10月13日(木)に発売となるPlayStation®VRのローンチソフトの中で、ひときわ異彩を放っているのが、PS VR対応タイトル『ローラーコースタードリームズ』だ。制作元のびんぼうソフトは、クリエイターの服部博文氏がひとりでゲーム開発を行なっている会社。
今回は、ひとりでゲームソフトを開発することへのこだわりから『ローラーコースタードリームズ』の全貌まで、服部氏にたっぷりとお話いただいた。
『ローラーコースタードリームズ』最新トレーラー公開中!
※トレーラーは英語版です。日本語版は日本語で表示されます。
【PS VR】”ようこそ。夢のバーチャル遊園地へ!”──『ローラーコースタードリームズ』を開発者自ら解説!
自分の作りたいものを自由に作る。ひとりで開発することへの徹底したこだわり
――最初に、単刀直入にお聞きします。ひとりでゲーム開発を続けているのはなぜですか?
一番の理由は、自分の作りたいものを自由に作れるからです。以前は、ゲーム会社でコンシューマ向けのプログラマーとして働いていましたが、やはり自分が作りたいものを作れるわけではなく、企画を出してもなかなか通りませんでした。でも、そうやってコンシューマゲーム開発の流れを見ているうちに、ひとりでも作れそうだと考えるようになったんです。
プログラムは中学生のころから経験を積んでいましたし、学生時代はひとりでPC向けゲームを開発していたので、やっていける自信はありました。コンシューマゲームの開発は、正規の開発機材を用意したり、規則に従った作り方やチェックが必要だったりしますが、開発そのものに関してはPC向けと変わらない、もしくは延長線上にあるものだと思います。開発機材の技術的な部分でわからないことがあっても、テクニカルサポートに問い合わせれば解決できますしね。
――誰かと一緒に会社を立ち上げようというお考えはなかったのでしょうか。
例えば、サウンド作りは苦手分野ですが、著作権フリーの素材を使うことで補えるので、誰かと組もうという考えはありませんでした。プロモーションや営業に関しても、当初はパブリッシャーを通して販売していたので、プロモーションをやっていただけました。今はパブリッシャーを通さずにダウンロード販売をしており、自分でプロモーションをしています。じつは、プロモーション活動は苦手というか、いまだによくわかっていないのですが、わからないなりに思考錯誤するのは意外と楽しいです(笑)。
――「びんぼうソフト」という会社名には、どのような由来があるのでしょうか。
小学生のころに自分で描いていた「びんぼうくん」という漫画から取りました。中学生時代からパソコンでゲーム作りをしていて、そこでも「びんぼうソフト」という名前を使っていたんですよ。その流れでなんとなくつけてしまったので、ひとりでお金がない、というような意味を持たせたつもりはありませんでした。ただ、実際に呼ばれてみると、恥ずかしい気持ちもあります(笑)。
そもそも、会社を設立しようという考えは持っていなかったのですが、コンシューマ向けに『ジェットコースタードリーム』を作ろうとしてパブリッシャーに問い合わせした際、法人でないと認められなかったことで仕方なく立ち上げた会社です。
――あくまで、ご自身の好きなことを自由にやるための会社ということですね。ただ、チームで開発することにも、同時並行的に分担作業できたり、アイデアを出し合って新たな発想を生んだりと、さまざまなメリットがあります。こうしたことについてはどのようにお考えですか?
チームで作ることの一番のメリットは、ゲームのボリュームを出しやすいところです。ですが、人数が10倍になったからといって成果が10倍になるとはかぎらず、5倍程度にとどまることはよくあります。人数が多くなるにつれ、意思の伝達やデータをやりとりする手間が増えたり、あまり仕事をしない人が混ざっていたりと、効率は悪くなっていくものです。人数に応じた効率というものは、ひとりが最大限に引き出せると思います。もちろん、ゲームのボリュームを出しにくいというデメリットはあるので、そこは時間をかけていくしかないですね。
開発期間はトータル5年半! 『ローラーコースタードリームズ』ができるまで
――今回の『ローラーコースタードリームズ』を、PS VR対応タイトルとして出そうとしたきっかけを教えてください。
あるとき、たまたま出向いた秋葉原の店頭でVR機器を体験する機会がありました。それまでは、本当に実物大の立体世界が見えるのかという懐疑的な思いもありましたが、スキージャンプのデモ映像を実際に体験してみると「これはすごい!」と感激したんです。
――スキージャンプのスピード感は、ジェットコースターに通じるものがありますね。
ジェットコースターや遊園地のゲームは、以前からVRに向いていると思っていました。PlayStation®2でリリースした『SIMPLE2000シリーズVol.33 THEジェットコースター』もヘッドマウントディスプレイに対応していましたが、当時の臨場感とは比べ物になりません。
