11月22日(木)に発売されるPlayStation®4用ソフトウェア『シェンムー I&II』は、1999年と2001年に発売された2つのタイトルに、さまざまな改善点が施され、ひとつのパッケージになって登場するものです。これまで”伝説のゲーム”として、多くの人々から復活を待望されてきた「シェンムー」が、20年近くの時を経て、ついに現代に甦ります。
「シェンムー」の物語は、1986年の横須賀から始まります。主人公の芭月涼(はづきりょう)は、武術の達人である父を殺害した謎の男の行方を追って、香港に向けて旅立ちます。横須賀から香港、そして中国の桂林(けいりん)へと旅を続けるあいだに、涼は個性豊かな人物たちと出会い、彼らと友情を結び、そして時には死闘を繰り広げることになるのです。
2019年にシリーズ最新作『シェンムーIII』の登場が予定されている現在、そこに至る物語が描かれる『シェンムー I&II』は、文字通り世界中から復活が望まれていました。
しかし「シェンムー」はいったいなぜ、過去にプレイした人から発売当時を知らない若いゲーマーまで、今なお多くのファンを魅了し続けているのでしょうか? 全3回の特集記事で、その謎について考えてみたいと思います。
3Dオープンワールドの元祖として、多くのゲームに影響を与えてきた「シェンムー」
今からちょうど20年前の1998年にその制作が発表された「シェンムー」は、セガ渾身の超大作として非常に高い注目を集めました。パシフィコ横浜をはじめ、全国5都市で開催された制作発表会にはなんと、のべ3万人もの観客が集まるという盛況ぶりで、大きな期待が寄せられていたことが伺えます。
人気作の続編でもない完全新規タイトルである「シェンムー」の、いったい何がそれほどまでに人々を惹きつけたのでしょうか? それはこの作品が、当時のゲームの常識を凌駕するスケールの大きさを備えていたからです。国境を越えて広がる物語の壮大さはもちろんですが、なによりも発売当時は「FREE」(Full Reactive Eyes Entertainment)と名付けられたゲームシステムの自由度の高さと、それを実現するゲーム全体のボリュームに圧倒されたのです。
『シェンムー 一章 横須賀』(以下、『シェンムー 一章』)ではそのタイトル通り横須賀の街が、そして『シェンムーII』の前半から中盤にかけては香港の街が、3Dのオープンワールドとして緻密に描き出されています。現実の街をモデルにした3D空間を自由気ままに移動して、NPCと会話したり、ミニゲームやサブクエストに挑戦したりできるという、都市型オープンワールドを舞台にしたアクション・アドベンチャーゲームの元祖と言えるのが、じつは「シェンムー」なのです。この点はとくに海外で、「シェンムー」が今なお高く評価されている理由のひとつともなっています。
なかでも『シェンムー 一章』では、瓦屋根の日本家屋とコンクリートのビルが立ち並ぶ、特徴的な日本の街並みがリアルに再現されています。建物の多くはその内部に入ることも可能で、主人公の自宅に至ってはタンスの引き出しの中身まで作り込まれているというこだわりぶりです。
さらに、横須賀の街に暮らしている200人を超えるNPCは、全員の顔が異なるだけでなく、一人ひとりに名前と詳細な設定が用意されており、刻々と移り変わる時間に合わせてその人独自のスケジュールで行動しています。ラーメン店のおじさんが毎朝決まって野菜の買い出しに出ていたり、サラリーマンが仕事帰りにバーで酔っ払っていたりと、NPCを尾行してウオッチングしても飽きないほどの細かさです。
『シェンムーII』では、その舞台が日本から中国へと移ることで、そのぶん都市としてのスケールやマップの広大さは格段にアップ。なかでも中盤に訪れる九龍城は、1,000部屋とも言われる膨大な数の室内にすべて入ることができるようにするために、”マジックルーム”と呼ばれる技術で内装を自動生成しているのですからオドロキです。
また「シェンムー」には、時間の経過に応じて天候がリアルタイムに変化して、雨が降り出したり雪がうっすら積もったりするという要素も採り入れられています。現在のゲームでは当たり前となっている天候システムですが、『シェンムー 一章』では最初期ならではの実験的な要素として、物語の舞台である1986年の横須賀の、現実の天候を再現する試みまで行なわれています。そのため、ダイヤル式電話で177を回すと翌日の天気予報を聞ける、なんてことも。
さらに、イベントシーンの途中で表示されるボタンをタイミング良く押す「QTE(クイック・タイマー・イベント)」は、このあと「クイック・タイム・イベント」と少しだけ呼び名が変わって、その後のゲーム業界に広く定着することとなりました。同種のシステムは以前からも存在していましたが、これに「QTE」と名付けたのも、じつは「シェンムー」が最初なのです。
こうして現在のゲームの先駆けとなった「シェンムー」ですが、登場から20年近くを経た今となっては、そのゲームシステムにやや古さを感じてしまうところもあります。とくに時間を早送りできない『シェンムー 一章』では、「明日の12時に会おう」と言われて、その間はどうやって時間をつぶせばいいのか困ってしまうことも(ちなみに『シェンムーII』では、指定場所で”待つ”ことができるようになりました)。
