『Ghost of Tsushima』──剣術や時代劇などが“戦闘”に与えた影響を開発スタッフが徹底解説!【特集第1回】

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『Ghost of Tsushima』──剣術や時代劇などが“戦闘”に与えた影響を開発スタッフが徹底解説!【特集第1回】

7月17日(金)の発売が迫るPlayStation®4用ソフトウェア『Ghost of Tsushima』(ゴースト・オブ・ツシマ)。特集第1回では、開発会社であるサッカーパンチ・プロダクションズの共同創設者であるクリス・ジマーマンが、剣術や時代劇、人間の反応速度が本作の“戦闘”に与えた影響について、たっぷりと語ってくれた。


『Ghost of Tsushima』で私たちが目指したのは、時代劇の世界を堪能できるゲームを作ることでした。プレイヤーは、中世の日本にタイムスリップし、侵略の危機に瀕した、美しくも危険な対馬で生き抜いてゆくのです。本作の主人公・境井仁は、生涯を費やして武士道に則り鍛錬してきました。たゆまず、揺るがず、己を律し、敵の命を奪う──。仁は、刀を使いこなし、馬を乗りこなし、弓術も巧みです。ですが、それらの武芸をもってすら、対馬に押し寄せた無数のモンゴル兵を前にしては十分ではありません。モンゴル兵から故郷を守るには、完全無欠の武士すらも超える存在となる必要があるのです。それが、『Ghost of Tsushima』のストーリーの中心となるものです。

私たちが目指す“タイムマシン”を作ることができるかは、説得力ある表現で日本刀での戦いを描写できるかどうかにかかっていました。刀による戦いの動作、音、雰囲気をきちんと表現できなくては、『Ghost of Tsushima』の成功はありえません。私たちはインスピレーションを求めて、古典から現代まで、さまざまな時代劇映画の立ち回りや殺陣を鑑賞しました。個人的に参考になったのは、2010年のリメイク版『十三人の刺客』(三池崇史監督)です。ただ、映画で成功した表現をそのままゲームでも使えるとは限らないため、試行錯誤が必要でした。

最終的に、私たちは取り組むことを3つに絞り込みました。スピード、鋭さ、正確さです。

まずはスピードです。仁の攻撃を素早いものにしたかったのです。日本刀の重さは2、3ポンド(1~1.5キロ)程度なので西洋の刀剣と比べると重くはありません。ですから、刀での剣戟では素早く斬りつける攻撃が中核となります。ゲーム内での攻撃モーションはすべて社内のモーションキャプチャー設備でキャプチャーしているので、実際の動作速度を反映しています。ですが、この“実際の動作速度”が、予想もしなかった問題を引き起こしました。あまりの速度にプレイヤーが反応できなかったのです。

人間の反応速度は皆さんの想像より遅く、視覚的な刺激へ反応するのに──その刺激や反応がどれだけ単純であっても──約0.3秒かかります。それが神経経路と脳が状況を把握するのに必要な時間なのです。この反応速度に個人差はあまりありません。社内でも多くのテストを行ないましたが、純粋な反応時間はどの人もほぼ同じでした。

刀での戦闘をデザインする作業のかなりの部分が、この反応速度の限界への対応に費やされました。プレイヤーの攻撃が速いことにはもちろん何も問題はありません。NPC(ノンプレイヤーキャラクター)は瞬時に反応させることができるからです。実は、NPCの反応速度を人間並みにして何度か検証したこともあったのですが、とても見られたものではありませんでした。おそらく、刀を使った戦いに対する私たちのイメージが、実際の戦闘ではなく、映画の殺陣によって作られているためです。映画内の殺陣は振り付けられているため、実際の戦闘よりも早く反応できるのです。(開発中、模造刀による戦いを実地で見学する機会がありましたが、そこで目にしたものは私たちが本作で表現したい戦いとはかけ離れていました)

ですから、プレイヤーの攻撃はいくらでも速くできる一方、モンゴル兵の攻撃はプレイヤーが反応できる速度でなければなりません。このことが開発初期のゲームバランスを崩してしまいました。速撃(△ボタンで繰り出す素早い一撃)を連発するだけでほとんどの敵を倒すことができてしまう──私たちが目指していた奥深い戦闘体験とはかけ離れた状態です。小島秀夫監督がサッカーパンチを訪問して、開発中の『Ghost of Tsushima』の戦闘を試遊された時までにこの問題が解決できていればどれだけ良かったか。というのも、監督が最初に試されたのが、まさにそれだったからです。(ごめんなさい……)

