2016年に発売されて以来、時間を戻して選択をやり直すことができるシステムや、リアルに描かれたアメリカの田舎町の舞台、胸の痛むストーリーで話題となったアドベンチャーゲーム『ライフ イズ ストレンジ』(以下、LIS)。そして、そんな『LIS』の3年前を舞台に、複雑な家庭環境を持った2人の少女のやり場のない想いを描いた『ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム』(以下、『ビフォア ザ ストーム』)。海外でさまざまな賞を受賞し、ローカライズ版が発売されてからは、日本でもファンを増やし続ける本作を、電撃PlayStationが特集。
第2回となる今回は、「ライフ イズ ストレンジ」シリーズを愛してやまないスタッフ陣が作品への想いを語っていきます。記事にはネタバレ成分も多く含まれているため、ぜひ両作のプレイを終えてからチェックしてみてください。
レビューNo.01
ゲームという自由な場で”選択の重さ”に気付かされるとは思っていなかった
Writer:カワチ
人生は選択の連続です。しかもその選択は○×ゲームのようにすぐに正解がわかるものではありません。そもそも人生の選択に正解などあるのでしょうか? たとえば自分は今、ゲームライターをしていますが、ゲームの魅力を伝える仕事を楽しんでいる一方で、激務により体を壊すこともあります。もしも家業を継いでいたら………安定した生活はあったかもしれませんが、今の仕事の内容に満足できていたかはわかりませんね。結局、人生の選択なんて何かに折り合いを付けて生きていくのしかないのではないかと思います。でも、選択の結果をすべて見たあとに巻き戻って好きな道を選べるなら……。現実ではできないからこそ、そんなことを考えてしまいます。
もしも先のことを知って思うがままに人生を進めるとしたら? 過去の謎を解決できるとしたら? 不意にそんな能力を手に入れた少女・マックスの物語を描く『LIS』。その前日譚で、マックスの親友であるクロエの葛藤を描いた『ビフォア ザ ストーム』。自分がこのシリーズをプレイしてハッとさせられたのは「選択」するということの意味です。
“選択の結果を知ることができる”ということであれば、じつは『LIS』に限らず、セーブ&ロードができるゲームであればどれでも可能だったりします。むしろ、そのインタラクティブ性こそがゲームの特権であると思うので、ゲームで好きな未来を選べるというのは、ある種普通のことなんですよね。では、『LIS』の独自性は? それは主人公のマックス自身に時を戻す能力を与えたことで、キャラクターとプレイヤーに一体感を植え付けたこと。そのうえで、人生に最良の選択など存在せず、なにかしらの痛みや悩みを伴いながら進んでいくという真実を伝えたことではないでしょうか。もちろん、こまかい部分では正しい選択、利口な選択は存在します。たとえば、コップを倒して借りた本を濡らしてしまった場合。時を戻してコップをどかすこともできます。一方で、選んだ選択の結果がすぐにわからないもの、どちらの選択を選んでも誰かが傷つく展開が多いです。
事故で亡くなってしまったクロエの父親を救った場合、彼女のボロボロになった家族問題を解決することはできますが、その未来ではクロエは交通事故に遭って首から下が不随状態になってしまうことに。彼女の治療のために生活が苦しくなっている家庭の様子を見るのもつらいですし、なによりクロエから安楽死させてほしいと頼まれるシーンは本当に重いです………。はたしてなんでも選べること、なんでも知ることは幸せなのか? 皮肉にもゲームで、いやゲームだからこそ考えさせられることになります。
それは時を戻す能力がない『ビフォア ザ ストーム』でも同様。どちらを選んでも誰かが傷つくような選択をしなければなりません。そのため、自分はこの『LIS』と『ビフォア ザ ストーム』は人生の痛みと、それでも前に進んでいく強さを教えてくれる作品だと思っています。
ほかにも作品をプレイしていると、いじめや教育、ドラッグなど多彩な問題がテーマとして内包されていることに気付かされます。人々の生活や思考がリアルに描かれていることもあり、彼らに共感したり憤慨したり同情したりすることもしばしば。いろいろな感情を揺り動かされることになります。
