ大会を運営したいと考えています。
また、レースゲームを使用した体験交流イベント「クロスライン」を運営しました。実際のサーキットを会場としてプレイヤーが集まり、開始時間に合わせて皆でゲームの耐久レースを行なうという内容です。それ以外では、車椅子を使用していて現実のサッカーをプレイできない人たち11名がオフラインで集まって行なう、サッカーゲームのバリアフリー交流イベントも行なっています。
私が関わったものでは、岩手県の八幡平市で対戦格闘ゲームのバリアフリーeスポーツイベントを行ないました。私のように車椅子に乗っている方でも参加できるようなバリアフリーの会場で、さまざまなアクセシブルなデバイスを展示させていただき、これまでにゲームを遊んだことがないという障がい当事者の方でもゲームを楽しんでいただけるイベントになります。
──実際に「Access コントローラー」に触れてみて感じたことを教えてください。
畠山:先ほどもお話しましたが、最初は私の筋力でボタンをうまく押せるか不安でした。しかし「Access コントローラー」にはカーブボタンキャップというものがあったんです。私は指を前に出す力はあまりないのですが、握る力は大丈夫なんです。カーブボタンキャップでは指を握る動作でボタンを押すことができます。ボタンの組み合わせによってコントローラー自体をうまくゲームに取り入れることができるのはいいなと思いました。
──「Access コントローラー」の登場は、畠山さんのこれからの活動にどのような影響があるとお考えですか?
畠山:一番期待しているのは、eスポーツの大会に参加しやすくなることです。こういったアクセシブルなコントローラーがeスポーツ大会で使用できるようになるとうれしいですね。私がこれまで使用していたコントローラーは通常のものとは全く違うので、大会にエントリーする際は「こういったカスタムをしていますが参加できますか?」と許可や確認を取らないといけなかったんです。公式の大会で「Access コントローラー」が使用できるようになれば毎回問い合わせをしなくてもよくなり、参加できるのかという不安を抱えることもなくなるので期待しています。
──畠山さんは「Access コントローラー」の位置などをかなりカスタマイズされていますが、この配置から動かすことはありますか?
畠山:私はもともと対戦格闘ゲームが好きで、これまでにも主に顎を使ってプレイしてきたのですが、オフラインのeスポーツ大会に参加する際はふだんとは異なる環境でプレイしないといけません。いつもはPCがある机にコントローラーを固定しているのですが、このように車椅子に固定した状態でもプレイできるように工夫しなければならないという状況です。今年の4月に「EVO Japan」という対戦格闘ゲームの大会があったのですが、その際は今に近い形のセッティングで参加したんです。そういったことがあったので、デバイスの調整をしたり自分にとってベストな操作方法を見つけたりすることができました。
──「Access コントローラー」に慣れるまでは、どれくらいの期間が必要でしたか?
畠山:一週間ほどお借りしてさまざまなゲームをプレイしたのですが、ひとつのゲームにつき1~2時間くらいで慣れることができました。
──ゲーム以外の操作でPCなどを使う際に、不自由に感じることはありますか?
