8月20日(土)・21日(日)、”『マインクラフト』を、ゲームとしてだけでなく教育や学習に活用できないか?”というテーマで開催される特別イベント「MCEdu2016」(主催:MCEdu2016実行委員会、ICT/プログラミングスクール TENTO、早稲田大学グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所)が、都内・早稲田大学キャンパスにて開催された。
“冒険・ものづくりゲーム”とも呼ばれる『マインクラフト』(以下『マイクラ』)は、木や土、鉱物、動物など、すべてが立方体のブロックでできた世界で、手に入れた素材を使い、建物から食物までさまざまなものを作りだしながら冒険を楽しむサンドボックス型(砂場のように自由に遊べる)ゲーム。自分の創造力を活かした”ものづくりの楽しさ”を存分に味わえるゲーム性は、小学生を中心とした子どもたちからも大きな人気を博し、教育現場でも注目を集め続けている。こうした流れを受けて2014年からスタートしたのが「MCEdu」だ。
今回開催された「MCEdu2016」は第3回目のイベントとなり、『マイクラ』を軸に有識者によるさまざまなカンファレンスや、親子で参加できるワークショップが多数実施された。今回はその演目のひとつとして大きな注目を集めたスペシャルワークショップ「『マインクラフト』で作る夏休みの自由研究」の模様をレポートしよう。
宮沢賢治の名作「やまなし」の世界を『マイクラ』で再現!?
「『マインクラフト』で作る夏休みの自由研究」の会場にはワークショップに参加を希望する小学生、総勢20名が集まり、PlayStation®4版『マイクラ』のマルチプレイモードを使って夏休みの自由研究で発表できる作品づくりが行なわれた。
今回のワークショップは2部に分けられ、それぞれに10名ずつの小学生が参加した。第1部は国語の教科書などにも採用されている宮沢賢治の「やまなし」の一節を『マイクラ』上でビジュアルとして再現する国語のワークショップ、第2部はレッドストーン回路を使って2進法の原理を学べる”半加算器”を制作する算数のワークショップ。取材では第1部の国語ワークショップを見学することができた。
講師役を務めたのは、ICT/プログラミングスクールTENTOの代表・竹林暁氏。ゲストとして小金井市立前原小学校の松田孝校長も参加し、来場していた父母や各メディアに向けて『マイクラ』を遊ぶことで身につく学びや、教育的な視点から見た価値について解説した。また、第1部ではワークショップを実際に体験する特別ゲストとして、人気子役タレント・豊嶋花さんも参加した。
プログラミングスクールTENTOの代表・竹林氏。「プログラミングスクールの生徒が『マイクラ』を遊んでいて、”そんなに面白いなら”と自分も始めてみたところ、ハマってしまって……」とのこと。
タブレット端末などを活用したICT教育への積極的な取り組みで知られる松田校長。「今回のワークショップは、これから学校の授業に『マイクラ』を取り入れていけるかどうかの試金石のひとつ」と語っていた。
さまざまなドラマにも出演している豊嶋さん。「みなさんと一緒に『マイクラ』での自由研究を楽しみたいです」と挨拶。『マイクラ』はお兄さんがプレイしていて、この日のために練習もしてきたとのこと。
ワークショップでは「やまなし」の物語の舞台となる、川の底を模したフィールドを用意。参加した子どもたちの多くは『マイクラ』を経験済みのようで、スタッフの簡単な説明を受けながらブロックを積み上げ、着々と自分なりの「やまなし」のワンシーンをブロックで描き出していった。
竹林氏は「今回は作れる時間が限られているので、カニや魚など物語の中に出てくるキャラクターや、描かれている場面のどこを切る取るかを決めるといいですね」とアドバイス。
松田校長からは「「やまなし」はある教科書には40年前から掲載されている名作ですが、宮沢賢治の作品らしく解釈が難しいところや、読む人の想像で変わる部分もあります。その情景を『マイクラ』で作ることで、物語の中で対比されるものや、テーマなどが見えてくることもあり、作品への理解を深めることにつながると思います。クラムボンとは何なのか、自分なりに考えて表現するのも楽しいですよね」と説明が行なわれていた。
約90分の制作時間の中で、子どもたちはそれぞれ個性豊かな「やまなし」の情景を真剣に作り上げていく。レンガなどのブロックの質感を利用してカニのハサミをリアルに再現しようとする子や、スタッフにスマートフォンで川に棲むサワガニを検索してもらい、それを参考にリアルなカニを再現しようとする子など、表現や目指すものを実現するため情報収集の仕方もさまざま。自分の知識を活かしたアイデアや、ものづくりへの積極的な姿勢には、竹林氏も松田校長も感心しきりだった。
イベントの最後には、子どもたちが『マイクラ』で作り出した作品をプリントアウトし、再現しようとしたシーンや、その工夫について自由研究発表用の紙にまとめたものが発表された。
兄弟のカニの姿を立体的に作った子、川面を泳ぐ魚が鳥に捕獲される一瞬を再現した子など、シーンの切り取り方もさまざまだった。中には、透き通った黄色のブロックを置いて作中に”黄金(きん)の光”として描かれる太陽光を再現しようとした子も……。カニが吐き出す泡や魚のウロコなど細部のディテールもひとりひとり工夫のあとがあり、『マイクラ』の画面の中にそれぞれの子どもたちの個性を感じさせるバラエティ豊かな「やまなし」が描き出されていた。
特別ゲストの豊嶋さんはカニの兄弟の前にブロックで作った本を配置し、「やまなし」がカニのお兄さんが弟に本を読み聞かせているときの様子を描いた話で、”クラムボン”はその本の主人公だというオリジナルの解釈を披露。竹林氏、松田氏はもちろん、ワークショップを見学していた大人たちもこの発想には驚かされたようだ。
松田校長はワークショップ中、「『マイクラ』のようなツールによって、子どもたち自身が主体的に興味を持って学びを進められる場が簡単に生まれるようになってきています。これからの先生の役割はそういった生徒の学びに対し、ほめたり、助けたりするファシリテーターへと変わっていくのではないかと思います」とコメント。
さらに『マイクラ』のポイントとして「子どもたちひとりひとりが自分の能力や個性に応じて学びを進める”アダプティブラーニング”を自然に実践できる」ことを挙げ、『マイクラ』をはじめゲームを利用した教育について、教育現場に身を置くひとりとして大きな可能性を感じていることを改めて語っていた。
取材を行なったワークショップ以外にも多数のカンファレンスやセミナーが行なわれ、いずれも盛況だった今回の「MCEdu2016」。ゲームを基礎環境とした学習(GBL:ゲームベースドラーニング)や、ゲーミフィケーションに関する研究と合わせ、教育分野からゲームへの注目度の高まりを感じさせてくれるイベントだった。
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