ただ、ここまでの文章で誤解してほしくないのは『LIS』と『ビフォア ザ ストーム』は重いテーマを持った考えさせられる作品であるものの、基本はエンターテインメント精神のあふれる楽しいものであるということ。細部まで作り込まれたフィールドや良質なサウンドで彩られた世界観によって作られたアングラのパーティー会場などは本当にそこにいるかのようでドキドキしますし、普段は絶対に入ることができない女子寮のなかも違う意味でドキドキします。
加えて、思わず笑えたりスカッとするようなシーンも満載。『LIS』では時間を巻き戻せることを利用してドラッグの売人であるフランクの食べている食事を床に落として怒らせたり、拳銃の弾をビンに当てるゲームをしたところ跳弾した弾がクロエに当たって慌てて時を戻したりといったコミカルなシーンがあります。『ビフォア ザ ストーム』も口喧嘩で相手を言い負かす「バックトーク」のシステムが爽快ですし、TRPGを遊んだり学校演劇を代打でやることになったりとおもしろいシーンが満載です。フィールドにあるものを調べたときに聞くことができるウィットに飛んだセリフや、こまかくアップデートされる日記など、一度プレイしただけでは気付くことができない魅力が満載です。
また、この作品のおもしろいところは各エピソードを終えたときに他のプレイヤーがどのような選択をしたか参照できるところ。正解のない選択肢、究極の選択肢を選ぶからこそ、結果はバラバラになることがほとんど。どうして自分がそちらを選んだのか、またほかの人がどうして違う選択肢を選んだのか、クリア後もほかのプレイヤーと語りたくなる魅力を持つ作品です。E3 2018では『LIS』と同じ世界感を持つという『The Awesome Adventures of Captain Spirit』(※日本地域での展開は現状未定)も発表されました。ぜひこの機会に心揺さぶるストーリーに触れてみてもらいたいですね。
レビューNo.02
思春期の女の子って本当に面倒で、でも愛おしい
Writer:長雨
興味はあれどこれまで『LIS』にふれていなかったので、今回『ビフォア ザ ストーム』からスタートして『LIS』までプレイしました。『ビフォア ザ ストーム』の物語は、主人公のクロエが、いきなり線路上で列車に向き合うシーンからスタートします。さらには家を抜け出して危険なライブ会場に行くわ、強がって周囲にケンカを売りまくるわ……クロエは、私がイメージする海外ドラマの不良少女そのものでした。
平凡なティーン時代を過ごしてきた自分と違い過ぎて、最初は感情移入してプレイするというよりも、怖いもの見たさで彼女の生活に介入しているという感覚が強かったです。でも亡くなった父親への想い、母やその恋人・デイビッドとの確執……。物語を進めていくなかで多感な女の子だったら、嫌になって反発もするだろうなという面が見えてきて、彼女がかわいく見えるようになってきました。
だってクロエママが、彼女に他人であるデイビッドと良好な関係を作れ、だなんて無茶なことを言うわけですよ。じつの家族でもいい関係を築くのが厳しい思春期の女の子に(個人の感想です)。私もデイビッドのようなタイプはすごく苦手なので、彼女の態度や反応に納得しつつ、小気味よい切り返し方にスカッとしたりしていました。
不良少女のクロエですが、学校で観劇やゲームに誘ってくれる人もいて、問題児扱いとはいえ完全に孤立しているわけではないんですよね。また彼女の部屋に散らばった情報や、落書きの言葉選びのセンス、会話への反論を見ても頭の回転はかなり早いようですし……。悪いことはしているけど、悪にはなりきれていない女の子というのが私のなかのクロエ像です。
そんな彼女の運命を大きく動かすのが、学校の人気者であるレイチェル。家柄もいいし、教師の覚えもいいスクールカーストの頂点に君臨するようなタイプの女の子なのですが、この子もクロエに負けず劣らず思春期をこじらせているんですよ。各エピソードを通して、2人は友情とも愛情ともとれる絆を深めていきます。そのあいまいな関係と雰囲気が、個人的にはとても好きでした。
気に入っているのはレイチェルに遠足に誘われて、学校を飛び出して列車に飛び乗るシーン。不器用に会話する2人が青春映画のようで、微笑ましかったです。斜に構えたところのあるクロエも、なぜかレイチェルになら素直に悩みを話すんです。たしかに思春期の少女にとって、家族より友だちの方がいい場面っていくつもありますよね。
