PlayStation®VRが目指す”誰も見たことのない未来”
ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアで制作技術責任者を務める秋山賢成は、PlayStation®VR(PS VR)の技術講演を多数実施し、技術デモの制作・ディレクションも行なっている。デビューからおよそ1年半が経ったPS VRのこれまでと今後の展望を、秋山はどう見ているのだろうか。
秋山賢成
ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア
ソフトウェアビジネス部 次長 兼 制作技術責任者
──はじめに、PS VRのコンセプトや目指しているところについて、あらためてお聞かせください。
PS VRの目指すものを端的に言えば、”ここにしかない体験”を提供することです。VRの中でできる現実の拡張だったり、夢の中の体験をすることだったりと、VRでしかできない新しい世界を目指すというのが、そもそものコンセプトです。
──PS VRの発売からおよそ1年半が経過した今、これまでを振り返ってどのように感じていますか?
ユーザーのみなさんにお楽しみいただけるよう、この1年半の間には、さまざまな挑戦がありました。VRはテレビの中だけではなくて、自分の上や下、後ろまで表現できるという、全方位の空間表現が可能です。開発側にしてみれば、なんでも表現できるようになった一方で、これまで培ってきたゲームデザインのロジックが通用しないことも出てきました。見てほしいポイントを作っているのに、そのタイミングでユーザーは上や後ろを向いているかもしれない。そこをどうやって導くのか、新しいゲームデザインへの挑戦も行なわれてきました。
VR元年として盛り上がった時期は、開発者みんなが新しい挑戦だったために知見をそれぞれシェアしていましたが、それが今では、「いかに独自色を出せるか」を考えるようになってきています。
──この1年半を経て、PS VRを今後どのように発展させたいとお考えでしょうか。
まずお伝えしたいことは、VRにはまだまだ掘り起こせる技術があるということです。ハードウェアの進化があれば、当然のことながら技術の発展は加速しますが、僕は今の技術でもより良い表現の可能性があり、演出の部分にも多くのアイデアが注ぎ込まれれば、もっといいものができる、よりすばらしい感動を与えられると思っています。これはPS VRに限らず、VRすべてに言えることです。
また、この1年半で、PS VRをご家庭やイベント会場などで多くの方に体験してもらうことを通じて、一般のみなさんの中でVRはこういう体験ができるものだという認知が拡大してきました。その結果、専門用語のように捉えられてきたVRという言葉が広く知られるようになり、AR(Augmented Reality=拡張現実)やMR(Mixed Reality=複合現実)といった言葉も浸透しはじめています。今後は認知拡大の次のフェーズとして、体験に特化したコンテンツ制作が進む時期に入っていくと思います。
実際に、コンテンツ開発側の考えが変わってきていることも感じています。当初はVRという新しい技術やサービスに対し、それに見合う新しいゲームやコンテンツを作らなければならないというムードが多くありました。もちろん間違いではないのですが、僕がいつも言っているのは、VRは新しいメディアになるということです。ある作品が生まれて、書籍化やコミカライズ、映画化やアニメ化など、さまざまな手段で伝えていく中に、VR化という新しい手段が増えた。では、VRを使って作品の何を伝えるか、どうやって伝えるかという考えがようやく生まれてきたのです。
──具体的に、どのようなコンテンツでVRの新しい体験提供の兆しを感じましたか?