畠山:私はキーボードを使うことはできませんが、PCを使って仕事をしています。右手でマウスを動かし、左手でクリックを行なう感じです。文字入力はソフトウェアキーボードで行なっています。
──「Access コントローラー」と出会う前にもゲームを楽しまれていたとのことですが、その際に苦労したことを教えてください。
畠山:私が普通のコントローラーで対戦格闘ゲームがプレイできなくなったのが、19才くらいのときでした。そこで一度は諦めて、PCで遊べる他のゲームをプレイしていました。それでもやはり対戦格闘ゲームが遊びたかったので、どんな方法でもいいからプレイできないかと考え、顎で操作するデバイスをつくろうと考えたんです。最初はPlayStationのコントローラーをスマホのアームに固定していたのですが、顎が傷だらけになったりしましたね。できるかどうかもわからないのにやってみることが、最初は大変ではありました。しかし、そういったことを続けていくなかで、やはり私はゲームが好きなんだとあらためて実感しました。
PlayStationにおけるアクセシビリティ対応や取り組みについて
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
グローバル商品企画部 部長
若井 宏美
──「Access コントローラー」の登場はPlayStationにおけるアクセシビリティにおいて、大きな一歩だと思います。「Access コントローラー」の意義や展望について聞かせてください。
若井:PS5発売当時から、システムでのアクセシビリティ機能への対応はさせていただいていました。しかし、どうしても文字やビジュアル、サウンドなどの対応にとどまっていたなかで、今回は通常のDualSense ワイヤレスコントローラーが操作しづらい方に対して選択肢をご用意できたというのは、大きな一歩だと考えています。
今後の展望としては、アクセシビリティ機能全般に対していえることですが、「こういうものがあるべきだ」「こうするべきだ」という思い込みで詰め込んでいくよりも、世の中に出してみて実際に使用された方の声を聞きながら、ひとつずつ対応できればと考えています。
──ゲーム開発者の方々に対して広めていくべき知見があると思いますが、どのように考えていますか。
若井:われわれもどのようなフィードバックがくるのか楽しみにしています。100%ポジティブなフィードバックがくるとは思っていませんので、使い勝手のいいところや悪いところも含めて、まずはフラットに皆さんの声を聞いて、そのなかで可能なことについて進めたいと思っています。近年ではわれわれの「PlayStation Studios」もそうですし、パブリッシャ-の皆さんもアクセシビリティ対応についてすごく興味を持たれています。われわれとしてもこうした取り組みのなかで学んだことを共有していければと考えています。
──アクセシビリティ機能について、PS5だからこそできたことはあるのでしょうか。
若井:PS4のときのアクセシビリティ対応は、PS4の発売後にシステムソフトウェアのアップデートという形で追加した機能がほとんどです。そのため、できることが限定されていたという側面はあると思います。しかし、PS4で行なってきた対応を理解したうえでPS5は設計をスタートしているので、例えばPS4では音声の読み上げは限定された場面でしか使用できませんでしたが、PS5ではなるべく多くの場面で使えるようにしています。これはプラットフォームを設計する最初の段階で対応を決めていたからこそできたと考えています。
──「Access コントローラー」は、PS5の設計段階から開発が決まっていたのでしょうか。
若井:「Access コントローラー」はどのプラットフォームでというよりも、通常のコントローラーが使いづらい方がいるというところから、アイデアや技術の継承を経て、検証を重ねてつくりあげていったものです。独立したプロジェクトとして考えていたものを、世の中に出せる準備が整ったという形になります。
──これまでにゲームを遊んだことがない人が、ゲームに触れるきっかけとなるコントローラーだと思います。そういった方々に対してどのように「Access コントローラー」を届けるかという戦略はありますか。
若井:コミュニティーのなかで、「こういったコントローラーがある」「新しい遊び方ができる」「自分でもこういった使い方ができた」とSNSで発信している方は多いと思います。そのため、まずは「Access コントローラー」が必要なコミュニティーの方に本コントローラーをお届けし、その方たちに発信していただく。これが皆さんにとって一番信頼度が高いのではないでしょうか。今後もどういった形で皆さんに気づいてもらえるかということは、勉強しながら考えていきたいと思っています。
──日本国内や世界のユーザーからの反応はいかがでしょうか。
若井:選択肢が増えることや、ゲームをより多くの皆さんに遊んでいただけるように取り組んでいることに対して、ポジティブな意見をいただいています。
──こういったアクセシビリティを重視したコントローラーはあまり例がないと思うのですが、反応の大きさについては予想外だったのでしょうか。それとも予想通りでしたか?
若井:そういう意味では予想通りでした。もちろんDualSense ワイヤレスコントローラーと同じくらいの方々が使用すると想定しているわけではありませんが、一方で全く興味がないというわけでもなく、われわれが想定していたような推移で反応をいただいていると思います。こういったコントローラーは突発的に売れてそれで終了、というものではなく、長くきちんと育てていくことが大事だと思います。例えば2~3年後にPS5を新たに購入しようと思った方が、そのときにも「Access コントローラー」を購入できることが大切だと考えています。
★このたび「Access コントローラー」が「2023年度グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)」を受賞しました。詳しくはこちらをご覧ください。
PS Blogの「Access コントローラー」記事はこちら
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