列車でいい雰囲気で話しをしていましたし、一緒に出かけたことで仲のいい友だちになったかと思えば、途中でレイチェルがいきなり怒りだして大混乱! クロエと一緒に頭に「?」を浮かべながら、何が悪かったの、レイチェル面倒な女の子なの? とおろおろ。結局怒った理由はクロエのせいではなく、レイチェルの家族に関わる問題だったのですが……。完璧だと思われていたレイチェルがクロエと同じように悩みを抱えているのは少し意外で、でも親近感がわいて、より好きになりました。
本作ではお金を盗むなど些細(?)なことから、以後の展開を変える大きなものまで、さまざまな選択をすることになります。クロエは危険な場所に出入りしているせいで、途中までは捕まったり、叩きのめされたりしてゲームオーバーになるんじゃないかとビクビクしながらプレイしていました。それが無用な心配だとわかってからは、気軽にいろんな選択肢を選んで遊んでいます。いろいろと試して、その結果を見られる……というのはゲームだからこそ体験できるおもしろさでもありますよね。ちなみに、積み重ねてきた選択しだいでは○○と△△が再会できるエンディングが見られたり……。個人的には本作のトゥルーエンドと思えた内容ですので、ぜひ見届けてほしいです。
そして、クロエやレイチェルのその後が気になって『LIS』の方もプレイしました! 舞台や主要な登場人物は同じですがクロエの日記に登場していた親友・マックスが主人公だったり、レイチェルがいなくなっていたり、違う世界に迷い込んだ気持ちになります。
さらに「時を少し巻き戻す能力」というシステムのおかげで、まったく違ったプレイ感覚が。『ビフォア ザ ストーム』が青春小説なら、こちらはSF的なプレイ感ですね。主人公のマックスは、クロエに比べるととっつきやすい普通の女の子。時間を巻き戻す特殊な力を、人助けなどまっとうに使っているのも偉いですよね。私なら、もうちょっと悪用してしまいそうです(笑)。
ただ学生生活の暗部も容赦なく描かれていて、物語はかなりヘビー。それでも、全エピソード読みたくなるシナリオ展開がすごい! とくにケイト関連のイベントは、胃が痛くなるような展開ばかり。最初のプレイで彼女は悲劇的な結末を迎えてしまって、小一時間ほどへこみました。時間を巻き戻す力を有効に活用し、未来を変えることができてどれほどホッとしたことか! まあ、すべての未来の選択が、よい方向に変えられるわけじゃないというのがポイントなんですけどね。
また『ビフォア ザ ストーム』でクロエとレイチェルをずっと見守ってきた身としては、2人が離ればなれになってしまったのが本当に切なかったです。クロエの”クロエらしさ”が変わらないことや、彼女の念願だった親友マックスとの再会など、安心できる部分もあります。でも、エンディングは……。個人的には受け入れられるけど、すごく考えさせられる内容でした。みなさんも2つの作品を通して、クロエという面倒だけど愛おしい女の子の生き様をぜひ見届けてください。
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次回第3回では、海外発のゲームを日本で楽しむためになくてはならない”ローカライズ”に着目! 「LIS」シリーズのローカライズディレクターを務める西尾勇輝さんと、『Detroit: Become Human』に携わったSIE シニアローカライズスペシャリストの谷口新菜の対談をお送りいたします。単なる”訳”にとどまらない、ローカライズというお仕事の奥深さに迫った内容となっていますので、ぜひお楽しみに!
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Life is Strange: Before the Storm (ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム)
・発売元:スクウェア・エニックス
・フォーマット:PlayStation®4
・ジャンル:アドベンチャー
・発売日:好評発売中
・価格:パッケージ版 希望小売価格 3,800円+税
ダウンロード版 通常版 4,104円(税込)
・プレイ人数:1人
・言語仕様:日本語吹き替え対応
・CERO:D(17才以上対象)
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