特徴的だったのは『傷物語VR』です。開発の方とも話し合って、「傷物語」というアニメ作品の魅力を、VRでどのように伝えるかを掘り下げるところから始めました。この作品のすばらしい映像表現を活かすには、わざわざ3DCGに作り変える必要はなく、テレビやアニメの世界で長いあいだ培われてきた2Dの映像表現を、VRで伝えようということでまとまりました。そこから形になったのがアニメの映像をふんだんに使う、VRプロジェクションマッピングという表現です。
作品の持つ映像の価値をVRが拡張する、体験拡張のプロジェクトですね。クリエイターが表現したいことを、さらに拡張する手段のひとつとしてVRを使うという、面白いプロジェクトだと思います。体験したユーザーのみなさんからも非常にポジティブな感想が多くありましたし、『傷物語VR』を通じて「傷物語」のファンになったという方までいたようです。
──インディーズゲームでもVR作品がたくさん生まれています。少人数・低予算での開発になるため難しい部分はありますが、予想もしないアイデアや可能性を秘めているのではという期待感もあります。
インディーズとVR開発の相性は良いと思います。その理由のひとつが、自分でやりたいと思ったアイデアを、自分の判断で作り始めることができる点です。たとえば、大好きなアニメキャラクターに会いたいと思って、すぐに形にするというのは、大きなビジネスベースで考えると実行が難しい。権利や組織体制など、作り始めるまでにクリアしなければならないことが多すぎるからです。その点でインディーズは、まず作ってみて、思考錯誤を繰り返すことができます。その中で新しい表現のアイデアが生まれるかもしれません。
VRの技術進化で注目しているのは”声”の力
声を活かせばもっと深い感動が起こるのではないか
──ハードウェア技術が今のままでもVRは進化できるとのことですが、やはりVRハードウェアの技術進化は難しく、新型PS VRの登場は先の話になるのでしょうか。
新型PS VRについてはお答えできませんが、ソフトウェアは経験や使い方によって進化・発展が起こり、新しいものが次々と生み出されます。初代PlayStation®やPlayStation®2の時代を振り返ってみると、初期のゲームと5年後のゲームでは、同じハードとは思えないくらいクオリティの違いがありました。それはクリエイターの方の、努力や経験の蓄積があったからこその進化です。
これを踏まえて、僕がVRの技術進化でいま現在注目しているのは”声”の力です。VRの最もわかりやすい表現の特徴が映像なのは間違いないところですが、声を活かすことで、もっと深い感動が起こるのではないかと考えています。
VRヘッドセットを被ってヘッドホンを着けると、その世界の音しか聞こえない状態になるので、没入感を超えた「実在感」を体験するための環境はできあがっています。そこで物語を伝えるとき、映像だけでなく、ナレーターのすばらしい声が頭の中に語りかけてくる……。この声の表現を突き詰めることができれば、もっと深い感動や新しい体験が生まれると思います。
バイノーラル録音(実際に人が音を認知する状況と同じ条件の元で収録する録音方式)や、アンビソニックス(音の方向感も再現する3Dオーディオ技術)など、声と音の演出のチャレンジとして利用できる技術もあります。感動的で記憶に残り、10年後や20年後に思い出したときに涙するような体験が、声によって増幅できるのではないでしょうか。最近は個人的に研究を進めながら、クリエイターの方々にも話をしています。なかなか良い反応をもらっているので、いつか形になる日がくるといいですね。
今注目しているのは声の力ですが、VRが進化するためには、表現方法を突き詰めていく必要があると考えています。VRは単なる映像デバイスではなく、人間の感情を揺さぶる空間を作り出すことが得意ですから。
VRは人間の感情を揺さぶることを得意とする技術
VR空間ほどミュージックビデオに適した場はない
──ソニーのブランドプロモーション”Lost in Music”(ロスト・イン・ミュージック)の新プロジェクトについて教えてください。
