PlayStation®.Blogスタッフが、最新作や話題のタイトルの中から厳選した「今、注目すべきタイトル」を紹介する『エディターズチョイス』! 今回は、『ドラゴンズクラウン』や『オーディンスフィア』などで実績を築いてきたアトラスとヴァニラウェアが再びタッグを組んだ注目作『十三機兵防衛圏』を紹介します。
『十三機兵防衛圏』プロモーションムービー#04
『十三機兵防衛圏』はたとえるならば、学生時代に恋した“憧れの先輩“を思わせるようなゲームだった。……と、2019年11月の発売から約6ヵ月の時が経ち、思い起こして感じるのです。身近なのに謎深い、声を掛けるには少し恥ずかしさが残るような上級生。憧れの人をひっそりと想うような、かつて夢に見た青春時代の淡い思い出を、改めて夢想させてくれる作品でした。
本作に登場する13人の主人公たちの多くは純朴な一学生で、けれども体験するさまざまな事件は決して私たちにとって身近と言えるものではありません。時間旅行、宇宙戦争、人体実験……。じんわりと平穏からかけ離れていく世界で、等身大の学生たちが「誰かを強く想い、懸命に前を向いて歩み続ける姿」は、多くのプレイヤーに勇気を与えたことでしょう。そしてそんな後ろ姿を追ううち、彼らの存在は自分でも知らない間に、クリア後も心のどこかにずっと生き生きと存在し続けるのです。
作中のビジュアルはどこまでもていねいで繊細。しかも描かれた登場人物たちの動きや背景はあくまで水彩画のテイストであるのに、私たちのリアルな世界とどこか地続きのような、“不思議な共感 ”を覚えます。主な舞台は架空の1985年の日本。この世界に感じる「郷愁」は、1985年当時を知らなくとも、世代を問わず多くのプレイヤーの共感を呼んだことでしょう。
「こんな日常が非日常へと変化したら」という妄想は、誰しもが一度は思い描いたものだと思います。穏やかな日々が、たったひとつのキーワードで滲むようにその様相を変えていく……そんな物語の主人公として生きる自分。本作の物語は、多感な思春期に、誰もが抱える願望を叶えてくれるようでした。ただ、その妄想を越える圧倒的な本格SFの世界が展開することも、本作に深い思い入れを根付かせる大きな理由でもあります。
例えばもし、自分の記憶が何者かに操作されているとしたら? もし、宇宙人との突然の出会いで、時を越えることになったら? もし、命を懸けてロボットに搭乗し、謎の怪獣と世界の存亡を背負い戦うことになったら……? 主人公となる13人の少年少女たちが体験する「非日常」は多彩で飽きることはありません。彼らの生活圏に潜む小さな謎の断片一つひとつが、じつは世界を取り巻く真実へとつながり、穏やかだった日常の根底を揺るがす大きな真相への大切な鍵となるのです。
少女漫画のような柔らかなトキメキをまといながらも、本格サスペンスでもあり、ミステリーでもある本作の物語は、幾度となく「推理」の機会をプレイヤーに与えます。「ははん? きっとこれはこうだな」という予想を大きく越える「答え」に胸を揺さぶられたプレイヤーは多いはず。
予測を裏切られる快感は、物語の先を知りたいという大きな推進力となります。さらには作品への没入感を高める環境音や音楽は追い風となって背中を押し、休むことを忘れるかのように私を真相へと歩ませ続けました。広げられた膨大な謎の数々を「キャラクターを操作する」という体験で解き明かしていく快感は、ゲームならではのものであり、だからこそ展開一つひとつが深くプレイヤーの経験となって体に刻み込まれてゆくのでしょう。
本作において、プレイヤーはあくまでさまざまな視点から物語を俯瞰する傍観者です。けれども同時に、プレイヤーは13人の人物の視点を借り、13の物語を主観で体験する主人公でもあります。傍観者でありながら当事者でもある。両面から感情を揺さぶられる本作ならではのプレイフィールは、練り上げられた物語とシステムだからこそ完成された、ゲームだからこそなしえた“体験”だと思います。また13人という決して少なくない主人公たちの物語が交差していく様は圧巻で、それぞれが「掛け替えのない想いや謎を秘めている」というキャラクター造形は、誤解を恐れずに言うとすれば“作り手の狂気”すら感じるほどです。
