プラチナゲームズ チーフゲームデザイナー、そして本作の総監督の神谷英樹です。
皆さん、『ソルクレスタ』の最新映像はいかがでしたか? あの『ムーンクレスタ』『テラクレスタ』の続編がこの令和の時代に? エイプリルフールのネタじゃなかったの? しかも、製作プラチナゲームズ!? …と、ハテナの連続で驚いた方も多いのではないでしょうか。
ご存じない方のためにご説明しますと、『ムーンクレスタ』『テラクレスタ』は、1980年代に日本物産(通称ニチブツ)というゲーム会社が送り出した作品で、どちらも味方機と“合体”するという遊びが取り入れられた、縦画面シューティングゲームです。
単身戦うシューティングゲームが多かったなかで、味方機と合体すればするほど攻撃力が増すというアグレッシブなゲーム性が、当時多くのゲームキッズを熱狂させ、両作ともその名をゲーム史にしっかりと刻みました。…もちろん、僕も当時リアルタイムでプレーして熱狂したゲームキッズのひとりです。
『ムーンクレスタ』©2014 HAMSTER Co.
『テラクレスタ』©2014 HAMSTER Co.
そして本作『ソルクレスタ』は、1985年にリリースされた前作『テラクレスタ』から36年の時を経て、『クレスタシリーズ』の正統続編としてプラチナゲームズが世に送り出す、“自在合体”シューティングです。
この奇跡のようなプロジェクトがどうやって実現したのか? 『ソルクレスタ』誕生の秘密をお話ししたいと思います。
プラチナゲームズは、『ベヨネッタ』に始まり、『マックス アナーキー』『メタルギア ライジング リベンジェンス』『ザ・ワンダフル ワン・オー・ワン』『NieR:Automata』『アストラルチェイン』など、これまで世に送り出した作品で“アクションの手触り感”を皆さんに高く評価して頂いて、“アクションゲームを作るスタジオ”という受け止め方をされてきました。
しかし僕たちは、「“面白い”ゲームを作ろう!」という気持ちでゲーム作りに取り組んでいる集団で、決してアクションゲームだけを作ろうと考えているわけではありません。
僕は、子供の頃からシューティングゲーム(…と言うと近年ではFPSを指すのが主流かも知れませんが)やアドベンチャーゲーム、ロールプレイングゲームなど、たくさんの思い出に残るゲームを遊んできて、いつしか「自分もゲームを作りたい」という想いを抱くようになり、その夢を叶えてゲームデザイナーになりました。
しかし、時代の変化や技術の進歩、ユーザー層の拡大などにより、ゲームの性質やそのトレンドは大きく変わっていって、製作者となった僕自身も、3D表現を主体とする大規模タイトルに関わるようになりました。僕が子供の頃に親しんだ、シンプルななかにも剥き出しの面白さがギュっと詰まった原初的な“クラシックゲーム”たちは、気が付いたら市場のメインストリームではなくなっていました。
これは製作サイドの都合の話になりますが…メインストリームではない種類のゲームのプロジェクトを立ち上げるというのは、そう簡単なことではありません。それに僕には立場上、会社のフラグシップとなるタイトルを開発しなければならないという使命もあります。日々の業務に忙殺されながら、それでも僕は、「ゲームを作りたい」という夢を抱いた頃の気持ちが忘れられず、せめて企画だけでも…と“あの頃”のようなゲームの構想を密かに練り、自分のなかで温めてきました。
そして時は過ぎ…いまから3年ほど前のある日、僕はスタジオヘッドの稲葉をミーティングルームに呼び、あるゲームのアイデアを打ち明けました。
「3機の戦闘機を組み替えて遊ぶ、縦スクロールのシューティングゲームのアイデアがあるんだけど。」