“Lost in Music”は最新の技術を活用して、音楽ファンに新しい体験を届けるブランドプロモーションです。その活動の一環で、世界中で数百万枚のアルバムを売り上げているスーパースターのカリードさんとのコラボレーションによる、新しいVRミュージックビデオ「Young Dumb & Broke」の制作に協力させていただきました。通常であればミュージックビデオは、2Dの世界でアーティストの楽曲の魅力を表現するものですが、それをVR空間の中にマッピングしたとき何ができるのかを、ずっと考えていたんです。今回のプロジェクトで実際にカリードさんとお会いしましたが、ご本人はVRに強い興味をお持ちで、モーションキャプチャーの撮影でも長時間におよびご協力いただくことができました。ただ、元々のミュージックビデオがすばらしい映像作品でしたので、今回のVRミュージックビデオにもふんだんに取り入れています。
そもそも、VRコンテンツとして扱うミュージックビデオは、非常に作りやすい題材です。VRは人間の感情を揺さぶることを得意とする技術ですが、多くの音楽はAメロ、Bメロ、サビという盛り上がりがはっきりしているため、感情の起伏に訴える演出がしやすい。また、実際に撮影するとなると、ロケに出かけたりスタジオセットを準備したりと大変です。しかし、VRなら思い描いた空間をイチから作ることができ、現実でできない表現や演出を可能にします。そう考えると、ミュージックビデオを作るために、VR空間ほど適した場はないと思いますね。
これらの考えをふんだんに取り入れたのが今回の「Young Dumb & Broke」のVRミュージックビデオであり、実写のVRミュージックビデオとは制作の入り口が大きく異なります。VRは空間を自由に設計し、さまざまな演出を盛り込んで作ることができます。今回のVRミュージックビデオもその設計思想で制作されており、新しい体験を提供できると思います。ユーザーの方々もPS VRで実際に体験できる予定ですので、ぜひ楽しみにしていてください。
──ゲーム以外に、映像や音楽の分野でもVRの活用が広がり、新たな可能性が生まれているようです。その他にもVRが活用されている分野があれば教えてください。
たとえば、報道の分野です。一部の媒体では360度カメラで撮影した映像や静止画を、VR報道コンテンツとして公開しています。視聴者がその現場にいるかのようなVR映像で見ることで、”自分事”としてニュースの重みを感じられるようになる狙いがあるとお聞きしたことがあります。もし、視聴者の感情をもっと揺さぶり、自分事として感じるようにする手法があるとすれば、それは声や音の力を活かすことかもしれません。
医療分野でも、VRを活用する可能性が広がっています。手術は経験を積む場が多くあるわけでもありません。そこで、VRを使った仮想訓練が役に立ちます。じつは50年以上の歴史があるVRは、さまざまなトレーニングに利用されるケースが多くあるように、元よりトレーニングに向いています。名医と呼ばれる方が手術する様子をVRで体験し、多くの医師が勉強したり技術を共有したりすることもできるかもしれませんね。トレーニングという意味では、スポーツ分野でも可能性がありそうです。
教育の分野でも、さまざまなアイデアが生まれています。VRの面白さのひとつとして、誰かの追体験ができることが挙げられますが、歴史の教科書に載っているような人物や出来事を、VRで体験したらどうなるかが話題になっていました。きっと、教科書の文章を追うだけよりも、自分事として体験したことが強く記憶に残るのではないでしょうか。テストに役立つのはもちろん、子供たちが歴史に深い興味を持つきっかけになるかもしれません。
個人的に期待しているのは、2020年に東京で行なわれる国際的スポーツの祭典に向けたVRの活用です。競技を間近で見る体験はもちろん、海外から来日する人のために、日本がどういう国なのかをVRで伝えるのも面白いですね。このような大きな目標に向けての取り組みは、技術や表現を進歩させる可能性があるので、VRの普及にとっていい機会になると期待しています。
VRには形になっていない表現方法がたくさん隠れている
それを見つけ、拡張し、進化させるフェーズが待っている
──さまざまな分野で広がりを見せる一方で、ゲームはVR元年と呼ばれた盛り上がりから、いったん落ち着いたような印象を受けます。今の状況をどのように考えていますか?