また本作のバトルシステムも登場人物たちへの思い入れを強くする要素であったように思います。搭乗すれば脳にダメージを負うという、機兵と呼ばれる謎のロボットに命を懸けて乗り込む主人公たち。そんな彼らの身を案じながら、手に汗握り戦ったたくさんの思い出。自分の判断ひとつで傷付く仲間たちの姿を見て慌てながらも、迫りくる無数の怪獣たちを一網打尽にする爽快感は、登場人物たちとの一体感を生みました。一緒に「真相の究明」を目指し駆け抜けたあの日とともに、プレイヤーも登場人物たちもその誰しもが懸命で、誰かを想う一途な熱意は簡単には私たちのなかから消えることはありません。
エンディングを迎えた時に味わう圧倒的な爽快感は、私にとって体に“火照り”を残すものでもありました。本作のトロフィーコンプリートはそこまで難しいものではないので、一応の「完全クリア」を果たすことは、ゲームがあまり得意ではないという人でも成しやすいはずです。ただ本作は、どんなに「このゲームをクリアした」と自分を納得させても、プレイヤーの心を離そうとはしません。
別のゲームを楽しんだり、他の趣味を嗜んだり。「もう終わったはず」なのに、けれどもふとした時に、登場人物たちの未来や過去に想いを募らせてしまう。それは何ヵ月経っても想いを馳せずにはいられない片思いの吐息のような、甘いモヤとなって晴れないのです。何度だって本作の象徴的な挿入歌を聴くと、「今さらそんな」なんて思っている気持ちと裏腹に、勝手にポロポロと涙があふれてくるし、「比治山と沖野はどうなったのだろう?」、「あの時代、薬師寺や如月は自分の知らないところでどんな会話をしていたのだろう?」と空想を巡らせずにはいられない……。彼らへの愛情、あるいは彼らそのものであったあの瞬間は、自分自身から切り離せない、大切なものになっているのです。
本作は、純真でがむしゃらな青春群像劇でした。憧れの先輩の背中を追いかけた日々は鮮やかに咲く花のようで、今も私の胸のなかで枯れることを知らず、燦然と輝いています。ただ、トロフィーコンプリートを果たしてからしばらくした今、同時に思うことは不思議にも「なぜあんなにも身近に感じていたはずの本作を、なぜ今、こんなにも遠く感じてしまうのだろう?」というセンチメンタリズム、切なさなのです。若葉の芽吹き切った、新緑の時分に思い出すのは、満開の桜の下、卒業の日に勇気を出して声を掛けた先輩は確かに笑顔で、自分にとって晴れやかな思い出であったはずなのに。それとも「だからこそ」、「それ故に」なのでしょうか?
今も「先輩」の評判はどんどん耳に入ってくるのですが、それは精緻なSF作品であることを称えて贈られる星雲賞にノミネートされるようなすごい人だったとか、ネタバレを避けて言うなれば、じつは少し残虐性をも感じさせる側面を持っていたのだとか。同じ学校に通っていた身近な存在だったはずの人は、本当は自分の知らない顔や才能を秘めていて、「自分なんかが到底追いつけるような、独占できるような人ではなかったんだな」と、誇らしいような、少し寂しいような気持ちになるのです。
「記憶をなくしてもう一度遊びたいタイトル」とよく言いますが、確かに記憶を真っ新にして、もう一度学生に戻るかのように、憧れた先輩『十三機兵防衛圏』に会いたいという想いももちろんあります。ただ何度もプレイした今、エンディングを知り、さらにインタビューなどで読んだ「作中では語り尽くせなかった物語の断片」を知ったうえで、改めてプレイするという同窓会のような気持ちを味わいたい欲求も共存します。
けれどどちらも『十三機兵防衛圏』というタイトルに恋する想いは変わらず、多分何度記憶を消したって、何度だって私は本作に恋をするでしょう。
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十三機兵防衛圏
・発売元:アトラス
・開発:ヴァニラウェア
・フォーマット:PlayStation 4
・ジャンル:ドラマチックアドベンチャー
・発売日:好評発売中
・価格:パッケージ版 通常版 希望小売価格 8,980円+税
パッケージ版 プレミアムボックス 希望小売価格 14,980円+税
ダウンロード版 通常版 販売価格 9,878円(税込)
ダウンロード版 プレミアムエディション 販売価格 13,178円(税込)
・プレイ人数:1人
・CERO:C(15才以上対象)
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