破壊神となり、魔物の力を利用して勇者を倒す「勇者のくせになまいきだ。」(以下、「勇なま」)シリーズ。その最新作『V!勇者のくせになまいきだR(ぶいっ! ゆうしゃのくせになまいきだ りたーん)』(以下『Vなま』)が、PlayStation®VR専用ソフトウェアとして2017年秋に登場する。
プレイヤーは破壊神となり、食物連鎖の仕組みを利用して魔物を繁殖させ、迫りくる勇者を撃退しながら彼らの城を制圧していく。破壊神だけに許された”破壊神スキル”、魔物を吸ったり放ったりといったアクションを駆使して、世界を魔王色に染めあげよう。
PS VR専用とあって、今回はグラフィックもドット絵から3Dに進化。それに応じて、サウンドもゴージャスになっている。初代『勇なま』のテーマ曲では、サウンドを手掛けるノイジークロークのみなさんがリコーダーやピアニカをピープー吹いていたが、『Vなま』はなんとオーケストラ! 今年2月の収録の模様をレポートしよう!
テーマ曲はフルオーケストラ! グラフィックはもちろん音楽もゴージャスに!!
過去のシリーズ作品同様、『Vなま』のサウンドプロデューサー兼作曲家もノイジークローク代表の坂本英城氏が担当している。オープニングテーマをはじめとする楽曲のレコーディングは、2日間にわたって行なわれた。初日は木管楽器4名(フルート2名、クラリネット1名、オーボエ1名)を収録し、2日目はストリングス12名(バイオリン7名、ヴィオラ2名、チェロ2名、コントラバス1名)によるレコーディング。2日目、メインテーマの収録に合わせてスタジオにうかがった。
過去3作品では「すべてのはじまり」という楽曲をオープニングテーマとしていたが、今回は曲ごと一新。心機一転、新たなメインテーマが書き下ろされている。明るく勇壮な曲だが不協和音が混ざり、どこか不穏な気配を感じさせる楽曲だ。レコーディングルームには12名の弦楽器奏者が集い、収録は順調に進んでいる様子。前日に収録した音源を流し、それに合わせて演奏を収録しているようだ。「最後のスタッカートをやめてテヌートに」など、コントロールルームの坂本氏から指示が飛ぶだけでなく、奏者の間でも細かく意思統一を図っている。ゲームの制作スタッフからも「大事な曲なので、アタマから聴いていいですか?」との声が上がっていた。
OKが出たところで、今度は演奏者が座る位置を後ろに下げて再度同じ曲を録っていく。聞けば、マイクからの距離を変えて3パターン録音するらしい。これらの音を重ねることで、12人のストリングスが3倍の人数、つまり36人で演奏しているように聴こえるそうだ。
その後はほぼ録り直しもなく、レコーディングはスムーズに完了。「こんなに順調に進むレコーディングは、なかなかないです」と坂本氏も笑顔に。最後は、オーケストラのみなさんとノイジークロークのスタッフが記念写真を撮って終了となった。
楽曲収録風景と収録楽曲の動画も公開中!
『V!勇者のくせになまいきだR』 メインテーマ「魔界より魔ごころをこめて」ビデオ
『V!勇者のくせになまいきだR』 楽曲収録風景ビデオ
クレイジーな企画に、全力で応える音楽を――作曲家・坂本英城氏インタビュー
収録を終えたばかりのノイジークローク・坂本英城氏にインタビューを実施。「勇なま」の世界観を支える音楽制作の過程、ラスボスの楽曲やエンディングテーマの制作秘話などをうかがった。すぐそばには開発を手掛けるアクワイアのディレクター大橋晴行氏も控えており、時折会話に加わる場面も!
ノイジークローク代表 坂本英城氏。「勇なま」シリーズ全作品でサウンドプロデューサーを、『3』以降で作曲家も務める。
聴いた瞬間、「『勇なま』、ちゃんとしたな!」と気づいてもらえる音楽に
――「Vなま」の制作が発表された時、多くのファンが驚きました。坂本さんは、まずどんな感想を抱きましたか?
