“謎の感染爆発によって変わり果てたアメリカを横断した危険な旅路から5年、エリーとジョエルの暮らしは安らぎと落ち着きを取り戻したかのように見えたが、あるすさまじい出来事が平和を崩壊させたとき、エリーの無慈悲な旅が再び始まる。裁きを下し、すべてを終わらせるために。ひとり、またひとりと、標的を追い詰めてゆくエリーが見出したのは、自らの行いによって生み出された、心と身体を揺さぶる凄惨な連鎖だった──。”
世界累計販売数1,700万本以上(2018年4月時点)を記録した『The Last of Us』待望の続編『The Last of Us Part II』がついに発売! 開発会社ノーティードッグの最新エンジンによって描き出される圧倒的なグラフィックスや、回避やステルスなど新たに追加されたダイナミックなアクション、そして主人公エリーへの没入感が生み出すストーリー体験をぜひ楽しんでほしい。
特集第4回では、本作の主人公・エリーの日本語吹き替えを演じた潘めぐみさんのインタビューをお届けしよう。
復讐は憎しみだけでなく、誰かを想う愛情があってこそ──エリー役・潘めぐみが過酷な物語に込められたテーマを語る
前作『The Last of Us』に続き、今作『II』でも日本語吹き替えのエリーを演じた潘めぐみさん。インタビューでは復讐をテーマにした物語やエリーというキャラクターへの想い、さらには収録時のエピソードなどをたっぷり語っていただいた。
※なお、今回のインタビューには『The Last of Us』『The Last of Us Part II』の一部ネタバレが含まれるので要注意。物語の核心に触れる部分を明かしてはいないが、予備知識なしにゲームを楽しみたいという方は注意してほしい。
潘めぐみ(はん めぐみ)
愛おしいと思う存在が増えたからこそ、憎しみはより深く
──前作『The Last of Us』の収録を振り返って、印象に残っていることをお聞かせください。
『The Last of Us』のオーディションを受けたときはデビュー当初で、吹き替えのゲームのお仕事そのものが初めてでした。吹き替えのゲームにはオリジナル版キャストの声(原音)とその波形があって、波形に合わせた尺で喋るということが初めてだったので、何から何まで教えていただきながらの収録でした。現場のチームの皆さんにはたくさんのことを教えていただいて、本当に感謝しています。
──『The Last of Us Part II』で再びエリーを演じることが決まったときの感想は?
嬉しかったですね、本当に。続編が出るということは、前作の反響があってこそだと思っていますし、それだけ世界中の人たちが作品に触れて、たくさんの声を届けてくださったということだと思いますので、ありがたいことだなと。改めて感謝を伝えたいです。
『II』については、以前からネット上などで「続編がある」という話があるのを見てきましたが、私自身は前作で完結しているというか、完成されている作品だと捉えていました。ですから、続編ではどこを描いて、あの物語の先に何を展開させるのか、いろいろなことを想像しました。
そしてそれ以上に、ユーザーの皆さんは前作を上回るものを期待しているだろうと思っていましたので、そこに挑むプレッシャーはありましたね。前作だけでも完成している物語の、その先の展開ということは、より過酷な物語になるだろうと思いましたし、身が引き締まる思いといいますか、覚悟を決めました。
──今回のストーリーを最初にご覧になったとき、どのような印象を持ちましたか?
いろいろな想像をめぐらせていましたが、それを上回る過酷さでした。ストーリーはSIEの方から口頭で説明していただく形でしたが、説明が始まって、ものの1分くらいで心が折れました。ユーザーの皆さんは、それほどの展開が待っていると思ってプレイしてください(笑)。
作品のひとつの大きな目的として、復讐というものがありますが、それは今作だけに描かれることではなくて、前作を引き継いだ地続きの延長線上で起こる物語だったので、とても因縁のようなものを感じました。復讐というものは、自分にされたことに対する報復でもありますが、大切な人や愛する人があってこその憎しみが根源となって、復讐に至るのだと思います。だからこそ、今回の物語はより過酷さを増していると感じました。
これまで公開されたトレーラーなどをご覧になった皆さんは、とても重い物語だと捉えているかもしれませんが、でも、ただ重いだけ、辛いだけではなくて、憎しみの裏側には愛情もあったうえで今回の物語が成り立っていることをお伝えしておきたいです。
──14歳から19歳になったエリーに、どのような変化や成長を感じましたか?
