モチーフは『マッチ売りの少女』──物語に”首を突っ込む”VRならではの映像表現
無料配信中のPlayStation®VR専用コンテンツ『Allumette』は、アメリカのVRアニメスタジオPenroseが制作した約20分の映像作品。フランス語でマッチを意味するタイトル通り、アンデルセン童話『マッチ売りの少女』にインスパイアされた切ない物語を描き出している。
少女が1本目のマッチを擦ると、蘇るのは母と過ごした愛しい日々。2本目、そして3本目のマッチは、少女に何をもたらすのか……。2016年に開催されたトライベッカ映画祭のレッドカーペット・ワールドプレミアでも注目を集めた作品だ。
この作品が優れているのは、詩情豊かなストーリーだけではない。VRならではの映像表現でも、大きな注目を集めている。360°広がる世界は、まるで人形劇のステージのよう。どこでも好きなところを眺められるうえ、気になる場所に顔を近づけるとヘッドトラッキングによりその場所がクローズアップされる。さらに、壁を通り抜け、中まで覗き込めるのが最大の見どころ。例えば飛行船にグッと顔を近づけると、船内の機関室の様子がうかがえ、そこで少女と母親のドラマが始まる……といった具合だ。まさに、VRでしか成し得なかった映像表現と言えるだろう。
この作品を生み出したPenroseとは、どんなスタジオなのか。Penroseが目指す映像表現、作品の見どころ、PS VRの可能性について語っていただいた。
VRは映画以来の発明。将来VRコンテンツがストーリーテリングのスタンダードになる
――Penroseは、どのような目的で設立されたスタジオでしょうか。
Penroseのミッションは、次世代のヒューマンドラマを定義することです。これは、100年以上前に生まれた映画という発明以来の新しい芸術の形だと考えています。現在、我々はリアルタイムゲームエンジンに集中しています。なぜならこのテクノロジーが最もこの取り組みに適しているからです。
――主要メンバーご経歴、これまでに制作した作品についてお聞かせください。
Penroseの創設者は、ライター、ディレクター、プロデューサーであるEugene Chungです。彼はフィルム・ディレクターのキャリアを持ち、現在はARとVRに注力しています。以前はFacebookが200万ドルで取得したOculus VRのフィルム&メディア部門のヘッドを務めており、ストーリー・スタジオを立ち上げ、Pixerからのストーリー・ライターとアーティストをまとめ上げていました。Oculus在籍以前は、Pixer Animation StudioとNew Enterprise Associatesでキャリアを積んでいます。また、カリフォルニア大学バークレー校とハーバード大学の学位を持っています。
Jimmy Maidensは、VFX監督であり、マッド・サイエンティスト。Dreamworksのテクニカル・リード・アーティストとして12年間ものキャリアを持つCG映像のベテランで、『シュレック』や『マダガスカル』などの制作に携わってきました。真のCGジェネラリストである彼は、ライティング、モデリング、アニメーション、VFX、コーディング、レンダリング・スクリプト、コンセプトアートに至るまで幅広い専門性を持っています。また、VRマニアでもあり、彼のVRヘッドセットコレクションは膨大なものとなっています。
――『Allumette』は、アンデルセン童話『マッチ売りの少女』をモチーフにしています。この題材を選んだ理由や、童話を題材にする意図をお聞かせください。
Eugene Chungいわく「私は”献身”という考え方に魅了されています。私の母は自分を犠牲にしてでも、彼女が持てなかった類の機会を与えてくれました。その経験がこの物語へと導いたのです」とのことです。
――『Allumette』では360°の世界が表現されているだけでなく、気になるところに頭を近づけると拡大表示されたり、飛行船の中を覗き込んだりできます。まだ作品を見ていないプレイヤーに対し、VRならではのどのような映像表現が待っているのかご紹介いただけますか?