坂本:夢を見ているのかと思いました。そんなことができるのか、と。だって2Dがコンセプトのゲームですよ? 3Dを飛び越えて、いきなりVRと言われた時には戸惑いましたし、音楽も含めて「どうなるんだろう」と思いました。
――音楽は、どのように作っていったのでしょうか。
坂本:いつもアクワイアの大橋さんから、無茶なオーダーが来るんです(笑)。でも、今回は比較的無茶ではありませんでしたね。というのも、コンセプトがはっきりしていたんです。
このゲームは、常識が何も通用しない作品です。魔王が主役で勇者と戦うので、まず難しいのが勝利した時に気持ちいい曲ではダメということ。気持ち悪いけど気持ちいい、みたいな曲を作らなければいけないんです。曲を作る時の常識が一から違うので、頭の中をリセットする必要があります。
今回最初に来た発注は、”不可思議””奇妙”がテーマでした。参考曲として挙げられたのが『ホーム・アローン』『ハリー・ポッター』『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』。その時点で「ああ、なるほど。そういうことか」とすぐに理解しました。ただ、曲調の方向性はわかったのですが、いざ作るとなると「人は何を聴いて奇妙と感じるのだろうか」と哲学的な思考に陥ってしまって。例えば「ドラゴンクエスト」の錬金釜の音楽って、怖いし不思議じゃないですか。でも、死を感じさせるような曲ではありません。「あの感じは何だろう」「どうしてなんだろう」と、自分なりにいろいろ分析したり研究したりしました。その結果「こういう和声やメロディの運び方だと、人はほどよく不安になるのか」とわかってきたので、制作に着手しました。
――テーマ曲をオーケストラにすることは最初から決めていたのでしょうか。
坂本:『1』は、”小学生が授業で使う楽器で演奏する”というコンセプトでした。『3』からは弦楽器が入り、大人と子供のコラボレーションに。今回はVRですから、それなりにパワーアップしないと音楽だけ取り残されてしまいます。なので、自然とオーケストラになりました。
――”VR感”のようなものは意識しましたか?
坂本:意識していないですね(笑)。しいて言うなら、ミックスの時にリバーブ(残響)を強くするかもしれないです。空間を感じるエフェクトをいろいろと加えるかもしれません。
――開発中のゲームは試遊しましたか? それを踏まえて音の響き方をイメージするのでしょうか。
坂本:もちろんプレイしました。効果音とは違うので、楽曲ではあまりVRを意識しませんでした。「勇なま」シリーズの雰囲気は壊してはいけないので、今回もピアニカやリコーダーは入れています。いやー、あのふたつの楽器の破壊力はすごいです。これだけのオーケストラでも、あのふたつが入ることで急にしょうもない音楽になりますから(笑)。まとめていく力があるんでしょうね、あんな小さい楽器ですけど。
――『1』ではノイジークロークのみなさんがピアニカとリコーダーを演奏していましたよね。今回はいかがでしたか?
坂本:今回は打ち込みです。そのほうがいい音になるので。今まではどの楽器もヘタウマだったからいいのですが、今回はプロの方々が演奏しているので、そこだけ下手だとおかしいんです。かといって、今から上達させるにも時間がないので、打ち込みのほうがいいと判断しました。
――今までのシリーズからいちばん大きく変えたこと、逆に変えなかったことはありますか?
坂本:変えたのは、まず編成ですよね。リコーダーとピアニカ以外は、前作までに使った楽器はあまり積極的に使っていません。その一方で、本当に優秀な大勢のプロの奏者さんにご協力いただき、聴いた瞬間に「『勇なま』、ちゃんとしたな!」と気づいてもらえるよう意識しました。
変わっていないこととしては、以前使っていた楽器を踏襲していることと僕の作風ですね。曲の作風は変えられないので、メロディの変な運び方、和声のつなぎ方など僕の個性は残っていると思います。
ラスボスの曲は11拍子!? 「勇なま」らしさを受け継ぎつつ、直球のRPGサウンドを制作
――先ほど収録していたのはオープニングテーマですが、この曲についてアクワイアやソニー・インタラクティブエンタテインメントの制作スタッフからはどんなリクエストがありましたか?