日常の彼女の表情は、あどけなさがあった14歳の顔立ちから一変して、どこか落ち着いたように見えました。19歳ともなれば成人に近いですし、大人になった表情を垣間見ることができます。きっと、その落ち着いた表情というのは、ジャクソンでいろいろな人との暮らしがあって築き上げられた、彼女なりのリラックスしたものなのだと思います。
そうした日々を過ごす中で、彼女にとって大きな変化は、大切な人が増えたことです。愛おしいと思う存在も増えましたし、愛おしいと思う時間も彼女の中で大きく膨らんでいったと思うんです。だからこそ、それが傷つけられた時に、憎しみが深くなっていったのだと感じています。
また、愛情から憎しみに変化していくエリーの様子を見ていると、前作のジョエルが重なって見えてきて。ジョエル自身、大切な家族を守れなかった過去を持っていて、愛する娘を失ったことで憎しみの感情が膨らんでいった節もあるかと思うのですが、そこからエリーに出会って彼女を守っていくという、憎しみから愛情へとシフトするドラマの流れがありました。今回のエリーも大切な人や大切な時間があって、愛情が芽生えたからこそ、その日常を失ったことで大きな憎しみを抱えていきます。前作の終盤では、エリーを守りたいというジョエルの強い思いが憎しみや狂気となって描かれていましたが、それを今回のエリーが背負っているというか、前作でジョエルがエリーにしてくれたことを、今回はエリーが担っていく。その意味で、前作のジョエルと重なる部分を感じたんです。
──ご自身にとって、エリーというキャラクターはどんな存在でしょうか。前作と今作とで変わったところはありましたか?
デビュー当時にエリーを演じさせていただいたということもあり、自分にとって糧となるたくさんの経験をさせていただいた現場でしたし、間違いなく今後のお仕事を続けていくうえで大きな影響をもたらしてくれる作品だと思っていました。そうして今作が出るまでに、さまざまなお仕事をさせていただきましたが、ありがたくもアニメーションで起用していただく機会と吹き替えで起用していただく機会の両方を、すごく良いバランスでいただいていて。その起用のひとつの理由には、やはり『The Last of Us』があったと言われたこともありました。
今回、成長したエリーが過酷な運命を背負っていく姿を演じていて変わっていったのは、「彼女と一生添い遂げたい」と思うようになったことですね。今作の結末を見ると、完全に決着がついたとは言えないような、想像の余地のある終わり方になっていると思うんです。なので、一番近くで演じている身としては、彼女をひとりで放っておきたくない、彼女の一生をこれからも追い続けたいという気持ちになりました。
──とくに印象に残っているセリフやシーンがあれば教えてください。
ネタバレにならない範囲で挙げるとするなら、トレーラー(2016年公開)と先日公開されたローンチトレーラーの「あいつらを見つけて、殺してやるんだ。必ず、最後のひとりまで」というセリフでしょうか。
トレーラーのものは、今作の制作が決まって最初に収録したセリフです。そしてローンチトレーラーのセリフは、最後に収録したものです。たぶん、温度差も違えば憎しみの込め方も違っていて、エリーが物語の中で背負っていく大切なセリフになっていると思います。
『The Last of Us Part II』トレーラー
『The Last of Us Part II』(日本語版)ローンチトレーラー
あとは、ジョエルの「もしも神様がもう一度チャンスをくれたとしても、俺はきっと同じことをする」というセリフですね。前作からプレイしてくださる方にとっても、エリーを演じた私自身にとっても、一番のご褒美です。過酷な旅を乗り越えてきたプレイヤーとエリーが「この瞬間のためにとジョエルとエリーの物語があったんじゃないか」と思えるくらいの尊いシーンでした。
呼吸や感情の浮き沈みが、オリジナルの音声波形とシンクロしていく楽しさ
──今回再びエリーを演じる上で意識したことや、アドバイスやリクエストを受けたことがあればお聞かせください。
演技に関しては概ね任せていただく形だったと思いますが、ひとつの指針になっていたのは、原音で演じているアシュリー・ジョンソンさんのエリーです。それが大きなヒントとなって、声のトーン、柔らかさや鋭さ、憎しみや愛情といったたくさんのものをすべてたぐり寄せていきました。
ただ、収録のための素材が物語の順番どおりに届いたわけではなかったので、最初のシーンを録ったあと中盤に飛んで、そこからまた戻るというように、収録する場面が前後したのは難しく感じたところでした。それをひとつずつ繋げていけたのは、ローカライズチームの皆さんと収録ディレクターの羽田野さんから、今はどんなシーンなのかを丁寧に説明していただいたうえで演じられたからです。