VRを体験した当時、ちょうどPS4®向けに開発を進めていたところだったので、しばらくしてPS VRの発表を知ったときはうれしかったですね。開発機材の貸し出しについて、すぐに問い合わせしました。プロトタイプの機材をいただいて、PS VR対応への開発を始めたのは今から1年半ほど前ですが、以前からモデリング部分などは準備をしていたので、その期間を含めた開発期間は5年半といったところでしょうか。
――5年前というと、PS4®発売以前のことですね。その道のりを、もう少し詳しく教えてください。
元々は、私にとって4作目となるジェットコースターゲームをPC向けに作っていて、そのプログラムやモデリングを2年間続けていました。3年目にPS4®向けのグラフィック制作に移りましたが、このときはまだPS4®の開発機材がなかったので、アトラクションなどのモデリングを作りためていた状態です。
4年目に入ってPS4®の開発機材が届き、本格的な開発を始めました。同じC言語を使う点で、PCゲームとPS4®の開発環境は親和性が高く、テクスチャもDirectXのDDS形式で同じなので、準備していたものを移植しやすかったですね。その後、PS VRが発表され、PS VR開発に進んだという流れです。
――他のVR機器もあるなかで、PS VRでの開発を選んだのはなぜでしょうか。
個人的に、PS VRをとても気に入っています。デザインや装着感がすばらしく、性能面ではゲーム自体が60fpsで動いていても、リプロジェクション機能によって120fpsで表示できるので、滑らかで違和感のない世界を表現できます。
単純な性能でいえば、PC向けのVR機器が優れていますが、これを楽しめるハイエンドPCを持っている人はかぎられています。その点、PS VRはPS4®という同じ環境でたくさんの人が楽しめる。作り手として、これは大きな魅力です。
――PS VRでの開発にあたり、どのような苦労がありましたか?
開発機材がバージョンアップするたびにソースを変更するなど、初期ならではの大変さはありました。あとは、処理速度への対応が難しかったですね。テレビよりも負荷が高く、60fpsを保つという規定もあり、当初は非常に苦労しました。
――開発中のゲームを誰かに試してもらう機会があったかと思いますが、そのときの反応はいかがでしたか?
家族と友人、あとは取材にきていただいたメディアの方に試してもらったところ、いわゆる3D酔いを感じたようです。その後、VR開発のアドバイスをもらうため、ソニー・インタラクティブエンタテインメントさんに提出する機会があり、3D酔いの問題や対策をリスト化してもらいました。具体的なアドバイスをたくさんいただけたので、3D酔いの問題はかなり解決できたと思います。
――ローンチタイトルということで、すでにマスターアップに近づいている状況だと思います。やはり「出すならローンチで!」という思いがあったのでしょうか。
とくにローンチにこだわっていたわけではありません。当初はPS VRが2016年上半期ごろという話もあって、その場合はローンチに間に合うかギリギリの状況でした。結果的に発売が10月になり、開発に余裕ができたのはよかったですね。日本語版を発売したあと、海外向けの英語版ローカライズに移るつもりでしたが、両方ともローンチに間に合うことになりました。英語版へのローカライズも、私ひとりでやっています。
現在は、マスターアップに向けてデバッグ調整を進めています。ゲームの中身は今年2月にほぼ完成していましたが、思っていた以上に変更や修正が多いですね。ひとりでやっているとデバッグが弱くなるので、その時間を確保するため余裕のある進行を心掛けています。もっとも、デバッグしているうちに新しいアイデアが浮かんで、仕様を追加することも多いのですが(笑)。
作って遊べるバーチャル遊園地を3つのモードで満喫!
今回のインタビューによって、『ローラーコースタードリームズ』には「遊園地経営モード」「オンライン遊園地モード」「チャレンジモード」という3つのモードが用意されていることが明らかとなった。それぞれでどのような遊び方ができるのか、服部氏の説明とともにご紹介していこう。
【遊園地経営モード:評価を高めて来場者をアップさせよう!】
――本作のメインモードとなる、「遊園地経営モード」の目的を教えてください。
モードの目的は、遊園地の集客を増やして資金を貯め、施設を大きくしていくことです。アトラクションやジェットコースターを研究開発し、それらを適切に配置することによって遊園地の評価が高まり、来場者が増えていきます。
本作では、来場者に空腹度合いやストレスといったステータスを持たせていて、行動をシミュレートしています。アトラクションの近くにチケット販売所があったり、飲食店にはテーブルやイスがあったりと、どんな場所に施設を設置しているかによって評価が変わります。
――アトラクションには、どのような種類がありますか?