シューティングゲームというのは、主に戦闘機を操り、弾を発射して敵機を撃ち落とすシンプルなルールのゲームです。…が、なかにはごく少数ですが、多彩なパワーアップを任意に選べるシステムや、武器にも防具にもなる支援兵器で攻守を入れ替えて戦うシステムなど、他に類を見ない遊びを持ったユニークな作品もありました。
もしも今、もはや“古典”に分類されるこのジャンルに挑むのであれば、偉大な先人たちが残した作品のような“独創的な遊び”がなくては、我々が作る意味がありません。僕は、温めていた3機の戦闘機の“分離・合体”システムなら、歴史的作品に勝るとも劣らない新しいゲーム体験を実現することができる、そう確信して、このアイデアを稲葉に明かしました。
僕がひと通り説明をすると、稲葉はすぐに興味を持ってくれました。稲葉も常日頃から、子供の頃に熱狂したような作品を手掛けてみたい、と言っていたので、もしかしたらこんな機会を待っていたのかも知れません。
そして、実はこの時僕が稲葉に手渡した草案書は、こんな言葉で始まるものでした。
タイトル:『ソルクレスタ』
本作は、『ムーンクレスタ』、『テラクレスタ』の流れを汲む、「クレスタ・サーガ」の最終章で、シリーズの特徴である“合体”をさらに遊びの中核へと昇華させた、自在合体シューティングである―
『ソルクレスタ』の企画書
僕の“分離・合体”シューティングのアイデアは、純粋に新規作品を構想するなかで生まれたものです。でもその細部を固めていくなかで、“合体”をテーマにしたゲームの始祖とも言える『ムーンクレスタ』、『テラクレスタ』のことが、ふと頭に浮かびました。そして、もしも仮に、自分もユーザーとして愛したその作品たちの力を借りて、更に遊びや世界観を拡張できたら、どんなに楽しいだろう…と想像したら、妄想がどんどん膨らんで、ワクワクする気持ちが抑えられなくなってしまったのです。
その頃というのは、ハムスターさんが取り組まれている「アーケードアーカイブス」という、過去のクラシックゲームを復刻するプロジェクトが、世界中のユーザーから好評を博していて、そんな巡り合わせも、僕にその閃きを与えてくれたのかも知れません。
…ただ一方で、僕の心にはまだ少し迷いがありました。それは、僕たちプラチナゲームズには、設立以来ずっと目指してきた、“自社のオリジナル作品を作る”という悲願があったからです。このゲーム企画を他社ブランドの続編とするのならば、その道を捨てることになる…そんな未練のような気持ちが、僕の頭のなかにはまだ残っていたのです。
突拍子もない草案書をいきなり稲葉にぶつけつつも、僕は「新規の世界観で作るという道もあるけど、どうだろう?」と、心のなかにくすぶる迷いも正直に伝えました。
すると稲葉は、迷うことなくこう即答しました。
「クレスタシリーズの続編、その方が面白そうじゃないですか」
その言葉を聞いて、僕の迷いは吹き飛びました。“ユーザーがワクワクするような面白いものを作る”、その気持ちこそが僕たちにとって第一義であると、クリエイターとしての初心を思い出したのです。
こうして、『ソルクレスタ』のプロジェクトは、満を持してスタートすることに…。
いやいや、なるはずがありません。そもそも先に説明したように、『ムーンクレスタ』、『テラクレスタ』は、いずれも日本物産というゲーム会社の作品で、現在は株式会社ハムスターさんがその権利を所有しています。我々プラチナゲームズは真っ赤な無関係者であり、「その続編を作ろう」と言って、それを決定する権限など微塵もないのです。
…そこで僕と稲葉は話し合い、株式会社ハムスターさんの濱田倫社長にコンタクトを取って、一度お話だけでも聞いて頂こう、ということになりました。
実は僕は、ハムスターさんが毎週木曜日に生配信されているインターネット放送に何度か出演させて頂いたご縁があり、濱田社長とは一緒にお食事もして、ゲーム談義に花を咲かせたこともありました。…ただ、仕事の話となると事情は違いますし、何よりアーケードアーカイブスに真剣に取り組んでおられる濱田社長には、クラシックゲームへの並々ならぬ想いがあることは僕も知っていました。
