映画「グランツーリスモ」9月15日 日本公開記念──山内一典インタビュー

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映画「グランツーリスモ」9月15日 日本公開記念──山内一典インタビュー

「グランツーリスモ」シリーズを利用した、バーチャルとリアルをつなぐ革新的なドライバー発掘・育成プログラムとして2008年から2016年まで実施された「GTアカデミー by 日産×プレイステーション®」(以下「GTアカデミー」)。2023年9月15日(金)に日本全国の映画館で公開される映画「グランツーリスモ」は、その過酷なプログラムを勝ち抜き、プロドライバーへの道を切り開いたチャンピオンのひとり、ヤン・マーデンボロー選手の実話を描いた作品だ。

映画「グランツーリスモ」予告映像

映画「グランツーリスモ」9月15日 日本公開記念──山内一典インタビュー

今回は「グランツーリスモ」シリーズ プロデューサー兼映画「グランツーリスモ」エグゼクティブプロデューサーの山内一典にインタビュー。26年目を迎えたシリーズの原点『グランツーリスモ』誕生の舞台裏や、「GTアカデミー」開催当時のエピソードを語ってもらった。

26年目の今だから語れる『グランツーリスモ』

──『グランツーリスモ』発売から今年で26年目となります。シリーズ誕生の経緯を改めてお聞かせください。

僕がPlayStation®(以下PS)の立ち上げチームに入ってビデオゲームをつくれと言われた時、最初に100本分ぐらいのゲームの企画書を書いたんです。その時、最初に書いたのが『グランツーリスモ』の企画書でした。PlayStationはコンシューマレベルで3Dグラフィックを扱える初めてのハードウェアで、いろいろな可能性がありました。だから企画書を書いたゲームはとにかく全部制作したかったし、制作する気でいたんですが、今から考えるとさすがに若気の至りでした。

▲山内が作成した『グランツーリスモ』の最初の企画書。

──その中で企画が通ったのが『グランツーリスモ』だったのでしょうか。

いえ、積極的にプレゼンしてはいたんですが、ゲームを1本開発するとなれば多くの予算が必要ですし、入社したばかりの若者が出した企画に簡単にOKは出ませんでした。そこで『モータートゥーン・グランプリ』(PS用)という、みんなが想像しやすいコミカルな見た目のレースゲームの企画をつくったんです。見た目は違えどレースゲームですから、その企画が通れば実質的に『グランツーリスモ』の開発も始められる、と考えたんです(笑)。幸いその作戦は成功して『グランツーリスモ』が動き始めました。

──当時の開発体制はどのようなものだったんでしょうか。

PlayStationの立ち上げ時、社内のスタッフはごくわずかで、『グランツーリスモ』の開発チームも企画を立てた僕しかいませんでした。それで、一からスタッフ集めを始めたんです。まず声をかけたのが、戸田誠司さんがやっていた、海外ゲームのローカライズを手掛けるBanditという会社でした。そこで「正式に企画は通っていないけれど、3ヵ月だけ協力してもらってデモ版を作りたい」と話したのが、本当の『グランツーリスモ』の開発のスタートでした。結果的に、完成まで6ヵ月かかったんですけど(笑)。その半年は僕もBanditのオフィスに入り浸っていました。今も『グランツーリスモ』の挙動プログラムを担当している丹(明彦)や、グラフィックを担当する横内(威至)は、そのころにデモを見せて「一緒にやらない?」と誘ったスタッフです。

──エンジニア同士のコミュニティーは、どうやってつながっていたのでしょうか。

当時、コンピュータ関連の情報メディアは雑誌しかなかったので、主にそれを通じてです。僕も小学生の時からずっとPCを使っていましたから「Oh!MZ」「Oh!X」といった雑誌をいろいろ読んでいたんです。そうした雑誌にはプログラムを投稿している人や、連載を持っている人がたくさんいたので、目を付けた人がいたら編集部に電話をしてアポイントを取っていきました。

──当時の開発現場で、憶えているのはどんなことですか。

僕も含めて当時はスタッフ全員が若かったので、みんなずっと一緒にいて作業していました。作業していたかと思うと、突然タイムアタック大会が始まる。まるで学生の合宿生活みたいなことを何年も続けていました。ゲームを開発している時間と、ゲームを遊んでいる時間が渾然一体となっていく中で自分たちのゲームができあがっていく。それが楽しかったんですよね。純粋に、努力したら努力しただけ良くなっていくのがビデオゲームというもので、それが楽しいという気持ちも強かったです。