坂本:どうだろう。難しかったですが、気づいたらOKになっていた……みたいな感じでした。
大橋:丸投げです(笑)。オープニングテーマについては、いちばん要望が少なかったですね。「メインテーマなので耳に残る感じにしてほしい」「覚えやすい、シンプルなメインフレーズで」と伝えたぐらいです。オープニング以外の楽曲から先に作ったので、「Vなま」のアイコンであるメインテーマを坂本さんがどう作ってくれるか、おまかせしました。エンディングも何も言いませんでしたよね。
坂本:壮大な曲も試しに作ってみたりしましたが、「違うな」と。やっぱり「勇なま」は、どこかチープ感を残したいんですよね。シンプルなメロディを繰り返して、それをメインテーマだと言い張って貫きとおす。これでいいのかなと自問自答しましたが、いつしか開発現場のみなさんも聴き慣れ、誰も何も言わなくなって今日を迎えました(笑)。
『1』から『3』のオープニングは、はまたけしさんという作曲家が作りましたが、『2』であのメロディをエンディングに使った時にすごくカタルシスを感じたんですね。ゲームを起動した時のメロディが、最後になってすごくいい編成でまた聴こえてくる。今回もそれをやろうと思い、エンディングの曲にはオープニングテーマのメロディを入れました。ほかには、ラスボスの曲の中のフレーズも、実はエンディングに入れているんです。大橋さんは絶対に気付いてくれると思っていましたが、結果として僕の自己満足に終わりました(笑)。
大橋:すみません、わかりませんでした(笑)。
坂本:エンディングは、オープニングテーマとラスボスの曲のメロディを混ぜた楽しい曲にしています。自分なりに、楽曲を追っていくうえでのストーリーを意識しました。
――「Vなま」の世界のラスボスは、どんな存在なのでしょうか。
坂本:「ラスボス」という曲がリストにあったので、それらしく作りました(笑)。イラストやCGなどの絵はあえて見ないようにしましたね。僕の中で、絵を見たほうがいい場合と見ないほうがいい場合があるんです。
――見たほうがいいのはどういうケースですか?
坂本:たとえばボスごとに曲が違う場合は、動きがわからないと曲が作れません。素早く動くのか、空を飛ぶのか、地中に潜るのか、すごく遅いけれど一撃が重いのか、その逆なのか。それによって曲調も変わります。
「勇なま」の場合はある程度察しがつくというのもありますが、それまでに作った曲とどう変えていくかのほうが重要。どんな勇者が出てくるかはあえて考えないようにしました。
――『1』から培ってきた経験値が、今回も活かされているのでしょうか。
坂本:そうですね。『3』のラスボスの曲は、5拍子だったんです。僕はTEKARUというバンドをやっているのですが(ノイジークロークの作曲家たちで結成したゲームミュージックバンド)、シンセサイザーの加藤(浩義)君がその曲をなかなか弾けなくて。最近ようやく弾けるようになってきたので、次のステップを目指そうということで今回のラスボスの曲は11拍子にしました(笑)。本当にどうでもいい理由なんです。
――次のTEKARUのライブで、その曲を聴けるかも?
坂本:あまり無理強いすると加藤君がTEKARUを辞めてしまう可能性もありますけどね(笑)。
――音楽全体に遊びを入れたり、仕掛けを入れたりはしましたか?
坂本:あまりないかな。ド直球を投げた気がしますね。
大橋:全曲を通じて、RPGらしさは込められていると思いました。
――では、発売を楽しみにしているファンに向けて、最後にひと言お願いします。
坂本:VRで「勇なま」を作ろうという発想自体が、クレイジーだなと思います。SIEさんにも「やりましょう」とハンコを押した人がいるわけですよね。寛大というか、すごいことです。それに呼応する音楽を作らなければいけないという気持ちで、僕も音楽制作に取り組んできました。「勇なま」の系譜の魅力を残しつつ、新しい音楽ができたという自負があるので、ぜひ音楽も聴きつつゲームも楽しんでいただきたいなと思います。
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V!勇者のくせになまいきだR(ぶいっ! ゆうしゃのくせになまいきだ りたーん)
・発売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
・フォーマット:PlayStation®4
・ジャンル:リアルタイムストラテジー
・発売日:2017年秋予定
・価格:未定
・プレイ人数:1人(オンライン時:未定)
・CERO:A(全年齢対象)
※PlayStation®VR専用
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