身勝手な草案書を見せて、あの温厚な濱田社長の気分を損ねてしまったらどうしよう…。いやそれよりも、同じクラシックゲーム愛好家として僕を信頼して下さった、その気持ちを踏みにじるようなことになってしまったら…? 『ソルクレスタ』どころか、濱田社長との関係がこれで終わってしまったら…? 僕は濱田社長にお会いする約束の日まで、緊張の日々を過ごしました。
そして訪れたハムスターさんの本社。インターネット番組の収録で何度も訪れたことのある、見覚えのあるはずの会議室は、稲葉と並んで座っているといつもとは全く違って見え、冷ややかな空気に包まれた地下牢獄のようにさえ感じました。
カバンから取り出し、震える手で濱田社長へ恐る恐る差し出す僕の草案書。その時ほど、自分の書類が災いを巻き起こす悪魔の書物のように思えたことはありません。そしてゲーム業界で26年仕事をしてきて、この時ほど緊張が走った瞬間もありませんでした。
草案書を手に取り、暫く読み込む濱田社長。それを固唾を呑んで見守るプラチナサイド。両者の間に横たわる、静止したかのような時間。それがどれだけ重く、長く感じたことでしょう。
ところが…なんと濱田社長は、その場でこの企画を、このプロジェクトを応援して下さると承諾して下さったではないですか!
もちろん、それは簡単なご決断ではなかったと思います。クラシックゲームを愛する濱田社長のこと、草案書を読みながら、色んな想いが頭のなかを駆け巡ったはずです。しかしそのご決断は、決してビジネスとしての見通しが立ったからではなく、さりとて僕が迷子になった子犬のように体を震わせていたことへの同情でもないでしょう。この草案に、このアイデアに、偉大なる「クレスタシリーズ」を預けてもいいと、我々を信頼して下さったからに違いありません。
この時僕は、承諾を頂いた喜びよりも、濱田社長の信頼を裏切ってはならない、そして、偉大なる先人たちが築き上げた『ムーンクレスタ』、『テラクレスタ』の名を絶対に汚してはならないという、その重責を改めて実感しました。そして、自分自身も両作品を愛した人間として、「クレスタ」の冠を信じて遊んでくれるユーザーを絶対に落胆させてはならない、その想いを心に深々と刻み込みました。
濱田社長(左)とのツーショット
…長くなりましたが、以上が、この『ソルクレスタ』のプロジェクトが誕生するまでのいきさつです(その後、プラチナ社内でプロジェクト化の社内承認を通すために、稲葉が全く別の重要案件の会議中、本件も立て続けにスルっと通すという政治的手腕を発揮したスリリングな場面などのお話は、またドラマ化の機会にでも譲りましょう)。
この『ソルクレスタ』には、「ネオ-クラシック・アーケード」というプロジェクト名が付いています。古き良き時代に、ゲームセンターで我々を熱狂させてくれた“クラシック”ゲームの味わいを現代に蘇らせ、今だからこそできる“ネオ”な表現で新しい遊びを提案する― そんな想いを、その名前に込めました。
プラチナゲームズが全身全霊をかけて臨むこの作品を、どうか楽しみに待っていて下さい。
『ソルクレスタ』の根幹となる“分離・合体”システムなどのゲーム内容については、現場で制作の指揮を執るディレクターの佐藤貴宣からより詳しく、具体的にご説明させて頂きます。是非そちらも読んで頂いて、発売日まで頭のなかでイメージトレーニングをして下さい!
プラチナゲームズ公式ブログ – 『ソルクレスタ』ゲームシステムの紹介 佐藤貴宣(ディレクター)
※販売するタイトルは国・地域によって異なる場合があります。
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