ジェットコースターをはじめとする乗り物系のアトラクションを豊富に用意し、これらは実際に乗っている景色を楽しむことができます。また、ボールをバケツに投げ入れたり、ゴーカートを運転したりと、ミニゲームとして遊べるアトラクションも14種類ほどあります。
――その中でもジェットコースターは、独自のエディター「カルモフ」によって自由自在に設計できるというわけですね。
はい。通常の座席のほか、ぶら下がり式の固定座席、ぶら下がり式で振り子のように揺れる座席など、いくつかの種類を選んで作成できます。距離にいちおうの制限はつけていますが、遊園地評価を考えなければ、3,000m級の長距離コースを作ることも可能です。個人的には、急回転や揺れを増やして恐怖感をあおるよりも、なだらかなカーブが続くほうが好きですが、プレイヤーそれぞれで好みが違うので、エディットの自由度は最大限に用意しています。
ちなみに、ジェットコースターエディター「カルモフ」は、そういう技術やツールがあるわけではなく、オリジナルのゲームシステムに名前をつけたものです。名前の意味はとくにない、単純な思いつきです。当初、「カモルフ」という名前を考えましたが、「カモる」を連想させると印象が悪いと思い、言葉を入れ替えて「カルモフ」になりました(笑)。
――PS VRによって、ジェットコースターの迫力を存分に楽しめそうですね。ほかのアトラクションやミニゲームも、すべてVRに対応しているのでしょうか。
タイトルメニューのVR切り替え設定によって、フリーウォークで園内を自由に歩き回ったり、いろいろなアトラクションに乗ったりと、全編VRで遊べます。普通のゲームでもVRで遊ぶと面白さのレベルは上がりますが、そこに頼るだけではダメだと考え、モニターでプレイしてもしっかり遊べるゲームを目指しました。
【オンライン遊園地モード:自慢の遊園地を世界中のプレイヤーに遊んでもらおう!】
――「オンライン遊園地モード」は、文字どおり本作のオンライン要素になるかと思いますが、具体的にはどのような遊びができるのでしょうか。
インターネット上にアップロードされた、他のプレイヤーの遊園地で遊ぶことができるモードです。「新着順」「オンライン入場者数順」「オンライン評価順」のランキングが一覧表示され、遊んだプレイヤーはその遊園地を5段階で評価します。この評価に応じたオンラインポイントが増えていくと、作成者が「遊園地経営モード」をプレイした際、CPU来場者数の増加に影響するようになっています。
――自分で作った遊園地を公開するには、どうすればいいのでしょうか。
「遊園地経営モード」で規定の年間入場者数をクリアすると、いったんエンディングを迎え、それからオンライン公開できるようになります。作り始めたばかりでガラガラの遊園地では評価が上がらないので、ある程度完成した状態から公開する条件を設けています。
条件達成後は、公開設定をオンにしておくことで一定時間ごとに自動アップロードされ、遊びながら最新データを公開できることになります。
【チャレンジモード:高ポイントを狙ってジェットコースターを設計!】
――「チャレンジモード」の遊び方を教えてください。
6つのステージがあり、それぞれに設定されたジェットコースター作りの条件をクリアしていくモードです。「スリル」「安全性」「バルーンポイント」といった項目がポイント化され、いかに高いポイントを獲得できるかを考えて設計することになります。
このうち「バルーンポイント」は、敷地内に浮いている風船をジェットコースターで割るとポイントを獲得できます。スピードが乗っているとポイントが増加したり、連続して割るとコンボポイントが発生したりする要素もあるので、一番ポイントが高いコースを探し、設計していく遊び方です。
――「バルーンポイント」を獲得するために、遊園地評価に反する設計も必要になりそうですが……?
「遊園地経営モード」と「オンライン遊園地モード」が互いに影響し合っているのに対し、「チャレンジモード」はこれらと切り離されたジェットコースター作りに特化したモードです。
ちなみに、オリジナルキャラクターのジェット博士は、このモードの案内役として登場します。ただ、ルールの説明を少しする以外は、どうでもいいことを喋っていますが(笑)。
本格的VR時代の到来! さらなる進化に向けてジェットコースターゲームを作り続ける!!
――PS VRと『ローラーコースタードリームズ』の発売が近づいてきました。今後の展望をお聞かせください。
進化したバーチャルリアリティの盛り上がりは、想像していた以上です。PS VRの発売によって本格的なVR時代が到来し、私が想像していた21世紀という未来の姿に、ようやく近づいてきたように思えます。近い将来、解像度がもっと上がっていけば、本物と見分けがつかなくなっていくでしょう。さらに進化したPS VRでも、また新しいジェットコースターゲームを作ってみたいですね。
――そのときも、やはりひとりで開発を?
そうですね。可能な限りはひとりでがんばってみたいと思っています。
――最後に、PS VRでの遊園地体験を楽しみに待っているユーザーへ向けて、メッセージをお願いします。
PS VRの臨場感で、実際に遊園地で遊んでいるような気分を楽しんでいただきたいです。ジェットコースターの組み合わせも無限で長く楽しめるゲームだと思うので、ぜひプレイしてみてください。
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ローラーコースタードリームズ
・発売元:びんぼうソフト
・フォーマット:PlayStation®4
・ジャンル:シミュレーション
・発売日:2016年10月13日(木)予定
・価格:未定
・プレイ人数:1人
・CERO:A(全年齢対象)
※PlayStation®VR対応
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