──登場する自動車のメーカーとのやりとりはどうされていたんでしょうか。

自動車メーカーの許諾を得るのはハードルが高かったですね。それぞれの会社の代表番号に電話をかけて、いろいろな部署に回されながら最終的に誰かにやっと話を聞いてもえる、みたいな感じでした。「リアルドライビングシミュレーター」というジャンルもなかったし、そもそも世の中にPlayStationがまだ出ていないわけですから、企画の概要を伝えるのはとても苦労しました。そうして連絡をとっていった中で最初にトヨタさんがOKしてくださって、それをきっかけにほかの自動車メーカーさんにもご協力いただけるようになりました。

──シリーズを重ねる中でターニングポイントとなった作品はあったのでしょうか。

個々の作品というよりは、ハードウェアの変化がターニングポイントでした。基本的にビデオゲームはハードウェアが変化する時に、仕事の仕方や物のつくり方がガラッと変わるんです。「グランツーリスモ」をつくっている時に限らずですが、僕らは基本的に好奇心が強くて面白そうなことはなんでもやってみるので、新しいハードウェアで何ができるかを考え、つくっていく中で新しい「グランツーリスモ」が姿を表してくる感じでしょうか。

──これまでのシリーズに実装された機能で、その好奇心から生まれたものを挙げるとしたら?

『グランツーリスモ4』(PS2用)からフォトモードを実装しましたが、あれは「写真」という表現をビデオゲームの中できちんとできないかという、僕らの純粋な好奇心から生まれた機能でした。それが『グランツーリスモ7』のスケープスのようなHDRの写真体験につながっていますが、そうした本来ならレースゲームには必要ないけれども情熱と好奇心から生まれてくるもの、余白ともいえる部分は、開発の中で大事にしています。

──『グランツーリスモ』開発当時、この作品が自動車文化の一翼を担うような存在になるとお考えでしたか。

自動車文化の中の一ジャンルというか、一部になれたら幸せだなあ……と思う気持ちはありましたが、「僕たちが文化を担うんだ」といった主体的な意思はなかったです。当時はテレビ番組、ビデオ、雑誌とクルマに関するメディアが山ほどありましたし、どちらかといえば僕らはその隅っこのほうでクルマを扱っている立場だと認識していました。

──それが今や、自動車メーカーやレース業界からも注目される大きな存在に。

本当にありがたいことに、今は世界中の自動車メーカーから、新しいクルマを「グランツーリスモ」に収録したいとか、全く新しいスポーツカーをデザインしてもらう「ビジョン グランツーリスモ」に協力したい、といったお話をどんどんいただけるようになりました。かつて『グランツーリスモ』をプレイした20歳の若者が45歳になり、クルマ業界の各マニュファクチャラーの中枢にいるようになったから、今の状況があると思っています。

──山内さんご自身は、現状をどう感じていらっしゃるんでしょうか。

この26年でさまざまな社会的な変化があり、クルマに向ける人々の意識も、業界も大きく変わりました。そんな状況の中で、段々「グランツーリスモ」がクルマ業界に対して担わなければいけない部分が大きくなってきているようでもあり、そこは正直、プレッシャーを感じているところでもありますね。

ヤン・マーデンボロー選手の歩みを追う映画「グランツーリスモ」

──映画「グランツーリスモ」を観ての感想はいかがでしたか?

「すばらしい映画になって良かった」と胸をなでおろしています。いわゆるエンタテインメント映画になっていて、観た人の気持ちをポジティブにしてくれる映画になっていますね。とても丁寧に緻密に作られているんですね。そこが良かったと思います。

──映画『グランツーリスモ』に、山内さんはどう関わられているんでしょうか。

僕は最初のシナリオ承認までですね。

──そもそも映画化の話は、どのあたりから始まったんでしょうか。

実は『グランツーリスモ』の映画化の話はかなり以前から出ていて、僕もソニー・ピクチャーズでのプレゼンに出たりしていたんです。それが2000年ぐらいのことです。「ワイルド・スピード」シリーズのようなクルマのカッコよさ、楽しさを描く内容でしたが、2008年に「GTアカデミー」のプロジェクトが動き出すと、それを映画化しようという話に変わっていきました。主人公の候補となる選手は何人もいるわけですが、その中からヤンが選ばれたんですね。

──ヤン選手は、どんな選手なんでしょうか。

彼は、イギリスで育って、PlayStationとコントローラー、そして「グランツーリスモ」を手にしたことでプロドライバーの世界への扉を開いた青年でした。まさにサクセスを成し遂げた存在で、「GTアカデミー」のチャンピオンになったばかりの時期はヨーロッパの報道にも取り上げられたんですよね。思い切りのいいドライビングが印象的でした。