いろいろな受け取り方があると思いますが、VRとは何か、どんな体験ができるものかを、広く一般に伝えることができたと思っています。新しい技術を搭載したデバイスがいきなり登場して、みんながすぐ手に取るわけではありません。VR元年の盛り上がりを通じて認知が広がり、そこから自分も体験したい、家に置きたいと思うのは次のフェーズです。
たとえばスマートフォンにしても、当初からこれほど普及すると考えていた人は少なかったはずです。初期の携帯電話はごく限られた層が持つものだったのに、現在フィーチャーフォンと呼ばれる携帯電話がだんだんと普及し、次にスマートフォンが登場したときは、タッチパネルよりハードボタンの方が使いやすいという声が多くありました。それでも、今や誰もがスマートフォンを持ち、タッチパネルを使いこなす時代です。当たり前に感じているものも、普及するまでには時間がかかります。
VRもまずは認知が広がり、便利なことやすばらしい体験ができるかがコンテンツによって伝えられると、どんどん普及が進んでいくのだと思います。特にこの1年半は、VR体験をわかりやすく伝えるコンテンツが多く作られてきました。海底まで潜ったり、ありえない高さで綱渡りをしたり、実際にできないことを、VR空間なら体験できるというインパクトを重視していたわけです。物を掴んで投げるなど、インタラクションを多く取り入れていたのも、その方が実在感を強く感じられるからですね。でも、VRの限界はそんなものではありません。今後登場するコンテンツは、これまで以上に多種多様な表現が用いられ、それぞれ魅力を感じた人の手に届いていくのだと思います。
──PS VRを含めたVR全体の今後の展望や、期待するところをお聞かせください。
VRには、まだ形になっていない表現方法がたくさん隠れているので、それを見つけ、拡張し、進化していくフェーズがこれから待っています。その役割を担うのは、やはりコンテンツです。VRという言葉が一般に浸透した今、実際の体験として広めていくには、コンテンツのクオリティをひたすらに上げていく必要があります。技術や表現を融和させることで、すばらしい体験がたくさん生まれてくるでしょうし、今だからこそできる準備や取り組みもあると思います。そして1年後か2年後、まったく新しい体験を与えてくれるコンテンツが出て、普及が進むことが、僕がこれから期待するVRの世界です。
“PS VRの達人”秋山賢成おすすめタイトル
バイオハザード7 レジデント イービル ゴールド エディション
まず、フルボリュームのPS4®タイトルを全編PS VRで遊べるのがスゴイ。一人称視点の恐怖体験という本来のコンセプトがVRに合っているので、恐さがさらに増幅されます。移動中の違和感を軽減する数々の工夫もすばらしいですね。ちなみに、少し変わった遊び方ですが、ヘッドホンを着けたうえで、振動機能付きのウェアラブルネックスピーカーを肩に乗せてプレイすると、演出に合わせて振動してものすごく恐いです!
BIOHAZARD 7 resident evil Gold Edition グロテスクVer.(新しいウィンドウで開く)
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実況パワフルプロ野球2018
「パワプロ」のデフォルメされたキャラクターでリアルさを体験できるか、疑問に思う方がいるかもしれませんが、本当にバッターボックスに立っているような感覚になれます。なにより、「パワプロ」独特の打撃音とともに打つのがめちゃくちゃ気持ちイイ! スタジアムを見回すと、観客や売り子さんまで再現されていますし、クオリティがとても高い。VRの気持ち良さをわかりやすく体験できるので、かなりおすすめです。
人喰いの大鷲トリコ VR Demo
大鷲トリコの迫力や、遺跡の狭い橋を渡っていく象徴的なシーンなどをVRで体験できます。しかも、原作の美しい映像表現の中に入るという体験になるので、ファンの方は間違いなく感動できると思います。VRは右目と左目の映像を両方作るため、通常のゲーム制作よりグラフィックのパフォーマンスを出すのは大変です。それなのに、トリコの羽の物量の多さや風景の美しさを再現しているのは、技術的に見てもスゴイことなんです。
人喰いの大鷲トリコ® VR DEMO(新しいウィンドウで開く)
オンライン配信版 無料
傷物語VR
VRプロジェクションマッピングという表現に挑戦し、映像作品にVRを使う新しい手法を見せてくれた作品です。この表現方法を突き詰めると、もっといろいろな可能性が生まれてくると期待させられました。今後はミュージックビデオやライブストリームなどでも、この手法を活かせるのではないでしょうか。もちろん、「傷物語」の世界観が演出として盛り込まれていて、体験した方の多くが好意的な反応を見せていたのも印象的です。
オンライン配信版 無料
Starblood Arena
対戦型のシューティングゲームで、VRを使ったマルチプレイ体験として今後の参考になりそうな作品です。VRのeスポーツタイトルとして取り上げるのも面白そうですね。ゲームプレイでは、視界が360度激しく回転しますが、個人差はあれ、これだけ動いていても酔いにくい。これはグラフィックのクオリティが非常に高いことに加え、動きの激しさに対して注視点がしっかりと定まっていることなど、酔い対策のノウハウが詰まっているからです。
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