VRは全く新しい文法を持つ、新映像プラットフォームです。前後、上下、左右に自由に動くことができれば、プレイヤーが好きな方向を向いて自分の経験を選択できることになります。映画的なVR体験によって、物語はプレイヤー自身の経験としてもたらされることでしょう。そしてそれは大いに好奇心を刺激するはずです。
『Allumette』はプレイヤーが物語の世界を探索し、歩き回る力を提供しています。我々は町の群衆やボートを実在するものとして扱うことで、『Allumette』の経験を形づくりました。ぜひ、各オブジェクトに顔を近づけてみることをお勧めします、みなさんの顔はあるはずの壁を越えて、本来は見えないはずの内部を目にすることができるはずです。
――この作品は、人形劇を観ているようでありながら、自分自身がステージに入り込んだかのような感覚を味わえます。この世界がどのようにしてできあがったのか、制作工程についてご説明いただけますでしょうか。
多くの試行錯誤を経て、ミニチュアのセットとキャラクターを準備しました。そして、プレイヤーが現実世界にいながらにして神の視点と共にその世界に入れるようにすることが、『Allmette』のストーリー表現に最もマッチしていると気づきました。みなさんの眼前で展開する物語をお楽しみください。
――音で視線を誘導するなど、ビジュアル以外の演出にも工夫が凝らされています。演出面での見どころをお聞かせください。
Penroseの設立当初より、ストーリーを体験していただくうえではビジュアルとオーディオの双方がポイントになると感じていました。多くの場合、重要なことは視野の中で起きます。ですから、プレイヤーの視線をいかなる方向へも導けるように、立体的にオーディオを活用しています。また、視界内での出来事についても重要な要素が目立つように、モーションやライティングだけではなく適切な”合図”を入れています。
――何度見ても新たな発見がある作品です。作り手のみなさんは、どんなシーン、どのような映像表現に注目してほしいと考えていますか?
初めて体験する方には、「すべてのシーンを探索する気持ちでどうぞ」とお勧めしています。『Allumette』の世界では、知らないと見逃しがちな出来事も起きていますから。我々も、このプロジェクトが走り出してしばらくしてから、何度もこの世界を探索することでより多くの驚きに出会えることに気がつきました。
――VRアニメは、まだ市場にほとんど存在しないジャンルであり、既存の映画やアニメ、ゲームとは全く違う発想が必要ではないかと思われます。新たなジャンルを開拓するうえでのご苦労は?
おっしゃるとおり、これは「新しいアート・ジャンルとして世界を創造したい」というところから始まりました。この後、数十年の時を経たあとには、いかなる疑問にも応えられるようになっているべきです。ですが、我々はまだこの世界に踏み込んだばかりであり、その途上なのです。
――VRアニメを制作するうえで、どのような点に楽しさ、新しさを感じていますか?
ストーリーテリングと実際に旅ができる世界を構築する魔法についての説明は、大変困難です。ひとつ言えるのは、人々が『Allumette』の世界に初めて訪問し、体験する瞬間を見ると、非常に報われた気がするということです。このような体験を世界に発信できることに喜びを感じています。
――VRによって、映像表現は今後どのように変わっていくとお考えでしょうか。
100年も前に生まれた今日の映画やオペラのように、将来このような表現がストーリーテリングの標準的な形になると信じています。
――次回作のご予定についてお聞かせください。
我々は常に新たなプロジェクトに取り込んでいますが、今のところお伝えできる段階ではありません。
――PS VRに対する印象、同機の可能性についてお聞かせください。
初期のVRにおいてPS VRは正しい形であり、大きなポテンシャルを秘めていると思います。我々スタッフの多くはPlayStation®4を所有していますし、どれだけ普及しているかもよく知っていましたから、大きな飛躍を遂げると期待しています。没入型のVRを、多くの人が体験できるようになればうれしいです。
――プレイヤーの選択によってアニメの結末が変わるような、インタラクティブ性のある映像を作るお考えはありますか?
我々は継続的に新たなストーリーテリング手法と、それにふさわしいインタラクティブ性や適応性、世界観に応じたナラティブなコンテンツといったものを追求しています。
――日本のファンに向けて、メッセージをお願いします。
『Allumette』は老若男女を問わず楽しめる作品ですから、ぜひ多くのみなさまに体験いただきたいと思います。いずれ探索、共有といった素晴らしい体験も可能になることでしょう、今はその入り口に立ったばかりなのです。
▼PS VR『Allumette』の無料ダウンロードはこちらから
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Allumette
・発売元:Penrose Studios
・フォーマット:PlayStation®4
・ジャンル:VR映像
・配信日:好評配信中
・価格:無料
・プレイ人数:1人
※PlayStation®VR専用
※ダウンロード専用タイトル
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