映画のベースとなった「GTアカデミー」の裏側

──今回の映画『グランツーリスモ』のベースになったGTアカデミーは、どのように始まったんでしょうか。

『グランツーリスモ4』(PS2用)のローンチイベントをドイツのニュルブルクリンク24時間レースの場で行なった時に、日産のマーケティング担当だったダレン・コックスさんに会ったんです。「グランツーリスモ」のファンでもあった彼と、「ビデオゲーマーをリアルなレーサーに育てるのは面白そうじゃないか?」と盛り上がったのがきっかけになりました。

──構想自体は、山内さんの中に以前からあったんでしょうか。

僕は『グランツーリスモ3A-Spec』(PS2用)を開発していた2000年ごろから、「グランツーリスモ」でリアルなサーキットドライビングやテクニックを学べるという確信を持っていたんです。でもそれを実際に証明する機会はなかなかなくて。その8年後に、ようやく「GTアカデミー」でそれを証明する手段ができたことになりますね。

──当初はヨーロッパからスタートしたプロジェクトでした。

最初はヨーロッパ向けに「GTアカデミー by 日産×プレイステーション」が展開され、それがテレビ番組に取り上げられ好評を得たので北米、南米、中東、アジアと全世界に開催規模が広がり、2016年まで続いたんです。

──8年間で、20人のチャンピオンが誕生してプロドライバーになっています。

初期のヨーロッパ大会ではルーカス・オルドネス選手、ジョーダン・トレッソン選手、映画のモデルになったヤン・マーデンボロー選手らがチャンピオンになり、以降も多くのドライバーが日産のサポートを受けてデビューして世界各国のリアルレースで好成績を上げました。当時のチャンピオンたちには、その経験を活かして「グランツーリスモ ワールドシリーズ」でそれぞれ各国・各地域の言語で実況解説をしてもらったりもしていますよ。

──チャンピオンたちに共通点はあるのでしょうか。

ゲームといえど世界一になる人物というのは全員が尊敬できる、おそらく何をやっても成功するタイプの人物だと感じました。彼らは単にレースがうまいだけでなく、物事へのアプローチがすごく賢くて、人間としても興味が持てる人ばかりでした。つねに順位が付けられるスポーツの選抜の仕組みの中で、上位に上がってくる選手というのはそういった資質を持っているものなんですよね。

──山内さんご自身が携わったことで、何か発見はありましたか。

僕自身がモータースポーツの世界がどういうものなのか理解できたことが、ひとつの発見でした。ほぼすべてのプロドライバーは、レースに出て勝つだけでなく、自分でスポンサーを集める、言い換えれば何千万もお金を集めてシートを得るのが重要な仕事なんだと、その時知ったんです。素晴らしいクルマでレースを走るのは楽しい。その楽しさのためにドライバーはお金を集めなければならない。実際に、今のル・マン24時間レースなども出場ドライバーの半分はスポンサー兼ドライバーの人たちになっていますよね。

──リアルドライバーを夢見る人たちには、かなり厳しい世界なんですね。

実際に「グランツーリスモ ワールドシリーズ」に出場している選手たちも、リアルなモータースポーツの世界に興味はあるけれど、ドライバーの道に進みたいとは思っていない人が多いです。彼らはリアルのモータースポーツが、信じられないほどお金がかかるスポーツであることを理解しているから。でも一方で、それがわかったうえでバーチャルからリアルに参入していく選手たちもいます。今、日本で「SUPER GT」などに出場している冨林勇佑選手は、「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」プレシーズンテスト(『グランツーリスモSPORT』アンヴェイルイベント)で優勝したあとに、リアルのロードスターの耐久シリーズに参戦してチャンピオンになり、自分でスポンサーを集めてステップアップしていくという正攻法で、リアルレースのキャリアを積んでいます。

──イゴール・大村・フラガ選手や岡田衛選手など、バーチャルとリアルの両方のレースで活躍されている選手も、少しずつですが出てきました。

彼らにはとにかく頑張ってほしいし、成功してほしいです。モータースポーツって本当に総合格闘技みたいなところがあって、人間のすべての資質が要求されるんですよ。器用さだったり、速さ、体力はもちろんですけど、頭の良さや人間的な魅力も。あんなにすべてを求められるスポーツってなかなかないですし、そこに挑戦していく姿勢は本当に頼もしいと思います。

映画「グランツーリスモ」(原題:GRAN TURISMO)

日本公開日:9月15日(金)より全国の映画館で公開
監督:ニール・ブロムカンプ
出演:デヴィッド・ハーバー、オーランド・ブルーム、アーチー・マデクウィ、ジャイモン・フンスー ほか
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

映画『グランツーリスモ』公式サイトはこちら

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