また、英語のニュアンスならそのまま通るセリフでも、日本語ではもっとサラリと言ったほうがいい、あるいはもっと気持ちを込めたほうがいいという場合もあります。その言語でのちょっとしたニュアンスの差を埋めていくのは、原音を聞いてすぐにお芝居をするという収録の流れだと難しかったですね。例えばジョークなら、英語はサラリと言って伝わりますが、日本語は笑いのセンスが違うので、そのニュアンスの差を埋めていくのはひとつのチャレンジになりました。
──前作の時点でもエリーは口の悪い少女でしたが、今作ではさらに激しい言葉を使うようになっていると感じました。
たしかに口は悪くなっていますね(笑)。それが彼女の不器用さを表わしているのかもしれません。感情を丁寧に伝えられないというか、前作の方が素直だったんじゃないかと思います。今作の彼女には、よりいっそうひねくれたり歪んだりした部分があったので、それがハードな口調となって出ていたと思います。
──「最悪」というセリフが何度も出てきて、どれくらいのバリエーションがあるのか気になりました。
「最悪」という言葉ひとつをとっても、どの状況で発しているかで違いますよね。感染者を倒したと思ったらまだ残っていたという「最悪」なのか、エリーの苦手な水場を泳がなければならない「最悪」なのか、ジョエルとのやり取りの中でのほっこりとした「最悪」なのか。バリエーションは本当にたくさんあるので、ユーザーの皆さんには何周もプレイして細かいところまで聞いていただきたいです。
声のボリュームは、ささやきや張り、距離感などによって収録時にはAからFまでの6段階がありました。それは台本に明記されていますし、原音でもそのとおりになっていますが、指定のボリュームと原音の環境で録っている大きさの差は判断に迷うとこでもありました。AとBのちょっとした差にどれくらいの違いを出すかは、日本語のニュアンスで明確にわかるようにと考えて演じました。
──ジョエル役の山寺宏一さんなど、ほかのキャストの方と今作についてお話したことはありますか?
収録はひとりだったので、山寺さんとも現場ですれ違うことすらできなかったんです。でも、違う作品の現場で山寺さんと、前作のテス役だった田中敦子さん、今回のアビー役の森なな子さんとご一緒する機会があって、「The Last of Us」の御縁を感じました。『II』の収録終盤のタイミングでお会いすることができたので、今回の物語の過酷さについて話していました。
別の現場では、ディーナ役の嶋村侑さんともお会いすることができました。そのときはまだ嶋村さんがディーナ役だと知らなくて、「今、潘ちゃんのパートナー役をやってるんだよ」と聞いて、そこで初めてキャストを知る形に(笑)。まったく違う作品の現場なのに「The Last of Us」の話をしてしまうほど、皆さんにとっても特別な作品になっているように思えて嬉しかったです。
──今回の収録はどれくらいの期間で行なわれたのでしょうか。
日によって時間は違いますが、日数で言えば30日以上です。原音のアシュリーさんとも前作から長い付き合いになっているので、ゼロからのスタートというよりは少し安定したところから始められたと思っています。収録のスタイルも久しぶりでしたが、滞ることなく進められたのではないかと思います。
ただ、一度録り終えたセリフの変更や、全体の流れを見て、このひとことだけ変えたい、この前後に息を、力みを入れたいなど、あとから追加することもありました。初期に収録したセリフを終盤に録り直すこともあったので、当時の自分とその日の自分のコンディションの誤差などもあって、その差を埋めるのはなかなか大変でした。でも、そういった難しい部分もありましたが、演じ手の気持ちを優先してくださる現場だったので、演じやすい環境で収録させていただきました。
──アニメや映画などと比べて、ゲームのお仕事の「面白いところ」「難しいところ」があれば教えてください。
まず、ひとりで収録するところが大きく違うと思います。アニメや映画でもひとりで別録りする機会はありますが、ゲームの現場はひとりで収録する体制がより強いですね。なので、自分の想像力はより必要だと思います。
見知った相手ならどういうふうに返してくれるかを想像しますし、アニメなどはシーンの状況が画やト書きとしてある場合が大半ですが、本作のようなゲームはト書きの説明から自分で想像しないと画に負けてしまうと思います。自分の力量と想像力が試されるところだと感じました。
吹き替えならではの収録として、原音の波形に合わせていく作業は、まさに職人技だと思います。波形というのは、セリフのボリュームや尺感を表わしているものです。
オーディションでは、ボイスマッチという形で原音に近い声の方が選ばれたのかなと思っていますが、収録しているうちに波形も不思議とそろっていくんです。尺だけではなくて、どこで跳ねて、どこで縮むか、波形のフォルムが意識せずとも近づいていきます。言語も違えば、収録の状況も違う、体調やコンディションも違うのに、波形が合っていくのは楽しいというか気持ちいいというか、職人的なオタク気質が出るところでした(笑)。
