いきなり結論を申し上げてしまいますが、Netflixで配信されている『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』がとにかく革新的で面白い作品だからぜひ観ましょう! こうしてPlayStation®.Blogをチェックするようなエンタメアンテナが立ってる人は、観ておくべき作品だと思います。
なぜ観ておくべきなのか、順番に説明していきましょう。
まず、Netflixで独占配信されている『ブラック・ミラー』という海外ドラマシリーズはご存じでしょうか。1話完結のSFオムニバス作品で、1シーズン3~6話程度、1話1時間前後です。2019年5月現在でシーズン4まで配信されていますが、連続ドラマではないのでいつでもどのエピソードでも気楽に観ることができます。
「気楽に」と書いてしまいましたが、その内容はなかなかにハードな設定なものが多かったりします。こんな技術が発明されたら素晴らしい未来になるよ! という話かと思いきや、その暗黒面をがっつり描いているので、思わず背筋がぞくりとすることも多いのです。
今回紹介する『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』はそのスペシャル版ともいうべき作品で、本作のページを開くと「Netflixインタラクティブ映画」と表記されています。インタラクティブ、つまりゲームのように視聴者側が物語に影響を及ぼすことができるのです。
家庭用ゲーム機に3D技術が搭載されて以降、「まるで映画のようなゲーム」と称されるゲームが増えてきました。この『バンダースナッチ』はその逆で、「まるでゲームのような映画」というタイプの作品となっています。
アドベンチャーゲームのように選択肢が出てくる映画
物語の序盤を簡単に説明しましょう。舞台となるのは1984年のイギリス。パソコンが一般家庭に少しずつ普及し始め、それを手にしたパソコン少年はプログラムを勉強し、自分でゲームを作ったりもしていました。自作したゲームをメーカーに売り込み、気に入ってもらえればスターゲームプログラマーになれたのです。主人公ステファンくんは19歳、アマチュアのゲームプログラマーなのですが、すごいゲームを作って、アコガレのスターゲームプログラマーになる日を夢見ています。
ステファンは自身で作っているゲーム『バンダースナッチ』をゲーム会社「タッカーソフト」に持ち込みます。この会社にはステファンが憧れるスタープログラマーのコリンがいるからです。早速、ゲームをプレイして面白さをプレゼンしますが……といった感じで物語が展開していきます。
参考までに説明しておきますが、日本も1980年代前半は「ひとりのプログラマーがゲームを作る」ことが当たり前の時代でした。素人がパソコンでゲームを作ってそれが面白ければ電気屋で売れてしまう時代で、そうしたスターゲームプログラマーがたくさんいたのです。日本ファルコムの木屋善夫氏、T&E SOFTの内藤時浩氏、チュンソフトの中村光一氏は、当時パソコン少年だった筆者にとってもアコガレのスターゲームプログラマーでしたので、この主人公の気持ちがよくわかります。
そんなステファンが作ろうとしているゲームは『バンダースナッチ』。もともとはアドベンチャーブックとして出版されていた書籍をゲーム化しようと試みています。
さて、ここでまた少し横道にそれますが、大事な要素なのでアドベンチャーブックの説明をしておきましょう。普通に小説として読み進めていきますが、途中で選択肢が記されています。その選択肢から読み手が展開を選択し、指示にしたがって特定のページまで飛ばして続きを読む……というものです。本で遊べるアナログなアドベンチャーゲーム、と言えばわかりやすいでしょうか。ゲームブックとも呼ばれ、1970年代後半から80年代にかけて出版された『タイムトンネルの冒険』や『火吹山の魔法使い』といった本は、日本でも翻訳版が出版されたので、当時のゲーム好き少年たちはこちらも夢中になりました。
ステファンが開発しているパソコンゲーム版『バンダースナッチ』も、アドベンチャーブック同様に物語の途中で分岐となる選択肢が出現し、主人公にどちらの行動を取らせるかを選択していくゲームになっています。
そして、このNetflixインタラクティブ映画版『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』も、まさにこのアドベンチャーブックと同様の構造になっています。映像の途中で選択肢が10秒ほど表示されるので、そのどちらかを選び、物語の展開を選択していきます。ゲームのように選択肢が表示された状態で時間が止まっているような状態にはならず、完全にノンストップで進行しながら選択することになるので、最初は直感で選択していくといいでしょう。
選択肢は画面の下5分の1ほどの場所に表示されますが、このシーンになるとPS4の場合はDUALSHOCK®4の振動機能で知らせてくれます。PCやスマートフォンでの視聴では体験できないものなので、ちょっと嬉しい機能ですね。
ゲームっぽいならセーブ機能はあるの? と思う方もいるでしょう。いわゆるゲームのようなセーブ機能はありませんが、途中で観るのを止めても次回再生時はそれまでの状態を保持した状態で再開となります。もちろん、すべてをリセットして最初からやり直しこともできます。
また、ちょっとマニアックな視点からだと、選択した後も要注目です。データの読み込み時に画面が暗転することがなく、選択後もシームレスに映像が続いていきます。選択した結果の映像がすぐ流れるのですが、まったくもってシームレスなのでどんな仕組みでいつ切り換えているのかさっぱりわかりません。よくわからないのですがすごい技術を使っているは間違いないでしょう。
ゲームオーバー後の視聴し直しこそが伏線!?