これを修正するためにいくつかの変更を行ないました。まず私たちは、プレイヤーの反応速度には限界がある一方で、プレイヤーの予測の速度には限界がないことに気づきました。敵が一連の攻撃を始める場合、プレイヤーには最初の攻撃に反応できるだけの時間を与える必要があります。ですが、それに続く攻撃は予測できるので、はるかに速くしても問題ないのです。本作のモンゴル兵には五連撃を繰り出す兵がいますが、その場合、一撃目さえプレイヤーが反応できる速度なら、続く四連撃はもっと高速でもいいのです。

また、この法則は複数の敵が畳みかけるように攻撃してくる場合にも適用できることに気がつきました。ひとりの敵が攻撃を仕掛けてくると同時に、別の敵が武器を振りかぶっていてもいいのです。仁がギリギリ対処できるタイミングになるよう、それぞれの攻撃を調整しました。参考にした時代劇の殺陣のような速度で、しかも、2、3人の敵が次から次へと切れ目なく攻撃してくるのです。

この組み合わせ──極めて速いプレイヤーの攻撃と、かわるがわる続けざまに攻撃してくる敵──によって、私たちが求めていた、『十三人の刺客』を観た時に感じたような激しさが生まれました。仁を取り囲む敵は、斬られるのを待ってはおらず、容赦なく攻撃してきます。戦闘に身を投じる際にプレイヤーが少し緊張するくらいのバランスにしたかったので、これは最高の結果でした。うまくいけば、戦いを終えたプレイヤーは少し高揚して、ちょうど仁と同じ気持になることでしょう。何とかうまくいった。何とか生き延びた。それでも、なお次の戦いへと進んでゆくのです。

Ghost of Tsushima – Resolve heal
※映像は英語版です。

『Ghost of Tsushima』──剣術や時代劇などが“戦闘”に与えた影響を開発スタッフが徹底解説!【特集第1回】

ふたつ目のポイントは、日本刀の鋭さの表現です。「刀を敬え」が開発中のモットーのひとつでした。仁が使う境井家の宝刀は、触れる物を切り落とす刃を持つ三尺三寸の長刀です。その恐ろしさを表現するのは私たちの義務でした。私たちの心を震わせた時代劇では、どれほどの強敵でも数回斬りつけるだけで命を奪われていました。あの感覚をできるだけ再現したかったのです。しかし、検証したところ、敵が多くのダメージに耐えられたり、何度も斬りつけなくては倒せなかったりすると、刀の鋭さが感じられませんでした。

かといって、仁だけをこの法則の例外にしてしまうとバランスが崩れてしまいます。モンゴル兵の武器もまた鋭く、仁もモンゴル兵もお互いの攻撃を軽んじることができない。こうなって初めてバランスが取れるのです。戦闘のスピードや激しさもバランスの確立に役に立ちました。仁は攻撃だけでなく防御にも気を配らねばならないため、一方的にダメージを与え続けてあっさり敵を倒すことができなくなったのです。開発の終盤になって、蒙古兵への防御方法──受け、受け流し、回避──をしっかりと組み込むことに成功したとき、ついにこのダメージ問題を解決できました。

切れ味鋭い武器と攻撃的な敵によって、本作のプレイは常に死と隣り合わせのものとなりました。少しのミスが重なっただけで死んでしまうという緊張感こそが『Ghost of Tsushima』のムードを高めてくれるのです。もちろん、プレイヤーには身を守る方法が多数あり、攻撃の方法はさらに多く用意されていますから、集中し、気を緩めなければ、戦いを生き抜けるでしょう。気を抜けば、待つのは死です。私たちは、仁の歩む道のりを体験してほしいのです。このような戦いの世界こそ、仁が身を置いている世界であり、プレイヤーが体験する世界なのです。

最後の重要ポイントは動きの正確さでした。刀は、正確な身のこなしによって威力を発揮する武器です。生涯にわたる厳しい鍛錬と修行によって、斬るべき瞬間に斬るべきところを斬る──この感覚と、そのための鍛錬や修行をプレイヤーにも味わってもらうことが重要でした。