ただ、そうしたゲームシステム自体、「シェンムー」から生まれたものがその後に少しずつ改良を重ねて、現在に至っているわけです。その意味で『シェンムー I&II』は、ゲームの歴史を感じることのできるセットだといえるでしょう。もちろん『シェンムー I&II』では、オリジナル版に比べてロードが早くなったり、『シェンムー 一章』ではどこでもセーブが可能になったりといった、より遊びやすくなる改善点も盛り込まれています。
『シェンムー 一章』では1986年の日本の日常生活が、リアリティたっぷりに味わえる
最初に少し触れたように、「シェンムー」の物語は、主人公である芭月涼の18歳の誕生日であり、衝撃的な事件が起こる、1986年11月29日の横須賀からスタートします。つまり『シェンムー 一章』が発売された1999年から、さらに13年前が舞台になっているのです。
1999年には携帯電話がすでに普及してきており、『シェンムー 一章』に登場するダイヤル式の黒電話は、過去のものとなっていました。また、商店街の人たちがにこやかに「涼ちゃん」と声をかけてくれるようなコミュニティの距離感も、1999年の時点ではすでに比較的珍しいものとなっていたでしょう。このように『シェンムー 一章』では、発売当時の基準でも”ちょっと懐かしい日本”が描かれているわけです。
1999年の時点で”ちょっと懐かしい日本”を、2018年の現在に改めて体験するのは、なかなかに不思議な感覚です。1999年当時は「さすがにこんなコテコテの番長やツッパリが登場するなんて……」と思ったものですが、現在ではむしろ新鮮に感じられます。こうした時代が一回りしたような感覚を味わうことができるのは、ファンタジーやSFではなくリアルな現実世界、それも現代の日本を舞台にしている『シェンムー 一章』だからこそでしょう。
現代の日本を舞台にしている都市型オープンワールドゲームといえば、同じセガの「龍が如く」シリーズが思い浮かびます。ですが、ドラマ的な味わいのある「龍が如く」に対して、『シェンムー 一章』では現代日本の日常生活を、よりリアルに再現しようとしています。芭月涼が道場に入るときに、毎回きちんと靴を脱いで構えのポーズを取るといった日常的な動作や、蛍光灯のヒモを2回引っ張ると豆電球が灯るといった日本家屋のディテールに対するこだわりが、『シェンムー 一章』のリアリティを支えています。
そんな日常生活に対する徹底したこだわりと、オープンワールド作品ならではの自由なゲームプレイが結びつくことで、『シェンムー 一章』はほかのどんなゲームでも味わえない、唯一無二のプレイ感覚を生み出しているのです。
一例を挙げると、主人公が毎朝500円のおこづかいをもらう3Dオープンワールドゲームなんて、世界広しといえども『シェンムー 一章』ぐらいでしょう(笑)。おこづかいを手にした芭月涼が「父親の仇を見つけるぞ!」と意気込んで街に出たものの、途中でゲームセンターとガチャガチャとスロットマシンについついハマってしまい、所持金がみるみる減ったあげく、何も手がかりをつかめずにトボトボと自宅に帰っていくことも(笑)。
とはいえ私たち自身、ふだんの日常生活で(父親の仇はともかく)似たような経験はしょっちゅうしているわけで、”なにもゲームでまでこんな思いをしなくても……”と思ってしまうような生々しさがあります。このように日本人の日常生活や、その中で味わう生々しい感覚を、ゲームの中で追体験できることこそが、『シェンムー 一章』の大きな魅力となっているのです。
あっ、もちろん『シェンムー 一章』にも、港の倉庫街でフォークリフトを運転するレース大会が開かれたりといった、ゲームならではのイベントもいろいろと存在していますけどね。
さて、今回説明したのは主に、横須賀を舞台にした『シェンムー 一章』ならではの魅力ですが、シリーズ全体を通した「シェンムー」の個性は、また別の部分に宿っています。中国の文化を背景にした壮大なスケールのドラマや、「バーチャファイター」にも通じる武術へのこだわりなど、次回は『シェンムーII』を中心に、このシリーズの魅力について考えていきますので、お楽しみに。
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シェンムー I&II
・発売元:セガゲームス
・フォーマット:PlayStation 4
・ジャンル:アクションアドベンチャー
・発売日:2018年11月22日(木)予定
・価格:パッケージ版 通常版 希望小売価格 3,990円+税
パッケージ版 限定版 希望小売価格 5,990円+税
ダウンロード版 販売価格 4,309円(税込)
ダウンロード版 限定版 6,469円(税込)
・プレイ人数:1人
・CERO:B(12才以上対象)
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