波形を合わせていこうとすると作業でしかなくなりますが、作業とは関係なく気持ちや呼吸が一緒になっていく感覚がたまらないです。カットシーンの長いセリフであっても、呼吸や感情の浮き沈みが波形として合うのは、すごく楽しかったですね。
──ゲームをプレイする方に、ここに注目してほしい! ということがあればお聞かせください。
私はまだゲームをプレイできていませんが、完成した映像と音楽は前作にも増してすばらしいものになっています。前作から今作が出るまでのあいだに、現実との差を埋めてくる技術の進化に驚きました。実写と見紛うほどの圧倒的な映像の力は本当にすばらしいと思いましたし、そこに寄り添う音楽や環境音の一つひとつによってドラマとしての没入感があります。
また、今作でもゲームのロードを極力感じさせないように工夫がなされていると思います。そのために用意した映像やセリフもあって、プレイヤーの皆さんにはどこがロード中なのかわからないようなつくりになっているので、よりドラマへの入れ込みが深まるんじゃないかなと思いますね。
今作では、あのジョークも健在です(笑)。エリーとジョエルのあいだだけではなくて、ジャクソンで築いた仲間との関係性の中で生まれてくるものもあるので、楽しんでいただけたらと思います。あとは、エリーが小さな赤ちゃんのために歌う、とても印象的なシーンがあります。赤ちゃんのことをジャガイモに見立てた「おいもソング」と呼んでいますが、あのエリーが歌うんだ、と驚かされました。ドラマとして過酷なことが続くので、緩急の“緩”の部分も楽しんでいただきたいですね。
もちろん、シナリオを楽しんで……過酷なことがたくさんあって“楽しむ”という表現が合っているかわかりませんが、それを乗り越えて、最後まで見届けてもらえたらと思います。
──プレイ映像やPVなど「ゲームの中で動くエリー」を見ると、収録時とはまた違った印象を受けるのではないかと思いますが、映像を見た感想をお聞かせください。
圧倒的な映像の力も相まって、そこにエリーがいるかのような存在感、生きているひとりの人間なんだということを感じました。温度感もあって、寒くて冷たい環境を想像させられたり、人の温もりを感じるシーンがあったりと、質感もとてもリアルでした。
エリーが話すときの口の動きは、原音に合わせた映像になっていると思いますが、日本語の吹き替えで見ていてもリップシンクがすばらしいです。ローカライズチームの皆さんが、まだ映像が完成していない原音だけのニュアンスで、口の動きを想像して翻訳してくださったセリフなんだと感じて、その緻密さに物凄く感動しました。
海外のイベントで、あるユーザーが原音でプレイしたあとに日本語でもプレイしたというお話を伺ったことがあります。そういう楽しみ方もできるようになっていると思うので、英語のエリーと聞き比べてみるのも面白いのではないでしょうか。
──「The Last of Us」シリーズのファン、エリーのファンにメッセージをお願いします。
ユーザーの皆さんにとって、制作が発表されてから、待ちに待った『II』だったのではないかと思います。これほどの作品を、今の大変な情勢の中で無事に皆さんにお届けできるのは、本当に感謝すべきことだと思っています。そして、待っていただいた皆さんには、その甲斐があったと思っていただける作品になっていると、私自身も胸を張って言えます。
今回の作品は、復讐が大きなテーマになっています。想像を絶する過酷な物語が待っていますが、憎しみだけでなく、誰かを想う愛情があってこその復讐だと思いながら、私もエリーを演じました。この作品をプレイされる方は、ぜひ最後の最後まで、この物語を見届けてほしいと思います。
クリッカーやブローターなど感染者が倒すべき相手だと感じている方もいるかもしれませんが、今回はよりいっそう、人と向き合わなければならない物語になっています。現実味のある分厚いドラマが展開されていくので、“プレイする=生きる”と感じていただけたら幸いです。
The Last of Us Part II
・発売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
・フォーマット:PlayStation 4
・ジャンル:アクション
・発売日:好評発売中
・価格:パッケージ版 通常版 希望小売価格 6,900円+税
パッケージ版 スペシャルエディション 希望小売価格 8,900円+税
パッケージ版 コレクターズエディション 希望小売価格 17,900円+税
ダウンロード版 通常版 販売価格 7,590円(税込)
ダウンロード版 デジタルデラックス版 販売価格 8,690円(税込)
・CERO:Z(18才以上のみ対象)
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