選択肢は「多い」と思うほど物語の進行に挿し込まれるわけでもなく、また「少ない」というほどインタラクティブ性が足りないわけでもありません。また、そうして選択していった結果、アドベンチャーブック同様にゲームオーバーのような、バッドエンドで終わる展開も多くあります。筆者は1回目の視聴時は10分程度で最初に戻されてしまう展開になりました。
ゲームオーバーのときは適切な選択肢まで戻してくれるようになっています。このとき、そこまでの展開を復習できるような映像が流れるのですが(海外連続ドラマの冒頭シーンのように)、何度も同じルートを通ると主人公は前にもこういう展開があったような気がすると思い始めます。
そう、まるでアドベンチャーゲームをプレイしている途中でゲームオーバーになり、やり直しているかのように……!
ここまで書くと鋭い方ならお気付きでしょう。いわゆるメタフィクションのような構造が仕込まれており、それがストーリー上とても重要なものになっていきます。これ以上書くとネタバレになってしまいますので詳しくは書きませんが、観ている自分も登場人物のひとりのように思える場面もあり、筆者は「選択肢がある映画」以上のインタラクティブ性を感じてしまいました。
ドラマ内に登場するアドベンチャーブック版『バンダースナッチ』、ドラマ内で主人公が開発しているパソコンゲーム版『バンダースナッチ』、そしてこのドラマそのものである『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』……。この多重構造とも言える仕掛けは、これまでの映画やゲームでは得ることができなかった新たなエンターテインメント体験と言えるでしょう。
映画でもありゲームでもある、新しいエンタメ作品
ぜひ多くの人に体験してほしいのですが、とくに『Detroit: Become Human』や「ライフ イズ ストレンジ」シリーズのような海外アドベンチャーゲームが好きであれば、本作をいろんな角度から楽しむことができるでしょう。こうしたテレビゲームと決定的に違うのは、プレイヤー(視聴者)が主人公を移動させたりしないという点にあります。普通の映画と同じように物語が進んでいき、一定の場面で選択肢が出てくるので、体験としてはやはり映画に近いと言えそうです。
▲プレイヤーの選択で物語が大きく変化する『Detroit: Become Human』(PS4用ソフトウェア)。
ですが、あくまで「映画に近い」であって、普通の映画鑑賞ともまた違う感覚でもあります。物語の仕掛けに特徴があるせいか、観ている側も物語に参加している一員のような錯覚に陥ります。ゲームのようにキャラクターを操作しているわけではないのに、なぜかこの世界にどっぷりと漬かってしまうのです。
ゲームのような仕掛けがあるということは、視聴(プレイ)時間はかなり長いのではないか……と思っている人もいるかもしれません。これがいわゆる純粋な「ゲーム」としてリリースされていたら10~20時間はかかるものになっていたでしょう。本作はカテゴリー的には「映画」なので、何度も同じルートを選んでしまわないかぎり1時間30分程度で本来のエンディングに到達できるのではないでしょうか。
1時間30分程度でありながら、1本分のゲームをプレイした後のような濃密な体験を味わえます。「あれ? まだ回収し切れていない選択肢があったような?」ともう一度最初から観たくなったりもするでしょう。細かいネタ的な伏線も仕込まれているので、気になる人はぜひすべての選択肢とコースを視聴し、この世界をじっくり堪能していただければと……。
(ライター:松井ムネタツ)
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