まずは反応性です。つまり、仁がプレイヤーの入力を瞬時に実行して、素早い攻撃は素早く発生するようにしなくてはいけません。アニメーションが滑らかになるように、各動作の間の動きが自然に見えるように力を尽くしたのはもちろんですが、物理的な正確さと反応速度のどちらかを選ばなければならないなら、反応速度を優先します。それによって、仁がとっさの事態──たとえば、突進してくる蒙古兵の叫び声が聞こえた時──に対応できる余裕が残るからです。大技を出そうとしている途中でも、状況が変わればすぐに動作をキャンセルできることは高度なプレイの実現に欠かせません。

また、プレイヤーが仁の技を正確に使いこなした時は報われるようにするべきだと考えました。ほとんどの攻撃を防ぐ、仁の防御の技を見てみましょう。防御の基本はシンプルです。L1ボタンを長押しすれば、攻撃を防ぐことができます。ですが、さらに上の段階もあります。当たる直前のタイミングでL1ボタンを押すと、敵の攻撃を受け流せるのです。攻撃を受け流すと、敵の攻撃を防げるだけでなく、敵を弾くため反撃しやすくなります。さらに、受け流しが成功すると仁はいくらかの気力を回復します。気力があれば、武士の意地によって仁は痛みやケガを耐え抜くことができるでしょう。また、技を身につけていくと、第三の段階──命中する瞬間にL1ボタンを押すことで発生する完璧な受け流し──が行なえるようになります。敵は大きな隙を見せ、仁の反撃で大ダメージを受けることでしょう。また、仁の気力は大幅に回復します。

この正確さをどう発揮するかはプレイヤーの判断にゆだねられます。仁はさまざまな方法で敵を攻撃できますが、適切な攻撃を適切なタイミングで実行できるかが大切になってくるでしょう。仁は、これまで守ってきた道から外れて進化しなければなりません。モンゴル兵を近くで観察したり相手にしたりして学んだことを取り入れていかなければならないのです。そうやって新たな型(戦闘時の構えと攻撃の体系)を習得すれば、いつでも適切な型に切り替えて戦えるようになります。どの型も、仁が相対するさまざまな敵の一部にのみ効果的なので、敵に合わせて型を変えることで戦いを有利に進めることができるでしょう。

この映像では、敵の間を縫って移動しながら、型を切り替えているのがわかります。仁は、「石の型」で剣を持った敵を素早く片付けると(石の型は、武士と戦うために編み出された先祖伝来の型であり、剣で戦うモンゴル兵にも有効です)、素早く「水の型」に切り替え、盾を持ったモンゴル兵の構えを崩します。数十年にわたって修練を重ねてきた「石の型」の剣技が盾を持った兵士には通用しないことに衝撃を受けた仁が、苦心の末に編み出したのが「水の型」なのです。

Ghost of Tsushima – stance swap
※映像は英語版です。

『Ghost of Tsushima』──剣術や時代劇などが“戦闘”に与えた影響を開発スタッフが徹底解説!【特集第1回】

スピード、鋭さ、正確さがすべて組み合わさったことで、プレイヤーの皆さんに気に入ってもらえると思える体験を生み出すことができました。動きが正確になればプレイヤーの腕前も上がります。つまり、モンゴル兵にとってさらに速く、危険な存在になるのです。ぜひ、ご自身にとって適切な難易度を選んでください。そうすれば、境井仁と同じような精神集中、鍛錬、修行を皆さんも味わうことができるはずです。

本作の対馬には恐るべき敵が跋扈しています。
ですが、敵から見れば、仁もまた恐るべき存在なのです。

サッカーパンチ・プロダクションズ
共同創設者
クリス・ジマーマン



Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)

・発売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
・フォーマット:PlayStation 4
・ジャンル:オープンワールド時代劇アクションアドベンチャー
・発売日:2020年7月17日(金)予定
・価格:パッケージ版 希望小売価格 6,900円+税
    ダウンロード版 通常版 販売価格 7,590円(税込)
    ダウンロード版 デジタルデラックスエディション 販売価格 8,690円(税込)
・プレイ人数:1人
・CERO:Z(18才以上のみ対象)


PS.Blogの『Ghost of Tsushima』記事はこちら


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